もくじ
第1回二つぐらいしか書きたいことがなくて。 2017-10-17-Tue
第2回所在無しみたいな所にボクはずっと生きてるような気がするんですよね。 2017-10-17-Tue
第3回世の中の物事は、「作品」と「商品」の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの?  2017-10-17-Tue
第4回「一旦保留にしようぜ」っていう人生相談もあっていい。 2017-10-17-Tue
第5回全然見たことがない人が喜ぶにはどうしたらいいんだろうってことばっか考えてました。 2017-10-17-Tue

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落語が好きです。

燃え殻×糸井重里</br>訴えたい事ってなんですか。

燃え殻×糸井重里
訴えたい事ってなんですか。

担当・サカイパンダ

はじめに言ってしまえば、
既にご存知の方ばかりでしょうが、
これは「ほぼ日の塾」から出された課題である。
塾の生徒40名が各々に
対談を編集したものであり、
時系列を組み替えていたり、
言っていない台詞が付け加えられていたりする。
その行いの一つひとつは、
意味を持って、意思を持って
丁寧に配置されている。はずである。
本来編集した者が前面に出るべきではない事を
承知の上で恐る恐る言いますと
私の場合は、
「小説とかって、何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか。」と言う
燃え殻さんの言葉の中にも、
何かしらの「訴えたいこと」があったのではないかと。
あるいは「訴えたい人」だったり。
その「訴えたいなにか」があったのではないかと。
その「なにか」の輪郭だけでも、
この対談で見つけられればと思いながらまとめました。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 二つぐらいしか書きたいことがなくて。

糸井
やろう。
燃え殻
あ、やりましょう。
糸井
えーと、まあ、みんなが気になることだと思うんですけど。
燃え殻さん、今、体大丈夫かなと。
燃え殻
あ、大丈夫ですけど、えーとね、
昨日3時ぐらいに仕事が終わりまして、
糸井さんの顔がちらついて、寝れない。
糸井
それは好きで?
燃え殻
あ、好きで。

糸井
けっこうものすごい取材受けてるでしょ?
燃え殻
サラリーマンなのに、はい(笑)。
糸井
サラリーマンなのにね。
燃え殻
はい。
6月30日に本が出て、そこから取材を。
ありがたいことに何十と。
糸井
何十と。
燃え殻
はい。
新聞とかもいろいろとお話をしていただいて、
糸井さんには相談させていただいたんですけど、
いろいろな方から来る質問が心苦しいいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
心苦しい(笑)。
糸井
答えてて。
燃え殻
答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
てことは、新聞で読んだ人は、
ウソを読んでるわけですね(笑)。

燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」とか
言われるじゃないですか。
で、本当はあまり意味がない。
ボク、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説とかって、何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか。
糸井
(笑)。
それは、例えば高村光太郎がナマズを彫ったから、
「高村光太郎さん、このナマズはなぜ彫ったんですか」って
聞くみたいなことですよね?
燃え殻
そうそう。
それでボクは答えなきゃいけないので、
この本はちょうど90年代から2000年ぐらいのことを
書いた本だから、
「90年代ぐらいの空気みたいなものを
一つの本に閉じ込めたかったんです」というウソをですね、
この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
もう、すらすらウソが口から流れるようになって。
糸井
的確なウソですよ(笑)。
燃え殻
もう「あ、なるほど」みたいな。
糸井
それでもいいやっていうウソですよね、でも。
燃え殻
多分それがいいんだっていう。
糸井
うんうん。
「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
で、おそらく読者と取材者に共通するのは、
「自分もその時代に‥‥」って話をしたがりますよね。
燃え殻
そうですね。
糸井
記者とかも、
「あ、その頃、僕もそこいたんですよ」みたいな。
燃え殻
で、「なんで書いたんですか」って言われるんですよ。
それはさっきみたいに、
「このあなたとボクのいた90年代を書いた小説というのは、
それほど今までなかったので、あのバブルが終わって」って。
これ本当によく言ってるんですけど、本当によく言ってるから、
もう普通にサラサラ、サラサラ出てきちゃう(笑)。
「バブルが終わって、でも、世の中にはまだバブルが残ってる。
ヴェルファーレがあったりとか。
で、そのまだらな世界というのを
ボクは一つの本に閉じ込めたかったんです」みたいな(笑)。
糸井
(笑)

燃え殻
そういうのをなんかやってて、
あ、でも、こういうこと言っとかないといけないんだな、
いろんな人たちが見てるし、
その場所にもいろんな人たちがいて、
その人たちが頷いてないと怖いじゃないですか。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
だから、頷いて、カメラマンの人も、
「ああ、わかった、わかった」って。
糸井
「ボクの話、良いですかね?」みたいな(笑)。
燃え殻
そう(笑)。
で、もう、なんか、
「ああ、最初はお前のことよく分かんなかったけど、
あ、そういうこと書いてる人なんだね」って
感じでシャッターを押してくれたりとか、
付き添いで来た人、絶対本を読んでないんだけど、
「あ、そういう本書いてんだ。
だったらまあ、いいんじゃない?」
みたいな感じで場が少し温まる。
温まりたいから、それをずっと言うっていう(笑)。
糸井
ウソをずっと言う(笑)。
燃え殻
何度か受けた取材の中で、
答えが決まってるのがあったんですよね。
シートが来たんです。
それにボクの答えが書いてあったんです。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
違うこと言ってもいいと。
ただ、一応答えは用意してきましたっていうのがあって、
「スマホで書いたことによって、スマホ世代の人たちに読まれる小説になりました」って書いてあったんです。
糸井
ああ‥‥。
燃え殻
で、「そうじゃなくてもいいんですけど、
一応答えは書いてきました」って。
それで、「あ、そうですか」って言って、
流れの中で話してて、ちょっとそれがやっぱり‥‥
糸井
引っかかる(笑)。
燃え殻
引っかかる(笑)。
糸井
引っかかるよね。
燃え殻
引っかかる自分というのがいて。
本当はWordが使えなかったりとか、
あと移動の時間とか普通に仕事してるので、
移動の時間とかに書くことが一番効率がよかったんですよね。
糸井
うんうん、実は(笑)。
燃え殻
実は。
で、日比谷線の中だったりとか、
そういうことも出てくる小説だったので、
日比谷線の中で書いてると都合がいいんですよ。
で、書いているっていう話だったんですけど、
ちょっとそれにスマホ世代の人たちを意識して書いたボク
っていうのも入れてる自分、
フレーバーのように入れてる自分がいて‥‥
糸井
マーケティングだよね(笑)。
燃え殻
うっすらとその答えに沿わせたんですよ。
糸井
ああ。ちょっと重いよねえ。
燃え殻
それが仕上がってくると、
そこが強調されて出てきたりとかする。
糸井
他人が言ったら、「えー?」って思うことを
自分が言わなきゃいけないんだよね。
燃え殻
そうそう。
だから、本当は会社の行き帰りと、
あと寝る前で途中で起きて書くっていうことが
ほとんどだったんですけど、
多分、この小説の中では二つぐらいしか書きたいことがなくて。
糸井
ほう。

燃え殻
それは書きたいことというか、訴えたいことじゃないんです。
書いてて楽しいみたいな。
糸井
自分が嬉しいこと。
燃え殻
それが二つぐらいあって。
糸井
うんうん。
燃え殻
ひとつは、ゴールデン街で朝寝てたんですよ。
これ本当にあったんですけど、ゴールデン街の狭い居酒屋、
まあ、居酒屋しかないんですけど。
糸井
そうだね(笑)。
燃え殻
ゴールデン街の半畳ぐらいの畳のところに寝てたんですよ。
で、寝てたらボクの同僚が、
えーと、ママ、パパ、ママみたいな人と‥‥
糸井
ママ的なパパ。
燃え殻
ママ的なパパと朝ご飯をつくっていて。
で、すごいほうじ茶を煮だしてて、ご飯の匂いがするんですね。
で、外の網戸をパーッと開けて、雨が降りつけてるんですよ。
でも、お天気雨みたいな感じで、日が差してるんです。
多分、まあ、七時前かなぐらいの時間で、
今日仕事に行かなきゃなって思いながら、
すごいけっこう頭が痛いんだけど、
で、その同僚とママとの何でもない
会話を聞きながらボーッとして。
糸井
うん。
燃え殻
なんかもう一度二度寝しそうで、
まだでも、そんなに寝落ちはしない。
で、なんか今日、イヤなスケジュールが入っていなくて、
昨日イヤなことがなかったから、
ああ、昨日イヤだったなあみたいなことはない。
で、体に、まあ、ありがたいことに、
内臓だったりなんか痛いところがない。ていう1日を‥‥
糸井
よいですね。
燃え殻
1日っていうのを書いてるときは、気持ちがよかった。
糸井
うんうん。

燃え殻
で、もう一つはラブホテルの、
まあ、このロフトで言うのも何ですけど、
そのときに、外が真っ暗で、
これは朝なのか夜なのかわからなくて、
なんかもう喉がカラカラ乾燥してるから、
ポカリスエットなかったっけなって一緒に探す。
で、まあ、お風呂でも入れなきゃいけないって
お風呂のほうに行ったら、
下のタイルがすげえ冷たくて、
まあ、安いラブホテルなんで、
お風呂のお湯の温度が定まらないんですよ。
「アツ! さむ!」みたいな(笑)。
糸井
うん(笑)
燃え殻
で、そのときに、でも今日、
これからまた仕事なのかって思いながら、
「地球とか滅亡すればいいのにねえ」みたいなことを、
ああだこうだとそこにいた女の子と言ってるんですね。
その女の子もまた適当な子で、全然働く気がなくて、
っていう朝の一日っていうそれを書いてるときは楽しかった。
糸井
書いてるときは楽しかった。
燃え殻
ってことを新聞記者の人に言うと、「ふざけんな」って
言われるじゃないですか。
「知らねえよ」みたいな。
でも、それを書きたかったんですよねえ。

(つづきます)

第2回 所在無しみたいな所にボクはずっと生きてるような気がするんですよね。