もくじ
第1回なんで思うだけじゃなくて、書きたいんだろう。 2017-10-17-Tue
第2回自分のためのものじゃない世界を書くということ。 2017-10-17-Tue
第3回“ウソ”が“気付き”になっていく体質。 2017-10-17-Tue
第4回リズム&ブルースの流れるジュークボックス 2017-10-17-Tue
第5回自分を「いったん置いとこうか」って思ったりしながら、生きていく。 2017-10-17-Tue

こどもの医療機関で広報・PR・Webサイト運営、ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事しています。

ずっと終わらないリズム&ブルースの訳

ずっと終わらないリズム&ブルースの訳

担当・佐藤 徹

9月1日(金)に発売となる「ほぼ日手帳2018」の発売を記念して、
「銀座ロフト」3階の特設スペースでイベントを開催。
その中のスペシャルトークイベントとして開催された対談で、
燃え殻さんと糸井重里が話しました。

処女作の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を出版され、
徐々にベストセラーの兆しも出てきた燃え殻さん。
「140字の文学者」とも呼ばれる一ツイッターユーザーから
突如、7万部以上のベストセラー作家になられた燃え殻さん。

話題は手帳のことから、小説のこと、書くことへと広がるにつれて、
人やものごととの付き合い方の語らいへと
姿を変えていきました。

プロフィール
燃え殻(もえがら)さんのプロフィール

第1回 なんで思うだけじゃなくて、書きたいんだろう。

糸井
まあ、ご承知のとおりの人たちが集まってると思うんですけど。燃え殻さん、今、体大丈夫かなと思っていたでしょう、みんな。
燃え殻
あ、大丈夫。ただあんまり、昨日寝れなかったんですよ。
糸井
あ、どうしたんですか。
燃え殻
昨日3時ぐらいに仕事が終わりまして、糸井さんの顔がちらついて、寝れない‥‥
糸井
それは好きで?
燃え殻
あ、好きで。
糸井
(笑)
燃え殻
(笑)。銀座ロフトさんに来たこともなかったので、すげえ早く来て、グルグル回ってました。
糸井
なんかずいぶん早く来てるって噂は入ってきてまして。
燃え殻
あ、本当ですか。
糸井
うん。ぼくはその頃お風呂に入ってて‥‥
燃え殻
ああ、いいですね。
糸井
1時間ぐらい入ってたんですよ。で、土日はわりとお風呂に入ってネット見たり本読んだりしてるんで、ここで1キロぐらい痩せるんですね(笑)。
燃え殻
素晴らしい。いいなあ。ぼく、お風呂で本を読むというのが、一番至福だと思ってて。で、糸井さんがそれをずっとやってるって聞いたので、ちょっと真似しようかなって。
糸井
あ、してください。いいですよ。えーと、体は大丈夫ですかっていうのは本当に聞いてるんですけども、けっこうものすごい取材受けてるでしょ?
燃え殻
サラリーマンなのに、はい(笑)
糸井
サラリーマンなのにね。
燃え殻
はい。6月30日に本が出て、そこから取材を、ありがたいことに何十と。
糸井
何十と。
燃え殻
はい。
糸井
はぁー。
燃え殻
新聞とかもいろいろとお話をしていただいて、糸井さんには相談させていただいたんですけど、いろいろな方から来る質問が心苦しいいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
あ、てことは、新聞で読んだ人は、ウソを読んでるわけですね(笑)
燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」とか言われるじゃないですか。で、本当はあまり意味がない。
ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、小説とかって、何か訴えなきゃいけないことがないと書いちゃいけないんですか。
糸井
(笑)。それは、例えば高村光太郎がナマズを彫ったから、「高村光太郎さん、このナマズはなぜ彫ったんですか」って聞くみたいなことですよね?
燃え殻
そうそう。で、「それはすごく社会的に実は意味があることなんだ」みたいな話というのは、高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。横尾さんに聞いたら怒りますよね。「だからダメなんだよ」。
燃え殻
横尾さんはそれで良いと思うんですけど。ぼくは横尾さんじゃないので、もちろん答えなきゃいけない訳で。
この本はちょうど90年代から2000年ぐらいのことを書いた本なので、「90年代ぐらいの空気みたいなものを一つの本に閉じ込めたかったんです」というウソをですね、この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。もうスルスル、スルスル、ウソが口から流れるようになってしまって。
糸井
的確なウソですよ(笑)。
燃え殻
もう「あ、なるほど」みたいな。
糸井
それでもいいやっていうウソですよね、でも。
燃え殻
多分それがいいんだっていう。
糸井
うんうん。「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。で、おそらく読者と取材者に共通するのは、自分もその時代にって話をしたがりますよね。
燃え殻
そうですね。
糸井
記者とかも、「あ、その頃、ぼくもそこいたんですよ、レッドシューズ」みたいな。
燃え殻
ああ、そう。新聞の人とか、同年代で、けっこう文芸の記者の方とかが、ぼく、43歳なんですけど、40代中盤から後半ぐらいの人多いんです。で、来ると、「いやあ、読みましたよ」みたいな。で、「あなたはこういうこと書いていて、なるほど、大体近いとこにいたんで、ぼくの話聞いてもらっていいですか」って話し出したりして。で、「ああ、なるほど、あ、そうですか」って。
もちろん学歴があって新聞社に入られたりとか雑誌の編集の方なの、皆さんすごい良いかたちで社会に出てきてるじゃないですか。だから、そこにぼく、行ったことが1回もないんですけど、「一緒ですよ」とか言われて、一緒じゃねえよと思いながら(笑)、「あ、そうですね」みたいな。
で、「なんで書いたんですか」って言われるんですよ。それはさっきみたいに、「いや、その90年代の・・・」――っていうフレーズを本当によく言ってるから、もう普通にサラサラ、サラサラ出てきちゃう(笑)。
「バブルが終わって、でも、世の中にはまだバブルが残ってる。ヴェルファーレがあったりとか。でも、山一證券はなくなってしまって。で、そのまだらな世界というのをぼくは一つの本に閉じ込めたかったんです」――ウソ、みたいな(笑)。
糸井
(笑)
燃え殻
そういうのをなんかやってて、「あ、でも、こういうこと言っとかないといけないんだな」と。いろんな人たちが自分を見てるし、その場所にもいろんな人たちがいて、その人たちが頷いてないと、何となく怖いじゃないですか。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
だから、カメラマンの人も“ああ、最初はおまえのことよくわかんなかったけど、あ、そういうこと書いてる人なんだね”って頷いてシャッターを押してくれたりとか。
そのカメラマンについてきた人も、たぶん絶対本を読んでないんだけど、“あ、そういう本書いてんだ。だったらまあ、いいんじゃない?”みたいな感じで場が少し温まる。温まりたいから、それをずっと言うっていう(笑)。
糸井
ずっと言う(笑)。
燃え殻
そう。で、それがアップされる日がけっこう近いんですよ、その1個1個が。だから、「同じことばっか」っていうのがネットに上がって、全然関係ない人とかから、「おまえ、いつも同じこと言ってくだらねえ」とか、「宣伝男」みたいなこと言われて(笑)。
糸井
(笑)。三谷幸喜さんみたいになるとね、映画、撮ったばっかりのときにさ、さあ上映だってときにいっぱいテレビに出るじゃないですか。で、やっぱり同じようなこと聞かれて、で、恥ずかしそうに悪い気もしないみたいな感じで出てるから、あの人もやっぱり宣伝男みたいに言われるだろうし、ちょっと不本意なのかもしれないですね。
燃え殻
あ、そうなんですか。だから、本当は会社の行き帰りと、あと寝る前で途中で起きて書くっていうことがほとんどだったんですけど、そのときなんて、多分、この小説の中では2か所ぐらいしか書きたいことがなくて。
糸井
ほう。
燃え殻
それは『書きたいこと』であって、『訴えたいこと』じゃないんです。『書いてて楽しいこと』みたいな。
糸井
『書いてて楽しいこと』。うんうん。
燃え殻
……が2か所ぐらいあって。まあここには、読まれてない方がいっぱいいると思うんですけど(笑)。
で、ぼくは書いてて、ゴールデン街で朝寝てたんですよ。これ本当にあったんですけど、ゴールデン街で‥‥
糸井
ゴールデン街の外で寝てたわけじゃないでしょう?
燃え殻
外で寝てたんじゃなくて、ゴールデン街の狭い居酒屋、まあ、居酒屋しかないんですけど、ゴールデン街。
糸井
そうだね(笑)。
燃え殻
ゴールデン街の半畳ぐらいの畳のところに寝てたんですよ。で、寝てたら、ママがぼくの同僚と朝ご飯を準備してて。ほうじ茶を煮出してて、ご飯の匂いがするんですね。
で、外、網戸をパーッと開けると、雨が降りつけてるんですよ。でも、お天気雨みたいな感じで、日が差してるんですよね。何時かちょっとよくわからないんだけど、多分まあ七時前かなぐらいの時間で、今日仕事に行かなきゃなって思いながら、ぼくはけっこう頭が痛いんですけど。
で、そのぼくの同僚とママとの何でもない会話を聞きながらボーッとして、なんかもう一度二度寝しそうで、でも、まだそんなに寝落ちはしない。で、なんか今日、嫌なスケジュールが入っていなくて、昨日嫌なことがなかったから、「ああ、昨日嫌だったなあ」みたいなことはない。で、まあ有り難いことに、身体にも内臓だったりなんか痛いところがない……っていう。そんな1日を書いてるときですかね。
糸井
あ、よいですね。
燃え殻
で、もう一つはラブホテルの……まあ、銀座のロフトで言うのも何ですけど。そのときに、朝、真っ暗で、これは朝なのか夜なのかわからなくて。まあ、自分の下着と、なんかもう喉がカラカラ乾燥してるから、ポカリスエットなかったっけなって一緒に探す。で、お風呂でも入れなきゃいけないってお風呂のほうに行ったら、下のタイルがすげえ冷たくて。まあ、安いラブホテルなんで、お風呂のお湯の温度が定まらないんですよ。「アツ! さむ!」みたいな(笑)。
で、そのときに、ああ、でも今日、これからまた仕事なのかって思いながら、「地球とか滅亡すればいいのにねえ」みたいなことを、ああだこうだとそこにいた女の子と言ってるんですね。その女の子もまた適当な子で、全然働く気がなくて……っていう朝の一日っていうのを書いてるときは楽しかったんです。
そんなことを新聞記者の方に言うと、たぶん「ふざけんな」って言われるじゃないですか。「知らねえよ」みたいな。でも、ぼくはそれを書きたかったんですよねえ。
糸井
今日はほぼ日手帳のイベントなんで、「書く」って話になるんじゃないかと思って、いずれそういう話をしようと思っていたら、今まさしくその話になったんですね。
で、人は「思う」だけじゃなくて「書く」っていうとこに行くじゃないですか。思ったときにすぐ書くとは限らないんだけど、なんか覚えとこうと思うだけで、なんかいいですよね。
燃え殻
そう、そうですね。
糸井
で、なんでその「思うだけじゃなくて書きたいんだろう」っていうところが何なんだろうねって話を、じゃ、もうしてみましょうか(笑)。
燃え殻
しましょうか。


(つづきます)

第2回 自分のためのものじゃない世界を書くということ。