もくじ
第1回ぼくだけが見ている景色 2017-10-17-Tue
第2回俺のリズム&ブルース 2017-10-17-Tue
第3回日本寛容党 2017-10-17-Tue
第4回得ること、捨てること 2017-10-17-Tue
第5回保留して、生きる。 2017-10-17-Tue

とや さとる・1989年生まれのデザイナー。テレビ、音楽、インターネットが好きです。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

燃え殻さんと、書くにまつわるお話を。

担当・戸谷 慧

「ほぼ日手帳」の発売にあわせて、
銀座ロフトで開催されたトークイベントの様子をお届けします。
ゲストは、燃え殻さん。
小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が6月に
書籍化され、増刷が決まるなど、話題になっています。

その小説はもちろん、燃え殻さんが手元に残している
21冊の手帳をきっかけに、書くことから、人生の話まで。
年の離れた友人のような、
ふたりのキャッチボールをお楽しみください。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 ぼくだけが見ている景色

糸井
やろ。
燃え殻
やりましょう。
糸井
けっこう、取材受けてるでしょう?
からだ大丈夫?
燃え殻
サラリーマンなのにね(笑)。
ありがたいことに何十と受けてるんですけど。
糸井
はい。
燃え殻
ウソをつかなきゃいけない自分が、
心苦しいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
なんでこの本を書いたんですか
って聞かれるじゃないですか。
糸井
うん。
燃え殻
ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説とかって、何か訴えたいことがないと
書いちゃいけないんですか。
糸井
(笑)
燃え殻
「90年代ぐらいの空気をこの本に閉じ込めたかったんです」
というウソを、この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
会場
(笑)

糸井
それでもいいやっていう、的確なウソですよね(笑)。
燃え殻
本当は書いてるときなんて、
2か所ぐらいしか書きたいことがなくて。
それも訴えたいことじゃないんですよ。
書いてて楽しい、みたいな。
糸井
うん、うん。
燃え殻
例えば、
ゴールデン街の狭い居酒屋で目が覚めたっていうシーンで。
朝ご飯の匂いがして、外はお天気雨みたいな感じで、
っていう1日で‥‥
糸井
よいですねぇ。
燃え殻
そういう1日を書いてるときは、
気持ちがよかったし、それを書きたかったんですよね。
でも、取材でそう答えると、
「ふざけんな」って言われそうじゃないですか。
糸井
そういう景色を、思って終わりにするのは
ちょっともったいないような気がしますよね。
で、思ったときにすぐ書くとは限らないんだけど、
なんか覚えとこうと思うだけでも、いいですよね。
燃え殻
そう、そうですね。
糸井
ねえ。
例えばね、「やせがえる 負けるな一茶 これにあり」
っていう、俳句があるけど、自分がそこにいた蛙を
「やせがえる」っていう見方をできたのが
まずうれしいじゃないですか。
燃え殻
そうですね。
ぼくだけが見ている景色を切り取れた喜び、
みたいなものはありますね。
糸井
そうそうそう。

燃え殻
ぼく、これまで使っていた手帳を21冊全部取ってて、
仕事中とかに時間ができると読み返すんです。
糸井
うんうん。
燃え殻
仕事で必要なことが書いてあったり、
会った人の名刺が貼ってあったりするんです。
糸井
うん。
燃え殻
たまたま食った美味い天丼屋の箸袋を貼ってあったりとか。
結局、十何年行ってないんですけど。
糸井
行くかもしれないっていうのが、
自分が生きてきた人生にちょっとレリーフされるんだよね。
燃え殻
その感じと、文章を書くことってすごく近い気がして。
糸井
だから、さっきのゴールデン街の話とか、
発見したのは明らかに「俺」なんだけど、
みんなに頷かれたときって、
「くやしい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
燃え殻
「経験してないけど、わかるよ」っていうところが、
すごくうれしい。
で、手帳には、自分の悩みも書いてあったりして。
糸井
うん。
燃え殻
その、なんか、悩みだったり、
会うのが嫌だった人との関係性が
どんどん変わっていく様だったりとかが見えて。

糸井
その手帳に書いてないけど、
自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
音楽って、聞きたくなくても流れてくるじゃないですか。
燃え殻
うん、そうですね、流れてる。
糸井
そこまで含めて思い出だ、みたいなことっていうのは、
あとで考えると嬉しいですよね。
景色みたいなものなのかな。
燃え殻
そうですね。
景色に重ねていって、
共感度とか深度が深まるような気がして、
小説のところどころに音楽を挟んだんですよ。
糸井
入れてますよね。
燃え殻
例えば、同僚と別れるっていうシーンに、
悲しい音楽じゃなくて、AKBの新曲が流れるっていうのを
入れたんです。そういうことあるじゃないですか。
糸井
おおいにあるね。

(つづきます)

第2回 俺のリズム&ブルース