- 糸井
- やろ。
- 燃え殻
- やりましょう。
- 糸井
- けっこう、取材受けてるでしょう?
からだ大丈夫?
- 燃え殻
- サラリーマンなのにね(笑)。
ありがたいことに何十と受けてるんですけど。
- 糸井
- はい。
- 燃え殻
- ウソをつかなきゃいけない自分が、
心苦しいんですよ。
- 糸井
- 心苦しい(笑)。
- 燃え殻
- なんでこの本を書いたんですか
って聞かれるじゃないですか。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説とかって、何か訴えたいことがないと
書いちゃいけないんですか。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- 「90年代ぐらいの空気をこの本に閉じ込めたかったんです」
というウソを、この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- それでもいいやっていう、的確なウソですよね(笑)。
- 燃え殻
- 本当は書いてるときなんて、
2か所ぐらいしか書きたいことがなくて。
それも訴えたいことじゃないんですよ。
書いてて楽しい、みたいな。
- 糸井
- うん、うん。
- 燃え殻
- 例えば、
ゴールデン街の狭い居酒屋で目が覚めたっていうシーンで。
朝ご飯の匂いがして、外はお天気雨みたいな感じで、
っていう1日で‥‥
- 糸井
- よいですねぇ。
- 燃え殻
- そういう1日を書いてるときは、
気持ちがよかったし、それを書きたかったんですよね。
でも、取材でそう答えると、
「ふざけんな」って言われそうじゃないですか。
- 糸井
- そういう景色を、思って終わりにするのは
ちょっともったいないような気がしますよね。
で、思ったときにすぐ書くとは限らないんだけど、
なんか覚えとこうと思うだけでも、いいですよね。
- 燃え殻
- そう、そうですね。
- 糸井
- ねえ。
例えばね、「やせがえる 負けるな一茶 これにあり」
っていう、俳句があるけど、自分がそこにいた蛙を
「やせがえる」っていう見方をできたのが
まずうれしいじゃないですか。
- 燃え殻
- そうですね。
ぼくだけが見ている景色を切り取れた喜び、
みたいなものはありますね。
- 糸井
- そうそうそう。

- 燃え殻
- ぼく、これまで使っていた手帳を21冊全部取ってて、
仕事中とかに時間ができると読み返すんです。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
- 仕事で必要なことが書いてあったり、
会った人の名刺が貼ってあったりするんです。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- たまたま食った美味い天丼屋の箸袋を貼ってあったりとか。
結局、十何年行ってないんですけど。
- 糸井
- 行くかもしれないっていうのが、
自分が生きてきた人生にちょっとレリーフされるんだよね。
- 燃え殻
- その感じと、文章を書くことってすごく近い気がして。
- 糸井
- だから、さっきのゴールデン街の話とか、
発見したのは明らかに「俺」なんだけど、
みんなに頷かれたときって、
「くやしい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
- 燃え殻
- 「経験してないけど、わかるよ」っていうところが、
すごくうれしい。
で、手帳には、自分の悩みも書いてあったりして。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- その、なんか、悩みだったり、
会うのが嫌だった人との関係性が
どんどん変わっていく様だったりとかが見えて。

- 糸井
- その手帳に書いてないけど、
自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
音楽って、聞きたくなくても流れてくるじゃないですか。
- 燃え殻
- うん、そうですね、流れてる。
- 糸井
- そこまで含めて思い出だ、みたいなことっていうのは、
あとで考えると嬉しいですよね。
景色みたいなものなのかな。
- 燃え殻
- そうですね。
景色に重ねていって、
共感度とか深度が深まるような気がして、
小説のところどころに音楽を挟んだんですよ。
- 糸井
- 入れてますよね。
- 燃え殻
- 例えば、同僚と別れるっていうシーンに、
悲しい音楽じゃなくて、AKBの新曲が流れるっていうのを
入れたんです。そういうことあるじゃないですか。
- 糸井
- おおいにあるね。
(つづきます)