もくじ
第1回僕は、訴えたいんじゃない。 2017-10-17-Tue
第2回僕だけの景色を切り取って、書く。 2017-10-17-Tue
第3回音楽のミスマッチ、それも技術。 2017-10-17-Tue
第4回燃え殻さんの、リズム&ブルースの正体。 2017-10-17-Tue
第5回「作品」として、「商品」としての文章。 2017-10-17-Tue

書く人。
ウェブコラムや広告記事の他に、趣味で「付き合って5年目の彼氏と別れた後悔」を前向きに綴っています。

思うだけじゃなく、書きたいことって?</br>燃え殻 × 糸井重里

思うだけじゃなく、書きたいことって?
燃え殻 × 糸井重里

担当・花輪えみ

ことし8月20日、ほぼ日手帳2018 発売記念イベント
「On the Desk in 銀座ロフト」にて、
小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』の著者・燃え殻さんと、
糸井さんが対談を行いました。

毎年恒例のトークライブ、
「今年、この人としゃべりたい」
と糸井さんが選んだのが燃え殻さん。

普段からツイッターなどで交流のあるお二人ですが、
お客さまがいる前では、はじめての対談だったとか。

互いのつぶやきに返信するようなリズムでお送りする、
公の場に向けた二人の「ことば」。
何度でも聴き直したい、そんな対談でした。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 僕は、訴えたいんじゃない。

糸井
今さら紹介されても面倒っていう人だらけと思っているんで
もう、急に始めます。
みなさん、燃え殻さんの体調が心配だったでしょ。
燃え殻
昨日ね、あんまり寝られなかったんです。
糸井さんの顔がちらついて。
糸井
それは好きで?
燃え殻
あ、好きで。
糸井
(笑)
燃え殻
すげえ早くここに来て、グルグル回ってました。

糸井
ずいぶん早く来てるって噂は届いてまして。
僕はその頃お風呂に入ってて。
燃え殻
ああ、いいですね。
糸井
1時間ぐらい入ってたんですよ。
よくお風呂に入りながらネット見たり本読んだりしてるんで、
これだけで1キロぐらい痩せるんですね(笑)
燃え殻
素晴らしい、いいなあ。
糸井
え、そう思う悩みでもあるんですか。
燃え殻
いや、全然。
でも、お風呂での読書は至福なことだと思ってて。
 
糸井さんがずっとそうしているって聞いたので、
ちょっと真似しようかなって。
糸井
ぜひやってください。
 
それで、体は大丈夫ですか、の質問は本当に尋ねたくて。
ものすごい数の取材を受けてるでしょ?
燃え殻
はい、サラリーマンなのに(笑)
糸井
サラリーマンなのにね。
燃え殻
6月30日に本が出てから、
ありがたいことに何十という数の取材を。
糸井
何十と。
燃え殻
はい。
糸井
はぁー。

燃え殻
糸井さんには相談させていただいたんですけど、
新聞とか、いろんな方からの質問が心苦しいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)
燃え殻
心苦しい(笑)
答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
あ、ということは、
新聞を読んだ人はウソを読んでいるわけですね。
燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」
とか言われるじゃないですか。
本当は、あまり大きな理由がない。
 
実は、会社の行き帰りとか、寝る前とか、
寝てる途中で起きて書くことがほとんどだったんですけど、
たぶん、この小説では2か所ぐらいしか書きたいことがなくて。
 
僕、今日糸井さんに聞きたかったんですけど、
何か訴えることがない人は小説を書いちゃだめなんですか。
糸井
それは例えば、ナマズを彫った高村光太郎に
「高村光太郎さん、なぜナマズを彫ったんですか」
って聞くみたいなことですよね?
燃え殻
そうそう。
「実は社会的にすごく意味があることなんだ」って
高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
燃え殻
僕は、社会的な感じを含めて答えなきゃいけないと思って。
 
この本には90年代から2000年くらいのことを書いたので
「90年代の空気みたいなものを、ひとつの本に閉じ込めたかったんです」というウソを、ここ1ヶ月ずっとついてて(笑)
 
スルスル、スルスル、口から流れるようになって。

糸井
(笑)
燃え殻
「バブルが終わっても、世の中にはまだバブルが残ってる。
ヴェルファーレがあったりとか。そのまだらな世界を
僕はひとつの本に閉じ込めたかったんです」
 
ウソ、みたいな(笑)
糸井
的確なウソですよ。
そう考えてもらえればいいやっていうウソですよね。
燃え殻
そう、もう「あ、なるほど」みたいな。
たぶん、それを求められてるんだろうなっていう。
糸井
うんうん。
「それが聞きたかったんですよ!」って。
燃え殻
こういうことを言っとかないといけないんだな、と思って。
 
いろんな人が取材記事を読むだろうし、
その取材の撮影場所にもいろんな人がいて、
その人たちに頷かれないと怖いじゃないですか。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
だから、記者の人も、カメラマンの人も頷いて
「ああ、わかった、わかった」っていうのが理想。
糸井
そして「ボクの話、いいですか」みたいな(笑)

燃え殻
そう。すると「ああ、最初はよくわかんなかったけど、
そういうこと書いてる人なんだね」って感じで
シャッターを押してくれたり。
 
そんな感じで場が少し温まる。
温めたいから、それをずっと言うっていう(笑)
糸井
ずっと言う(笑)
燃え殻
問題は、記事のアップされる間隔が狭いってことなんですよ。
だから「同じことばっか」ってネットに書かれて。
 
全然関係ない人から「いつも同じこと言ってくだらねえ」
とか「宣伝男」みたいなこと言われて(笑)
糸井
三谷幸喜さんくらいになるとね、
撮った映画が「さあ上映だ」ってときに
いっぱいテレビに出るじゃないですか。
 
やっぱり同じようなこと聞かれてるけど、
あの人も「宣伝男」みたいに言われるだろうし、
ちょっと不本意な気持ちもあるかもしれないですね。
燃え殻
僕は書きたいのであって、訴えたいんじゃないんです。
書いてて楽しい、みたいな。
糸井
書いてて、自分が嬉しいこと。
うんうん。

(つづきます)

第2回 僕だけの景色を切り取って、書く。