- 糸井
- 先日、出版された本を持って
オフィスを訪ねてきてくれて。
よくがんばってるよね。
- 燃え殻
- あ、久しぶりに褒められた(笑)。
- 糸井
- ほんとに、よくがんばってるよ。
環境が変わるっていうことは、
いわば、人体が変わるっていうことと同じだから。
良いことも悪いことも含めてね。
- 燃え殻
- ああ、そうか。
それで言えば、ここ2カ月くらいは、
今までの人生にはなかった変化ばかりでした。
最近、そこには少しだけ慣れてきましたね。
- 糸井
- いやぁ、たいしたものだ。
- 燃え殻
- フェイスブックの
「1年前のこの日はこれしてました」っていう
機能があるじゃないですか。
- 糸井
- ああ、あるね。
- 燃え殻
- それで、糸井さんと一緒に写っている写真が
出てきたんですよ。
- 糸井
- 1年前なんだ。
- 燃え殻
- あのロフトのイベントがあった頃ですね。
- 糸井
- ああ、そうだ。
- 燃え殻
- ぼく、人前で話すという経験は、
あのイベントが初めてだったんです。
しかも、そうそうたる変わった方々がいらっしゃる中で。
- 糸井
- (笑)。
- 燃え殻
- あれは、ほんとうに緊張したなぁ。
でも、その1年前の写真を見た時に、
「あ、少しは慣れたかもしれない」と思ったんです。
- 糸井
- でも、もういくらでも人前で話してるじゃない?
- 燃え殻
- ここ2カ月くらいですね。
- 糸井
- それは変化かもしれないね。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
- 人前っていうのは、つまり、
知らない人が自分の話を聞いている、
ということかな。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
- なかなかない経験だよね。
- 燃え殻
- そうなんです。
自分にはそういう経験が足りないなって
ずっと思ってました。
- 糸井
- それは、我慢して人前に出る、ということ?
- 燃え殻
- そうです、そうです。
ぼくは、仕事上でプレゼンをするようなこともなくて、
こもって作業するタイプのサラリーマンだったので。
- 糸井
- しゃべること自体は、大丈夫なんですか?
- 燃え殻
- いいえ。
うちの会社には、社内ミーティングがあるんですけど、
そういう場で話をすることすら苦手で。
- 糸井
- 苦手かどうかで言えば、ぼくも同じですよ。
- 燃え殻
- そうなんですか?
- 糸井
- うん。ほんとうに同じ。
社内ミーティングではひとりでしゃべりまくってるけど、
決して得意ではないよ。苦手だね。
- 燃え殻
- 話す前とか、緊張するんですか?
- 糸井
- 緊張はしないけど、その時、自分の中に、
永ちゃん(矢沢永吉さん)が出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、
「楽しめ」って、ぼくに声をかける。
- 燃え殻
- 心の中に、永ちゃんがいるんですか?
- 糸井
- そう、いるんです。
明らかに、ぼくの心の中には、永ちゃんが。
- 燃え殻
- 入ってる?
- 糸井
- 入ってる、入ってる。
- 燃え殻
- ピンチの時に、
永ちゃんが語りかけてくれるんですか?
曲が流れてきたりとか。
- 糸井
- いや、そんなふうにはなんない。
永ちゃんが、「俺もステージの前はドキドキする」って、
まじめに話してるわけよ(笑)。
ぼくとの会話の中で。
- 燃え殻
- へぇー。
- 糸井
- 「緊張するのは当たり前だよ」っていう感じで。
永ちゃんも、ステージ前日のお風呂とか、
洗面所とかで鏡に向かって、
「できる、お前ならできる」って言い聞かせるんだって。
- 燃え殻
- 自分に語りかける。
- 糸井
- で、ある段階まで行ったら、
今度は「楽しめ」って言うようになったって。
永ちゃんは、多い時は8万人の前に立つ人で、
その「楽しめ」って言葉がもつ意味は、
たぶんものすごくてさ。
自分自身と楽しみにしている人たちが
楽しめればいいんだっていう。
- 燃え殻
- ああ、でもそうかもしれない。
- 糸井
- その「楽しめ」を覚えてたおかげで、
今までどれだけのピンチをしのいできたか。
「そうだ、楽しむんだ」。
- 燃え殻
- 「楽しむんだ」っていう。
- 糸井
- そう。
- 燃え殻
- ぼく、あるトークショーが始まる前に、
新潮社の人に「ああ、いやだ」って言ったんです。
そしたらその人に、
「いいんですよ、動いているところを
見たいだけなんですから」って言われて。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 燃え殻
- また別の時は、対談相手だった映画監督の大根さんが
「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれたんです。
そのままでいいじゃないか、っていう感じで。
それまでは、
何かいいこと言わなければ、という気持ちが
あったんだと思います。
- 糸井
- うん、よくわかります。
- 燃え殻
- 「そんなことは誰も期待してないから大丈夫」って。
そうすると、緊張せずに人前で話せたんですよね。
- 糸井
- これからも、それで問題ないよ。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人だったら
対談をお断りすればいい。
ただただ、「会って話そう」だよ(笑)。
- 燃え殻
- そうですね。
そういうほうがおもしろいって、
糸井さんは思ってるんですよね。
ロフトのイベントの時も、
「10分前に来てね」だったじゃないですか。
それで、そのまま本番いこう、みたいな。
- 糸井
- うん。
このことだけは伝えなきゃ、
みたいな決め事はひとつもないから。
- 燃え殻
- ああ、そうか(笑)。
- 糸井
- それがあると、ぼくは話せなくなっちゃうんです。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
- このことを伝えなきゃ、って仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
- この間、テレビ番組の収録があったんですけど、
「これだけは言ってくださいね」って
お願いをされたんです。
でも、それがすごい気になっちゃって‥‥。
- 糸井
- うん、大変だよね。
- 燃え殻
- もう、ずうっとそのことを考えてるんですよ。
- 糸井
- ぼくも同じ。
- 燃え殻
- やっぱり、ありますよね。
それがひとつ入ることで、全部ダメになっちゃうんですよ。
- 糸井
- わかる。もう、まったくそう。
- 燃え殻
- あと、そういうふうに事前に用意したことって、
流れの中で話してて、ちょっとやっぱり‥‥。
- 糸井
- 引っかかる(笑)。
- 燃え殻
- 引っかかる(笑)。
(つづきます)