- 糸井
- こんばんは。
会場のみなさん、「燃え殻さん、からだ大丈夫？」と思っていたでしょ。
- 燃え殻
- あ、大丈夫。あんまりね、昨日寝れなかったんですよ。
- 糸井
- どうしたんですか？
- 燃え殻
- えーと、昨日3時くらいに仕事が終わりまして、
糸井さんの顔がちらついて、寝れないっていう‥‥。
- 糸井
- それは好きで？
- 燃え殻
- あ、好きで。
- 糸井
- （笑）。けっこうものすごい取材受けてるでしょ？
- 燃え殻
- サラリーマンなのに、はい（笑）。
6月30日に本が出て、そこから取材を、ありがたいことに何十と。
- 糸井
- はぁー。
- 燃え殻
- 新聞とかもいろいろと話をしていただいて。
糸井さんには相談させていただいたんですけど、
いろいろな方から来る質問が心苦しいんですよ。
- 糸井
- 心苦しい（笑）。答えてて。
- 燃え殻
- 答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
- 糸井
- あ、てことは、新聞で読んだ人は
ウソを読んでるわけですね（笑）。
- 燃え殻
- 「なんでこの本を書いたんですか？」とか
言われるじゃないですか。で、本当はあまり意味がない。
ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説って、何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか？
- 糸井
- （笑）。それは、たとえば高村光太郎がナマズを彫ったから、
「高村さん、このナマズはなぜ彫ったんですか？」って
聞くみたいなことですよね？
- 燃え殻
- そうそう。
「それはすごく社会的に実は意味があることなんだ」
みたいな話は、高村さんは言えたんでしょうか？
- 糸井
- 言えないんじゃないでしょうかね。
横尾さんに聞いたら怒りますよね、
「だからダメなんだよ」って。
- 燃え殻
- ぼくは横尾さんじゃないので、答えなきゃいけなくて。
「90年代の空気みたいなものを本に閉じ込めたかった」
というウソをですね、この1ヵ月ずっとついてて（笑）。
- 糸井
- 的確なウソですよ（笑）。
- 燃え殻
- 多分それがいいんだっていう。
- 糸井
- 「それが聞きたかったんですよ！」みたいな。
で、おそらく読者と取材者に共通するのは、
「自分もその時代に」って話をしたがりますよね。
- 燃え殻
- そう。ぼく43歳なんですけど、文芸の記者の方とか
同年代の人が多いんです。来ると
「読みましたよ。じぶんも大体近いとこにいたんで、
ぼくの話聞いてもらっていいですか」って。
学歴があって新聞社や雑誌の編集に行った方なので、
みなさんすごくいい形で社会に出ているじゃないですか。
ぼく、そこに行ったことが1回もないんですけど、
「一緒ですよ」とか言われて、「一緒じゃねぇよ」と（笑）。
そう思いながら、「あ、そうですね」みたいな。
- 糸井
- （笑）。
- 燃え殻
- 「90年代を書いた小説は、それほどなかったので。
バブルが終わって、でも世の中にはまだバブルが残ってる。
そのまだらな世界を、1つの本に閉じ込めたかったんです」
みたいなウソが、もう、さらさら出てきちゃう（笑）。
取材の場にもいろいろな人たちがいて、
その人たちが頷いてないと怖いじゃないですか。
- 糸井
- はいはいはい。
- 燃え殻
- 取材についてきた人は絶対本を読んでないんだけど、
「そういう本書いてんだ。まぁ、いいんじゃない？」
みたいな感じで、場が少し温まる。
だから、それをずっと言うっていう。
- 糸井
- ずっと言う（笑）。
- 燃え殻
- そう。で、1個1個のインタビューがアップされる日が
けっこう近いんですよ。だからネットで、
「お前いつも同じこと言ってくだらねぇ」とか、
「宣伝男」みたいなこと言われて（笑）。
- 糸井
- 三谷幸喜さんみたいだね（笑）。
これから上映って時にテレビに出て、
同じようなことばかり聞かれて。
あの人も「宣伝男」みたいに言われるだろうし。
- 燃え殻
- あ、そうなんですか。小説は会社の行き帰りと
寝る前に書くことがほとんどだったんですけど、
そのとき多分、2ヶ所ぐらいしか書きたいことがなくて。
それも訴えたいことじゃないんです。
書いてて楽しい、みたいな。
- 糸井
- 自分が嬉しいこと。うんうん。
- 燃え殻
- そういうとこが2ヶ所ぐらいあって。
この場にも本を読まれてない方、
いっぱいいると思うんですけど（笑）。
- 糸井
- じゃ、その人用にしゃべります。
つまり、90年代の空気を残したかったんです（笑）。
- 燃え殻
- あーもう、なんかいちばん嫌な感じ（笑）。
これ本当にあったんですけど、ぼくゴールデン街で
朝寝てたんですよ。狭い居酒屋の半畳ぐらいの畳に。
そしたら同僚が、ママ？パパ？ママみたいな人と‥‥。
- 糸井
- ママ的なパパ。
- 燃え殻
- ママ的なパパと朝ご飯を。で、網戸を開けると
雨が降りつけてるんですけど、お天気雨みたいな感じで
日が差してるんですよね。朝7時前ぐらいの時間で、
今日仕事に行かなきゃなって思いながら。
今日は嫌な予定ないし、昨日も嫌なことなかったし。
ありがたいことに、体にも痛いところはない。
- 糸井
- あ、よいですね。
- 燃え殻
- そういう1日を書いているときは、気持ちがよかった。
もう1つは、ラブホテルのシーン。
朝か夜かわからなくて真っ暗で、下着と飲み物を探す。
で、お風呂のお湯を入れるんですけど、
安いラブホテルなんで、温度が定まらないんです（笑）。
そのとき、今日これからまた仕事なのかって思いながら、
「地球とか滅亡すればいいのにねぇ」みたいなことを、
女の子と言ってるんですね。
「そういうのを書いてるときは楽しかった」って言うと、
「ふざけんな」って新聞に言われるじゃないですか。
でも、それを書きたかったんですよねぇ。