もくじ
第1回元バイト先 2019-02-26-Tue
第2回くりかえす仕事 2019-02-26-Tue
第3回褪せない技術 2019-02-26-Tue

きく、かく、えがく。そのどれもで生きていきたいと思う。今は聞き書き甲子園の運営などをしています。

僕の好きなもの</br>小さな飲食店

僕の好きなもの
小さな飲食店

担当・工藤大貴

僕は、なにをするにも長続きしない性格でした。

そんななかで、とある飲食店のバイトだけは、
よくよく続きました。

どうしてかなと考えていった先に、
「好きの正体」が隠れていました。

全3回、あまり長くない文量ですので、
ぜひ読んでみてください。

大切なひとたちの仕事の証を、
今回のエッセイに書き残せたことが嬉しいです。

第1回 元バイト先

高校生の僕から物語は始まる。
何をしても長続きしない性格だった。

高1で入った剣道部も早々に辞めていたし、
気持ちが弱くて少し学校に通えない時期もあった。
大学付属の高校で勉強に本気になることもなかった。

バイトでもしてみるか。
退屈しのぎになりそうだと思ったし、
初めての海外旅行に行きたくて旅費も貯めたかった。
遠くの世界に行きたかった。

つらつらと探すと、
東京にはたくさんの求人があった。
インドカレー屋さんの面接を落ちたりもして、
1つのお店にたどり着いた。

そこは個人経営のお店で、
家から歩いていける近さも高ポイントだ。
ここだったら、静かに働けるかも。

7月、汗ばむ季節にしっかりと学ランを着た僕は、
面接を経て、働きだした。
大学生になるまでの1年にも満たない、
ちょっとしたバイトのつもりだった。

そこは、ご夫婦でやりくりされているお店で、
サラリーマンから家族連れまで
いろんな世代に愛されている。
お昼は定食メニューが豊富で、
夜は和洋折衷さまざまなアラカルトを揃えている。

こだわりがないだとか、名物がないだとか、
そんな言われ方もするかもしれない。
だけど、お客さんを選ばない、
寛大なスタイルが僕は好きだった。

子供連れが夕食を食べている横で、
サラリーマン客がキープしている焼酎を飲んでいる。
おおらかで良いじゃないかと思う。

「ケイジャンチキン」という、
スパイスの効いた唐揚げが好きで、
まかないでは、そればかり食べていた。
お客さんにオススメを聞かれると、
よく「ケイジャンチキン」と答えていた。

宴会が入ると、片付けが夜中までかかることもある。
あと少しで終わるという頃に、
店長が「工藤さん、飲んでく?」と聞く。
その声が心のうちではとても楽しみなのだ。

閉店後の店内。
喫煙席の明かりを消して、制服も着替えてから、
自分と店長の分のビールを注ぐ。
静けさのなかで、二人、
今日の営業を振り返りながらお酒を飲む。
時々思い立ったように、
「鮮度が落ちるから」と刺身をツマミに出してくれる。
夜中の3時までしっかり飲んで、家路に着く。

そう。僕はその頃、ビールも飲める大人になっていた。

あっという間の9年だった。

第2回 くりかえす仕事