もくじ
第1回未知との遭遇 2019-02-26-Tue
第2回似合うか、似合わないか。 2019-02-26-Tue
第3回レンズの向こう側 2019-02-26-Tue

うどん県からやってきた一児の母です。
都会の生活にはまだ慣れません。
娘とのお絵かきの時間が唯一の癒しです。

眼鏡と私の物語

眼鏡と私の物語

担当・まつ

好きにも色々ありまして、私にとっての眼鏡って、なくてはならない物だけど、
収集するほど好きではない。
なんだかぼんやり好きだと思う、その理由は何なのか。
記憶を頼りに考えてみると、どうやら自分の性格が影響しているようです。
眼鏡にまつわる私の物語、全3回でお付き合いください。

第1回 未知との遭遇

両目の視力が0.1を下回る私にとって、眼鏡は必須アイテ
ムだ。運転免許証の条件欄にも「眼鏡等」と記されている。

まだ2.0の視力を保っていた小学生の頃、ドラえもんに出
てくるのび太君の目が、眼鏡を外した途端、数字の3を左右
逆にしたような形になるのが不思議だったが、眼鏡の在り処
を探すのに事欠く今は、あの表現の的確さがよく分かる。

初めて眼鏡を買ってもらったのは高校一年生の時だ。
 
就寝前に薄暗がりの中で本を読むのが好きだった私は、「目
が悪くなるよ」という母の忠告を真剣に聞き入れなかった。
なんだか黒板の文字が見えづらいなと思った時には既に手遅
れで、視力検査の結果、眼鏡をかけるよう勧められた。

眼鏡屋は、高校の近くの商店街の一角にあった。

客足の少ない店内はひっそりしていたが、天井の蛍光灯が
至る所に設置された鏡に反射して、やたら眩しかったのを覚
えている。そして、そのきらびやかな雰囲気は、田舎育ちの
女子高生を怯ませるのに充分だった。
どうしていいか分からず、入口付近でウロウロしていると、
不慣れな様子を察知したのか、ショーケースの向こう側か
ら、金縁眼鏡をかけたスーツ姿の中年男性が満面の笑みで
近寄ってきた。

このとき、後ろに母が控えていなければ、私は回れ右をして
店を出ていたと思う。幼い頃から内気な性格で、友達を作る
のも苦手な私にとって、光をバックに近寄ってくる中年男性
は異次元の存在であった。
母は、未知との遭遇に固まっている不甲斐ない私の代わり
に、さっさと用向きを告げた。

その店員は母と私をショーケース前のスツールに案内し、
いろんな眼鏡を見せてくれた。そして、初めての眼鏡であれ
ば、フレームは軽めで耳が痛くならないもの、レンズは視界
を狭めない大きめのものが良いと教えてくれた。
眼鏡屋の店員に宇宙人並みの警戒心を抱いていた私も、丁寧
な説明を聞くうちに緊張がほぐれ、いくつかの候補の中か
ら、細い黒縁の眼鏡を選ぶことができた。

眼鏡をかけた鏡の中の自分は、本当の自分より少しだけ大人
びて見えた。もちろん、あくまでそう見えただけで、何かが
物理的に変化したわけではない。

ただ、今までむき出しの顔で生きてきた自分に、眼鏡という
アイテムが加わったことで、外の世界に自分の全てをさらけ
出さなくてもよくなった。
たとえ顔半分だけだとしても、本当の自分を隠しておける。
そのことが、臆病者の私にささやかな安らぎを与えてくれた
のである。

眼鏡は、外に出る私を勇気付けてくれる存在になった。

(つづきます)

第2回 似合うか、似合わないか。