19歳の夏、もう10年ほど前になるが、
当時大学2年生だった僕は、北欧のノルウェーに
1年間留学することになっていた。
大阪の南の端にある小さな町で生まれ育ち、
高校時代は野球と受験勉強に明け暮れた僕は、
海外に対する漠然とした憧れがあり、
「幸福度が高い」「家具のデザインがかっこいい」
などのイメージに惹かれ、北欧への留学を決めた。
ただ決めたはいいものの、
どこか漠然とした気持ちだったので、
当時は留学へのワクワク感より、
不安の方が大きかったと思う。
ノルウェーへの出発は、たしか夏真っ盛りの
7月末ごろで、その日は、両親と妹が
関西空港に前泊で駆けつけていた。
そして生粋の「関西のおかん」である
母親のおせっかいは、いつもと変わらない調子で、
「あれも入れときや」
「あ、北欧は寒いから、ダウンジャケットもいるやろ」
といった勢いで、大きなスーツケース2個に、
どんどん荷物が詰め込まれ、
空港のチェックインカウンターでは、
重量オーバーにより、1万円近く追加料金を
払った苦い記憶がある。笑
そんな調子で、あまり感傷に浸る間もなく、
バタバタとした出発になったが、
大学の友人が何人か見送りに来てくれたのが
嬉しかったことをぼんやりと覚えている。
そして関西空港からオランダのアムステルダムを経由し、
ノルウェーの西の端にあるベルゲンという街に、
大量の荷物とともに到着した。
空港の両替カウンターのお姉さんは、
つたない英語で話す僕に対して、どこかぶっきらぼうで、
早速海外の洗礼を浴びた(ような気がしていた)。
なんとか手続きなどを済ませ、空港を出たのは、
たしかお昼前ごろだった記憶があるが、
夏のノルウェーは少し涼しいくらいで、
空港の玄関口でバスを待っていた僕は、
快晴の青空を見ながら、大きく深呼吸をした。
香水のような少し甘ったるい匂いがしたが、
爽やかな風がとても心地よくて、新たなスタートへの
不安が少しだけ和らいだ感覚を、今でも覚えている。
このときの記憶のせいなのか、僕は海外に行って、
空港の玄関口で大きく息を吸い込む瞬間が好きだ。
欧米の国では少し甘ったるい匂いがするし、
東南アジアの国では香辛料の匂いが鼻にツンとくる。
どれもけっして「いい匂い」というわけではないけれど、
その国の空気を全身で感じるという感覚だろうか。
ただ当時を振り返りながら、改めて思うのは、
19歳の僕にとって空港という場所は、とても
好きと言えるような場所ではなかったということ。
不安とか、焦りとか、そんなものが
たくさん詰まっている場所であったのかもしれない。
そんなノルウェーの空港を背に、
僕はバスに乗って市内に向かった。
