もくじ
第1回男の人が苦手だった 2019-03-19-Tue
第2回学生時代はきつかった 2019-03-19-Tue
第3回絵で人とつながれた 2019-03-19-Tue
第4回出会い系で結婚 2019-03-19-Tue
第5回力を抜いて過ごせる日々が待っている 2019-03-19-Tue
第6回一つの出会いで世界が変わる 2019-03-19-Tue

沖縄で編集・ライターをしています。
おいしいものと心地いい陽気が好きです。

あのころ苦しかった私たちへ

あのころ苦しかった私たちへ

担当・カワノリナコ

苦しかった思春期のころの一番の友だちがカオル(仮名)です。
中学生の時の塾が同じで、出会って20年以上。
「大人になって生きるのが楽になったね。あのころの私に教えたいね」と
しみじみ言い合う私たちは38歳になりました。

学生のころの私は、周りを気にして人の話に「うんうん」とうなずくことしかできなくて、
それなのに周りには溶け込めずに、苦しかった。

カオルは学生のころから頭が良くて話が面白くて、私はしょっちゅう笑わせられた。
でも人と喋るときは緊張していて、どこかピリピリしているように感じた。
特に男の人に顕著で、
中学時代の塾の先生が「俺は嫌われてたな」と私に話したことがあった。
カオルに聞いたら「違う違う、男の人が苦手なの」と言った。
高校生のころにカオルが「子どもを産むなんて想像できない」と言うのを聞いて、
結婚して子どもを産むのは当たり前だと思っていた私はびっくりした。

高校で私もカオルも勉強についていけず、クラスにもなじめず、いろいろなことを話した。
話すだけでは足りなくて、手紙のやり取りもした。
時には便せんに何枚も、私って何だろうとか、生きることについても書いたりした。

カオルがくれる手紙には、時々絵が描いてあった。
それは人だったり、森だったり、妖精みたいなものだったりした。
私はその絵が、とても好きだった。(今回載せている絵は、全部カオルの絵です)

手紙は私が高校卒業を卒業して県外に行ってからも続いた。
彼女が「一番、底だった」という大学時代には、
「死にたいなぁと思ったけど死ねなかったよ」と辛そうな言葉が書いてあった。

今、彼女にはママが大好きな4歳の息子と優しいだんなさんがいる。
カオルはいつもニコニコしていて穏やかで、柔らかい。
あのころはずっと苦しそうだったけれど、今はいつも幸せそうだ。

課題で、どうしても書きたいと思ったのがカオルのことだった。
何が彼女を変えたんだろうって、聞いたことはなかった。
改めてじっくり話を聞いてみたら、
思春期を過ぎたから、という理由だけではない、いろいろなことがあった。

苦しかった私たちへ、今、苦しい若い人へ。
届いたらいいなぁと思って書きました。

第1回 男の人が苦手だった

───
高校生の時、子供を生むの信じられないって言ってたよね。
カオル
そうそう。今は、そんなことがあったかもなぁって。
前世のことを聞いているような感じ。
───
何でそう言ったの?
カオル
男の人が苦手だった。
───
それは何で?
カオル
父親が凄い苦手だったから(笑)。
───
お父さん、個性的だもんね(笑)。
あ、言いたくないことは言わなくていいからね。
カオル
いや、今はもう客観的に見れるから大丈夫。 
エキセントリックが過ぎるっていうか。
身近な男のモデルが父親しかいなかったからかな。
また、その印象が強烈で。
───
どんな感じだったの?
カオル
姉妹4人それぞれに毎日国語や算数のドリルをさせて、
その勉強を父親が見ていた。
「俺ほど教育熱心な親はいない」って言うのが口癖だったな。
ほめられることはなくて、
いつもがっかりされているなぁと思っていた。
 
───:
カオル、成績良かったのに?
カオル
お前の成績は塾に行かせている俺のお金で買ったようなもの、
って言われて。
何の時だったか、お前に払っているお金は、
ドブに捨てているようなものだって言われたこともあったなぁ。
───
それはキツイなぁ。
そういえば、高校の時に1人暮らししてたよね。
(カオルの家は学校まで車で40分位。通える距離ではあった)
カオル
たぶん私と父親がすごい仲悪かったから。
追い出されたのかなぁ。
実家に帰ってくるなって言われたし。
母が迎えに来て実家に行ったのに父親に帰れって言われて、
久しぶりに妹に会えるなぁって思ってたのにアパートに戻って。
───
寂しくなかった?
カオル
寂しかった。 
特に、1人暮らしを始めて最初の何日かは、
誰か暇そうな人を拾って帰りたいなぁって思ったくらい。
たまにお母さんが差し入れを持ってきてくれたけど
時々電気代を払いそびれて真っ暗になってた記憶があるなぁ。
暗い部屋で一人でさ。

─── 悲しいなぁ。

カオル
生活能力もないからさ。
お風呂でお湯が出なかったから、ぬるま湯をベビーバスにためて
お湯を温めようとフライパンを熱してジューって入れて
やり過ぎてフライパンをベコベコにするっていう(笑)。
生活能力がない子どもをよく一人暮らしさせたなぁ。
───
よく頑張ったね。
カオル
今も、父のキャラクターは凄いんだよ。
何年か前に、実家に初めて夫を連れて行ったときに、
束で自分のエッセーを見せたんだよ。
コピー用紙で20枚くらいあるの読ませてさ。
夫はぐったりしすぎてその場で結婚させてください、
の話ができなくて、改めてもう一回行ったんだよ!(笑)
───
面白いなぁ(笑)。どんなことが書いてあるの?
カオル
妄想を裏づけなしで長々と書くっていう。
───
小説とか書けそうだね(笑)。
カオル
いやぁ(笑)。疲れるよ。エネルギーを吸い取られる。
「俺を分かって」が強いけど、何が言いたいのか分からない。
───
俺を凄いって思ってほしいのかな。
カオル
そうそう! 自己主張が強いんだよ。70近くなった今も。
───
元気過ぎるね!
カオル
最近もお祝いの席で初対面の人に、
おもむろにクリアファイルから自分のエッセーを出して見せて。
相手も大人だから聞いてくれるさ。
それが申し訳なくて。家族ですみませんって。
───
絵が浮かぶ(笑)。
カオル
本人は幸せそうだわけ。
周りが、まただよってどうにか必死で止めるっていう(笑)。
───
姉妹でお父さんのことを話すことはある?
カオル
あるある。もう仕方ないねぇって。
母親が真逆で「うちの子はみんなかわいい」って
全肯定の人だったから、
私たち姉妹はぐれなかったんだろうな。
───
お父さんの影響は、ありそうだね。
カオル
そうだね。就職する時の基準も、
男の人がいないか少ないっていうのを一番にするくらい。
一緒にいたら、向こうもこっちを嫌がるだろうし、
コミュニケーション取れないから迷惑かけるし。
一緒に和気あいあいと仕事できるイメージが一切持てなかった。
───
今、お父さんに対してどう思ってる?
カオル
相変わらずだなぁって感じで、ある意味諦観?(笑)
受け入れている。今は、嫌いとかではないよ。

           (続きます)

第2回 学生時代はきつかった