もくじ
第1回母からもらった文庫本 2019-03-19-Tue
第2回渋谷のしゃぶしゃぶデート 2019-03-19-Tue
第3回必要以上に力まずに。 2019-03-19-Tue

編集者。青空と雨の日、森と海の中、散歩とサウナとカレー、コモンとアンダーソン・パークに、元気をもらっています。

海からの贈りもの 2019

海からの贈りもの 2019

担当・えだまりこ

私には2人の娘がいます。
高校1年生と、小学6年生。
その2人に向けてこのたび書きたいと思ったのが、
「女としての自分」について、です。

きっかけは、3月2日(土)、ほぼ日の授業で、
「女としての自分」に自信がなかったり、
そんな自分を内側におしこめたりしている女の人が、
多いんだなあ、と感じたからでした。

みーんな、一人残らず、つやつやのキラキラなのに。
女でも男でも、ほかのかたちでも
自分を楽しんで過ごせば、きっと大丈夫なのになぁ。

‥‥って、サカリを過ぎたオバハンに言われても、
だーれも救われないのは、わかっています。
でも、いやいや大丈夫だから! って、伝えたい。
あわせて、サカリを過ぎたオバハンとか自分で言っちゃう
自分のスネスネ根性も、この機会になんとかしたい。
でも、何をどう書けば。

ぐるぐる、ぐるぐるしているうちに、1週間が過ぎました。
とりあえず、「娘に読んでほしい本」を考えながら、
右にうろうろ、左にあたふた‥‥。
これはそんな毎日の寄り道の記録です。

ここに出てくる本、1冊でも読んでみていただけたら。
「女としての自分」なんて、ぶっとぶと思います。
一瞬でもいい。ぶっとばしましょう。

第1回 母からもらった文庫本

それは私が高校生だったある日。
母が、とつぜん1冊の文庫本をくれた。
「わたしが一番大事に、何度も読んできた本よ」
それが、『海からの贈物』(新潮文庫)だった。

1967年に出版され、
長く読み継がれているその本の表紙には、
当時は確かに著者名、「リンドバーグ夫人」と書かれていた。
‥‥夫人ですよ、夫人。
史上初の大西洋単独横断飛行に成功した飛行家、
チャールズ・リンドバーグ氏の妻、
というところを言いたかったからなんでしょうけれど。

でも、このたび入手してみた最新バージョン、
2004年改版77刷の本は、ちゃんと、フルネームで
「アン・モロウ・リンドバーグ」に変わっていた。

本は、離島の海辺でリンドバーグさんが思索にふけり、
女性の幸せや、人生のいろいろな状況について
貝とか、車の輪に例えて語る、短いエッセイ集。

この中で、母が特に好きだ、と言っていたのが、
「車輪」のイメージだ。
ちょっと長いけれど、引用してみる。

「それは、女であるということが、
丁度、車の輻(や)のように、
中心から四方八方に向っている義務や関心を
持つことだからである。
私たち、女の生活は必然的に円形をなしている。
私たちは夫とか、子供とか、友達とか、家とか、
隣近所の人とか、すべてを受入れなければならない」
(「ほら貝」の章から)

そう書いた上で、リンドバーグさんは、
「女は(中略)『回転している車の軸が
不動であるのと同様に、
精神と肉体の活動のうちに不動である魂の静寂』
を得なければならない」(「つめた貝」の章から)
と書いている。

魂の静寂、確かに必要です。
実際はもう毎日がお祭りの連続、なんだけど。

この本をくれたころ、母は長い長い義父(私の祖父)の
介護を終えたばかり。
すぐに義母(祖母)との同居が始まり、
実の両親のところにも時々様子を見に通い‥‥
という時期だった。

ずっと続けていた仕事は、介護のために
やめていたけれど、仕事で忙しい父親のサポート、
髪を金色に染めてのびのびしていた妹、
受験生の弟、そして嫁の任務‥‥いろんなものの間を、
母はぐるぐると回っていたんだな、と、いま気づく。

そんな自分を支えていたものを、あのとき、
長女の私に贈ってくれたんだ。
このごろ、母の当時の年齢に近くなって、
子育て以外に、親の介護、仕事のチーム運営、
いろいろな役割がふってくるようになって、わかった。

では、2019年の私は娘たちに、
どんな本を贈りたいだろうか。

ほぼ日授業の翌日、3月3日ひなまつりの日から、
私が娘に「贈りたい本」を思い出す作業が、始まった。

(つづきます)

第2回 渋谷のしゃぶしゃぶデート