加藤先生との約束は、平日の夜19:30。
先生と最後に会ったのは、
「NHKで報道番組のディレクターになります」と
報告に行った大学生のとき。
今回は「辞めました」の報告という事もあり、
前よりもっと緊張していました。
先生はちょっぴり怖くて、
私はまだ、二人きりでゆっくりお話をした事がありません。
先生は、可愛い女の子としか食事に行かない
というハードルもあり‥‥(笑)。
今回、思い切って連絡をしたところ
「しばらく旅行中」との返事が。
「取材はこれまで全部断っているんだよね」とも。
しかし先生は旅行帰りのその足で、
私に会って下さるというのです。
チューター(塾を卒業した大学生)に案内され、
教室で、先生を待つこと数分。
ドアを開けて入ってきたのは
トレードマークのサングラスをかけた、加藤昭先生。
15年ぶりの再会です。
- 三木
- 先生お久しぶりです。
今日はお忙しいのに、お時間ありがとうございます。
- 先生
- うんうん。
- 三木
- ご旅行ということでしたけれど、
どちらに行かれてたんですか?
- 先生
- ひみつ♡
- 三木
- 怪しい。(笑)。
本当にお変わりないですね!
今日すみません、カメラマンも同席させて頂きます。
- 先生
- じゃぁ、せっかくだから、
私のトレードマークのサングラスのところも
ちょっと撮ってもらおうか。
- 三木
- そうですね。
- 先生
- 授業はこれでやらないけどね、さすがにね。
- 三木
- 先生 かっこいいです!
(高校生の時には先生のサングラス姿が、
怖かったのですが、もう怖くありませんでした)。
- 先生
- あのー、タモリさんが私に間違えられた話があるんだよね。
タモリさんが「笑っていいとも」の最初の掴みの話で、
「俺、昨日ラーメンを食べに行こうと思って歩いていたら、
若い男に話しかけられて『加藤先生ですか』って言うから、
『違うよ』って言っても
『絶対加藤先生でしょう』って言うけど、
その加藤先生って誰?」って(笑)。
- 三木
- って言ったんですか、テレビで?へー!
- 先生
- その夜に、高田馬場で一番おいしいラーメン屋に行ったの。
で、その話したら
「昨日タモリさんいらっしゃいました」って。(笑)。
- 三木
- やっぱり!
高田馬場でその格好で歩いてると、
加藤先生の方が有名ってことですね(笑)。
- 先生
- タモリさんも心外だっただろうね。
「俺タモリだけど分からないの?」みたいな。
- 三木
- 本当にそうだと思います。
- 先生
- まあまあ。
- 三木
- 今回、ほぼ日の課題をするっていうことになって。
その課題3が、自由って言われたんですよ。
何にしようって思ったときに、加藤先生に会いたいなって。
- 先生
- なるほど、へぇ。
NHKには10年くらいいたんだっけ、12年だっけ。
- 三木
- 13年目で、去年の夏に辞めました。
- 先生
- 出産とかが きっかけで?
- 三木
- そうですね、子どもを産んで復職して
2年くらい働いてたんですけど‥‥。
- 先生
- 一度知らせがあったときに、番組見たよ。
いい番組だったよ。
- 三木
- 嬉しい‥‥ありがとうございます。
- 先生
- ふふふ。自由課題か。
自由、Be freeだね。私の生き方、Be free。
- 三木
- そうですね。
先生の仰るBe freeがすごく心に残っています。
- 先生
- 話したかな。Be freeにはもう一つ、意味があるんだよ。
Be free from any prejudice.
あらゆる偏見からフリーになろうっていう。
私のポリシーが込められているの。
- 三木
- えー!そういう意味もあったんですね。
- 先生
- そう、Be freeなの。
世界中の人がBe freeにならないとダメなんだよ。
今さ、小さな日本の島国根性で、
ネトウヨみたいなのがいるじゃない。
ナニ人とナニ人は出て行けとか、帰れとかさ。
日本で生まれ育って
日本の社会のために頑張ってる人たちが多いのに。
そういう人たちに対する偏見があるよね。
- 三木
- なんで先生は「偏見からBe free」と思うに至ったんですか。
- 先生
- 実は、自分に忌まわしい記憶がある。
絶対に話さないことだけど。「実は‥‥」ってやつで(笑)。
(課題2「打ち明け話」を読んでくれていました)。
- 三木
- はい、実は‥‥。
- 先生
- 小学校の低学年の頃だと思うんだよ。
近所に、大人たちが「朝鮮人朝鮮人」って言って、
みんなで馬鹿にしている貧乏な家があったの。
傾きかけた藁ぶきのね。
そこには、おばあちゃんが住んでいたの。
ある日上級生がさ、下級生我々を連れて、
「今日は面白い遊びをしよう」って。
「あの朝鮮人のばばあをからかって泣かせよう」と。
「変な泣き方するんだよ」って。
- 三木
- 悲しい‥‥。
- 先生
- 行ったら、ちょうど外に出てきたところで、
子どもたちが「朝鮮人、朝鮮人」って。
そうしたらおばあちゃんは、
なんとかって、ハングルでしゃべったと思うけど、
さらにからかって、石投げたの。
そのうちに、泣き出したの。「アイゴーアイゴー」って。
それを見て、子どもたちは、
「わーー、変な泣き方したーー」ってわーっと走り去る。
- 三木
- はい。
- 先生
- それが、どんなひどいことなのかも分からなかったの。
そうするもんだと思ってたの。
でも大学受験で日本史を勉強した時にさ、
だんだん分かってくるんだよ。
なぜ日本にいるのか、歴史的なことが。
そしてものすごい反省したのね、そのことを。
決定的なのはね、大学入ったときに
専門で朝鮮語を学んだの。
- 三木
- そうなんですね。
- 先生
- うん。
言語学だから、語学的なしくみを学ぶんだ。
そのときに、言葉の美しさに触れるんだよ。
そうすると、偏見がなくなるのね。
子どもの時に植え付けられたものってあるじゃない。
でもそれが本当にね、
氷が溶けるみたいに溶けていくのね。
そしてすごく、そこの言葉と文化をリスペクトする。
それが、語学の素晴らしさだと思うよ。
- 三木
- そっかぁ。
- 先生
- たとえば、英語。
電車の中でネイティブが、流ちょうな英語を喋ってると、
わぁ!って憧れたりするじゃない。
- 三木
- うん。カッコいいなって。
- 先生
- カッコいいなって。
そうするとアメリカに対するリスペクト出来るじゃない。
それと同じなのね。
でもさ、自分の知らない言語だとうるさいなって思ったり、
何を喋ってるんだって思ったりするじゃない。
語学の勉強をするっていうのは、
その国の文化やその国の人をリスペクトするっていうこと。
それが素晴らしいなって。
- 三木
- そっかぁ。
偏見からBe freeになるための、語学勉強だったんですね。
- 先生
- そうそう。
(続きます。)