もくじ
第1回一年ぶりに着てみたスーツ 2019-03-19-Tue
第2回スーツに着られていた日々 2019-03-19-Tue
第3回スーツ姿を引き立たせるもの 2019-03-19-Tue
第4回はじめてのフルオーダースーツ 2019-03-19-Tue
第5回僕とスーツのこれから 2019-03-19-Tue

1991年生まれの関西人。東京で4年ほど人事の仕事をしたのち、
今は島根県の離島で暮らしています。得意料理はだし巻き卵。

スーツが似合う男になりたくて

スーツが似合う男になりたくて

担当・山野靖暁

ほぼ日の塾、最後の課題は「自由にコンテンツを」。
しかし、この「自由に」というのが案外むずかしい。
自由だからこそ、あれもいいかな、これもいいかな
と書いてみるのだけれど、どうもしっくりこない。

そして締め切りも迫ってきたある日、僕は、
講師の永田さんに相談したときに言われた
「書き出したら止まらないことを、とにかく書いてみたら」
というアドバイスのメモが、ふと目にとまった。

そして僕は、そのヒントを手がかりに、
さいきん妙に気になって、自分の頭から離れなかった
スーツのことについて書きはじめた。すると僕の筆は、
みるみるうちに止まらなくなった。

僕とスーツの思い出と、そこにまつわる人たちについて
あらためてじっくり考え、書いてみたら、
僕は働くうえで大切にしたい「仕事の原点」を思い出し、
今のじぶんの「素直な気持ち」にも気づくことができました。

僕とスーツに関するおはなし、少し長くなりますが、
全5回、よろしければお付き合いください。

第1回 一年ぶりに着てみたスーツ

一年ほど前に、27歳の僕は東京から
島根県の小さな島に移住した。

島で暮らすようになって、僕の中には、
いろんな変化があったのだけれど、
その一つが、社会人になってから四年間、
ほぼ毎日着ていたスーツを着なくなったことだ。

三月の上旬、仕事の関係で、
とある高校の卒業式に出席するため、
久しぶりに、スーツに袖を通す機会があり、
「そういえば、長いことスーツ着てないな」
と、ふと僕は気づいたわけである。

でも、その日アイロンをかけたシャツに、
ネクタイを締めて、ジャケットを羽織り
みがいた革靴をはいて朝早く家から出るとき、
僕は背筋がピンと伸びて、
とても晴れやかな気持ちを感じた。

そして、晴天に恵まれた卒業式が無事に終わり、
そのあと、たまたま同僚とスーツの話になった。
しかしその話の中では、スーツはできるだけ
着たくないという意見が多数を占めていた。

たしかに、スーツは値段もそれなりにするし、
クリーニングに出すのも、シャツのアイロンも、
靴をみがくのも、どれもめんどくさいと言えば、
本当にその通りである。

でも、そんな同僚の話に合わせながらも、
実はどこかで共感しきれない自分がいた。

この冬、がぜんパタゴニアのフリースで
アウトドア派をよそおっていた自分が
どうしたことか、と思ったのだけれど、
あの日、久しぶりにスーツを着たときの
晴れやかな気持ち、身が引き締まる気持ちが、
妙に、頭の中から離れないのである。

僕が島に持ってきたスーツには、
どれも「豊洲」と書かかれたクリーニングの
タグがしっかりとついたままなのだけれど、
一着一着のスーツを、僕は部屋に並べて、
久しぶりに眺めながら、妙に頭から離れない
スーツのことを考えてみることにした。

(つづきます)

第2回 スーツに着られていた日々