- 清水
- これ社長室なの?
- 糸井
-
うん。でも、ほとんどミーティングルームだね。
ぼくの入ったミーティングはここで行われることが多い。
で、行く場所がないときはここにいれば。
- 清水
- なんとか(笑)。
- 糸井
- うん。でも、それを知ってて訪ねてきたり(笑)。
- 清水
- いいね、重厚感がなくて(笑)。風通しよさそう。
- 糸井
-
今考えてるのは、ここに一つ棚を作って、
ぬいぐるみを置く棚(笑)。
- 清水
-
(置いてあるぬいぐるみを指して)
あれは「おれ、ゴリラ」じゃないんですか。
- 糸井
- 「おれ、ゴリラ」の復刻版ですね。
- 清水
- 私、あれ持ってて、めっちゃかわいがった。大事にした。
- 糸井
- え、あれを持ってたんですか。
- 清水
-
持ってたの。親が清水屋商店という商売してたので、
明治の人が来てくれて、なんか特別なルートで。
- 糸井
- そうでしょう。あれ持ってるのはエリートですよ。
- 清水
- オッホッホッホッホ(笑)。
- 糸井
-
いや、本当に(笑)。
多分あのときも抽選で当たるってやつだったんだけど、
「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」っていうコピーで。
- 清水
- あ、そうでしたっけ。
- 糸井
-
うん。書いたのが、土屋耕一さんというぼくのあこがれの人で。
で、そのコピーとゴリラをプレゼントするってことと全部が
「なんて面白いことしてるんだろう!」と思って。
このゴリラはぼくにとってあこがれのものだったんだけど、
当時、これは石坂浩二さんにもらったの。
- 清水
- え、なんで?
- 糸井
- 石坂さんちに行ったら、あって。
- 清水
- なんで石坂さん‥‥え、まだ学生ぐらいでしょ?
- 糸井
-
学生ぐらい、二十歳ちょっとぐらいだったんだけど、
もう仕事してたんで。
- 清水
- へぇー、すごい。その頃糸井さんの仕事って何?
- 糸井
- コピーライターだったの。
- 清水
- コピーライターっていう言葉はそのときは?
- 糸井
-
もうあるある。養成講座から出たばっかりで就職して――
逆に俺、インタビューされてるじゃない(笑)。
- 清水
- でも知りたい(笑)。
- 糸井
-
で、大きめの仕事がきたときに知り合った石坂さんと
なんか馬が合ったというか面白がってもらって。
で、その頃はよく付き合ってもらってたんです。
石坂さんが結婚したばっかりぐらいだったんですよ。
- 清水
- あ、結婚したばっかり。浅丘さんとね。
- 糸井
- うん。で、本当に浅丘さんがご飯作ってくれてみたいな。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
で、ポルシェのオープンカーでさ、
「じゃ、原宿のあの交差点とこで待ってろよ」とか言って、
で、「やあ!」ってパジャマの上にコート着て、石坂浩二さんが。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
で、俺を乗せて、マンションに行って、
そこでもうご飯は作ってくれるし、
どこか痛いって言うと按摩してくれるしみたいな。
- 清水
- なんでそんなかわいがられたの?
- 糸井
- いい人なのよ、あの人。
- 清水
-
まあ、本当にいい方ですよね。
私と光浦さんが4、5年前にサイン会か何かやってたときに
「あれ石坂浩二さんじゃない?」って言われて見たら、
普通にお客さんとして立ってて(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
-
「見に来たんだよ」なんつって、
なんてフットワーク軽いんだろう!
と思ってびっくりしちゃった。
- 糸井
- うん。俺知ってる中でも、「いい人番付」に絶対いる人だよ。
- 清水
- へぇー、ラッキーでしたね。
- 糸井
-
うん。まあ、なんせ屈託のない人だったんで、俺はすごく楽で。
で、そのときに、「あ、憧れの!」って言って。
当時、明治製菓のコマーシャル、彼出てたから、持ってて。
で、「そんなに気に入ったんだったら、持っていっていいよ」
って言って、おサル抱いて帰ってきた。
- 清水
- 二十歳過ぎた人がぬいぐるみもらったんだ(笑)。
- 糸井
- ぬいぐるみは、なんか好きでさ。
- 清水
-
へぇー。
意外とメルヘンっぽいとこありますもんね、糸井さん。
女の子っぽいというか(笑)。
- 糸井
-
「女の子っぽいと言われてることを男もしちゃいけないのかな?」
って気持ちがある。
- 清水
- 今の風潮だ(笑)。
- 糸井
- そうか?
- 清水
- そうでしょう。
- 糸井
-
前に「ダ・ヴィンチ」の編集長だった横里さんという人がいて、
その人が一緒に本を選ぶ仕事を毎月やってたんですよ、
で、なんかね、女の子っぽいオシャレなものを彼は選ぶんだよ。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
で、なんかすげえなと思ってて。
「どうして選んだか」って説明することになってて。
「それ、なんで選んだの?」って言うと、
彼は「いや、かわいいなと思って」ってまず言うの(笑)。
- 清水
- 正直だね(笑)。
- 糸井
-
うん。で、その正直さがすごく気持ちいいわけ。
で、「まあねえ」って言ったら、説明で、こうこうこうこう、
こういうことで「女の子っていいなと思って」って言うんです。
- 清水
- 羨ましいんだ(笑)。
- 糸井
-
で、それを素直に言える横里さんのことを俺はすごく尊敬して、
あのくらいのところまで行こうと思ったの(笑)。
- 清水
- ほう。そんなこと思ってたときがあったんだ、ちゃんと。
- 糸井
- うん。
- 清水
- そのぐらいに行こうと(笑)。

- 糸井
-
うちの子たちがこのあいだよその人と話をしてて、
「ほぼ日の人たちは、自分たちがよくできるようなことでも、
相手の人がちょっと何かいいこと言うと、
『え、それどうやるの? 教えて』ってすごく素直に聞く」
って言うわけ。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
で、「なかなかないんですよ、普通の会社は。
うちのほうがすごいって言いたいから」。
- 清水
- ああ、そうかも。
- 糸井
-
って聞いて、あ、それはいい。
俺はそうだし、「教えて」ってタイプだから、
なんかそういうのが会社に乗り移ってるのは
いいことだなと思ってさ。
- 清水
- 似てくるんですよね、人間って不思議と。
- 糸井
- 似てくるんだろうね。
- 清水
- うん。じゃ、社員の男の人も、かわいいものが好きな人多いかも。
- 糸井
-
ああ、そうかもしれないね。こだわりがないよね。
逆に言うと女の子たちも、
「ラグビーに行こうぜ」と言ったら、スッと乗るよね。
- 清水
- へぇー。好奇心が強いのかな。
- 糸井
-
何なんだろうね。男女の色分けがないんじゃないかな。多分ね。
あ、逆に言うと、それは男の色気がなくなってんじゃないのかね。
- ――
- それはないですね(笑)。ないです。
- 糸井
- それ、ダメじゃん。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
- 外では男の色気を出してる可能性もなくは‥‥「俺ってさ」みたいな。
- 清水
- 急に(笑)。そんなことできるの? オンオフみたいなの。
- ――
- そんな切り替え、そんな器用なことできない(笑)。
- 糸井
- (笑)。サンドイッチなんかでも食パン2枚のやつ、ガーッと食うとか。
- 清水
- それが男か。イメージが(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
-
このあいだテレビ見てたら、平成になった人たちの若い人の生き方ってやつで、
こういうようなスペースで共同に暮らしてるっていうのがありますよね。
シェアハウスみたいなの。糸井さん、できそうですよね。
- 糸井
-
今ではできるかもしれないけど、できる人に対して偏見を持ってたね。
「ダメだ、できちゃ」って思ってたね(笑)。
- 清水
- 恥ずかしがれよって(笑)。
- 糸井
- うん。だって俺、男子高だもん。
- 清水
-
男子高っていうのは‥‥
そんなに関係する? やっぱり10代の3年間って。
- 糸井
-
うん、するよ。女の人はもう何というか、神様だもの。
憧れだもん。
- 清水
-
へぇー。でも、うちの弟もそうだけど、上に姉ちゃんがいる人って、
けっこう女の人に対しての諦めがはじめからあるから(笑)、
あんまり高望みしないって言ってたけど。
- 糸井
- そんなに自己分析できてるってだけですごいね(笑)。
- 清水
- 諦め(笑)。
- 糸井
-
いやいや、お姉さんって具体的には知らないんですけどね、
どんな人かね、その弟の方の(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 案外屈託のない方なんでしょうね(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- これすごいな。全部俺に聞かれてるな。
- 清水
- 私、でも、もっと聞きたいこといっぱいあった、もともと。
- 糸井
- え、そう?
- 清水
- いつも仕事の話で流れていっちゃうからね。

- 糸井
-
うんうん。じゃ、ぼくのところに質問が来たら、それはそれで答えましょう。
もともと決まりがあるわけじゃないんだけど。
ぼくもね、清水さんについては、話したり聞いたりしてみたかったのよ。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 伸坊ともそんな話っていうのはあまりしてないしさ。
- 清水
- 旅行行ってもそうだった?
- 糸井
- うん。しょうもないことは言ってんだけど(笑)。
- 清水
- あ、わかる。
- 糸井
-
「伸坊ってどうだったの?」みたいなこと、あんまり話してないんだよ。
そういう典型の人が清水ミチコで、アッコちゃん(矢野顕子さん)
とは案外ね、しゃべってることあるんだよ。
人生の深淵について語ったりしてるんだ、たまには。
- 清水
- へぇー。文字になってないだけで。
- 糸井
-
うん。例えば一緒に気仙沼から帰ってくるときとか、
俺が寝ちゃうの知ってるから、うちのマネージャーは縦に席取ってくれるの。
両方が隣が空いてる状態で。で、アッコちゃんは寝ない人らしくて、
「ちょっといい?」って言って隣に来て、普通にちゃんとした話をするんだ。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 何ていうんだろう、音楽で技術に絡むようなタイプのこととかね。
- 清水
- そんなことも話すの?
糸井
話す。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- 例えば上原ひろみとやったあとに足を痛めた話って知ってる?
- 清水
- 知らないです。なんで足なの?
- 糸井
- ペダル。
- 清水
- ペダル踏み過ぎってこと?
- 糸井
-
ペダル、ガンガンものすごい、普段使わないぐらいに踏むから。
結局、足の筋肉おかしくなっちゃったみたいな。
- 清水
- カッコいい(笑)。
- 糸井
- カッコいいだろ?(笑)
- 清水
- やっぱり出ないね、素人は、そのコメントは(笑)。
- 糸井
- すごいだろ?(笑)
- 清水
- すごい。
- 糸井
-
そんなことから、それはどういうことなのかを聞いてったりとかさ、
あるいは、戦略じゃないんだけど、同じことやってるとつまんないから、
こういうこと考えてるだとか、急に「あの本読んだ」みたいなことだとか。
- 清水
- へぇー、脈絡なく。
- 糸井
-
うん。一つのこう何ていうんだろうな、
ビジネスというよりは事業家として発想してること、やっぱりあるよね。
- 清水
- え、意外。そうですかね、へぇー。
- 糸井
- うん。ビジネスって言うと、なんか誤解されるんだけどね。
- 清水
- うんうん、お金儲けじゃなくてね。
- 糸井
-
うん。例えばサッカーやってる人がサッカー界をどうしていくかってとか、
このチームをどう立て直すかとかみたいなことを、考えるじゃないですか。
アッコちゃんの中ではそういうのがずいぶんあるよね。
- 清水
-
うんうん。とにかく横ぶれない人ですよね、矢野さんって。
上手に話すっていうか。
- 糸井
- 面白いなあ。
- 清水
-
意外と、意外とってことないけど、石川さゆりさんと何回かやってるけど、
『天城越え』みたいなのは絶対、なんか、やらないもんね。
- 糸井
- やんないですね。
- 清水
- 自分の世界じゃないものはね、上手に身を離すというか。
- 糸井
-
そうだね。だから、ここまでは近づけるっていう。
ボルネオのジャングルに入ったときに、
このサルにこういうことしちゃいけませんよみたいなことは、しないよね。
- 清水
- いきなりたとえが野性的過ぎる(笑)。
- 糸井
-
ウィ~ウィ~! みたいなさ(笑)。
ムカデに刺されたらこうしましょうみたいなことは
やってますよね。
それはやっぱりね、中学生から、何ていうんだろう、
一人で生きてきたところを持ってる人だから。
- 清水
- あ、中学でしたっけ。
- 糸井
- いや、高校からです。高校からだけど、俺は絶対もうその前があったと思う。
- 清水
-
ああ、なんか中学のときに家帰って自分の世界に‥‥
宿題もやった、勉強もした、自分の世界に没頭して詩の世界に入っていくとか、
そういう時間があったって、なんか本に書いてあった。
- 糸井
-
親と子って、いつどう離れるんだろうって一番難しい問題だけど、
アッコちゃんとこは両方がもうわかってて離れた感じがするから。
- 清水
- 親もね。
