糸井 |
十文字さん、まずは
犬に興味を持ったことがきっかけで、
犬祖神話にはまったんですよね。
それで、神話の巻物を見つける宝探しの旅に、
いきなり出かけちゃった
しかも、黄金の三角地帯と呼ばれる麻薬栽培地に。
もう、笑うしかないぐらいの話なんだけど……。 |
十文字 |
宝探しは、燃えました。 |
糸井 |
わかる(笑)。 |
十文字 |
だからもう、心理的には
「絶対に見つけるまで行くぞ」と。
合計、7回ぐらいいったかなぁ、あの山の中に。 |
糸井 |
えらいところでしょう? |
十文字 |
えらいところですよ……。 |
糸井 |
まずは、どこに行くの? |
十文字 |
まずは、
バンコクからチェンマイに行って、
チェンマイから、チェンライっていう、
昔のビルマとの国境があるわけですよ。
そこに行ってみたんだけど、
その先どう行っていいかわかんないからさぁ……。 |
糸井 |
そこまでだって、
そうとう時間がかかってるよね? |
十文字 |
まぁそこは、飛行機乗り継いで、
そのあとクルマを雇って、
はじめの頃はわからないから
2日ぐらいで着いたんだけど。 |
糸井 |
そこまでは、そのへんの人のクルマでいいんだ? |
十文字 |
そこまではね。
そこから先、山に入らなきゃならない。
その山に入る時には、
当然、ガイドを雇わなきゃならない。 |
糸井 |
「そもそも、ガイドは誰だよ?」ってことだよね。 |
十文字 |
ガイドも誰ができるかわからないから、
チェンライっていうところのバーに、夜に行って。 |
糸井 |
あぁ、そうかぁ。 |
十文字 |
だいたい、悪いヤツっていうのは、
夜、クラブにいるわけで、わかるじゃないですか。 |
糸井 |
うん。 |
十文字 |
だからそういうところに行って、バーテンに、
「自分はこうこうこういう理由で、山に入りたい」
っていうことを、話したわけです。片言の英語でね。
「こういうヤツがいるから、紹介するよ」
そこで食堂のオヤジを紹介されて、そのオヤジは、
まぁ要するに、ヘロインの売人だったわけです。
だってその山は、それ以外やってない土地だから。 |
糸井 |
シルクロードじゃなくて、麻薬の道ね。
いわゆる、麻薬栽培の黄金の三角地帯。 |
十文字 |
そう。
ヤオ族という部族は、
アヘンにする「けし」を
畑で作っている製造者たちだから。
植物の製造者とヘロインバイヤーたちの間には
「 K・M・T」と呼ばれる中間業者がいて、
その彼らが、
アヘンをヘロインに変えるための工場を、
山の中に持っているわけ。
すごい武装した集団が、
山のなかにいるんだけど。
そこからヘロインを
街におろしてる売人を紹介された。 |
糸井 |
(笑)そこまでのルートしか開発されてないよね。 |
十文字 |
されてない。 |
糸井 |
そこまで行くのだって、大変なんだろうなぁ。 |
十文字 |
ふつうの人は、麻薬以外の用事で行かないんだから。 |
糸井 |
(笑) |
十文字 |
最初はまず何をしたかっていうと、
その売人と一緒に山に入って、まず1泊野宿して、
いちばん近い部族のボスに、あいさつしたわけよ。
そしたら、「なんだ、おまえは」と。
向こうからしたら、わけわかんないんだから。 |
糸井 |
……そうだよねぇ。 |
十文字 |
俺も半分わけわかんないんだけど。 |
糸井 |
(笑) |
十文字 |
とにかく、奥深い山の中に町があって、
寺もあれば病院もある。小さなホテルもある。
まるで西部劇に登場する、
メキシコゲリラみたいっていうのかなぁ、
映画と同じように銃帯をバッテンに
たすきがけして、2丁拳銃さして
ゴム草履履いてるようなヤツらが
もうほんとに、ウロウロしてるんですよ。
そこに俺がやってきて、
「いや実は、ヤオ族の始祖神話の写真を撮りたい」
って言ったって、誰も信じないわけよ。 |
糸井 |
(笑)信じない! |
十文字 |
「どうせヘロイン買いにきたんだろ?」
「違う!」って言ってるのに、誰も信じない。
最初は、それですよ。 |
糸井 |
じゃ、行ってそれだけで
終わるっていうことも、あったわけだ? |
十文字 |
最初のほうは、それだけで終わってた。
1回目なんか、どうしていいかわからないから、
ただそのへんで酒飲んで帰ってきただけで。 |
糸井 |
(笑)「街の雰囲気は、こうだな?」みたいな。 |
十文字 |
「だいじょうぶなようだ」とか。 |
糸井 |
いや……きっと
「だいじょうぶ」じゃなかったような。
そのヤオ族って、麻薬ルートから、更に奥だよね? |
十文字 |
もっと、すごい奥です。
ヤオ族の信仰っていうのは、
中国の昔の道教を中心に、
民間信仰が混交しているんですけど、
呪術師がいちばんチカラを持っているんです。
たまたま偶然、呪術師の息子が、
こいつがけっこう進歩的で、
バイクか何かを乗りまわして
山から下りて来ていたの。
その時に偶然出会って、
「いやぁ、おれ、ヤオ族だよ」
「え? ほんと! あんたの村へ連れてってくれ」
そんな話になったのが、
そもそものきっかけだったんだよ。
その偶然がなければ、
ヤオ族の村なんて入れなかったわけで。 |
糸井 |
それってもう何回目かに行った時だよね? |
十文字 |
4回目。 |
糸井 |
そりゃ、
十文字さんが日本で育てた犬は
そこには、いないだろうなぁ……。
俺の思う「十文字さんのイメージ」は、
車があって犬がいて、
ひとりで入りこんでいくというものだったんです。
それでも、充分、かっこいいと思っていたけど、
もう、いまや、
「なまやさしいイメージだった」と言いたい。
単にトラが来るから怖いみたいなレベルとは、
まったく違った怖さだろうなぁ。 |
十文字 |
そのあたりの山って、6つの部族が徘徊してて、
ぜんぶ言葉も違うし、みんな武装しているから、
あぶないわけです。
途中の何回目からは、もう、
ヤオ族の呪術師に民族衣装をもらって、
それに着替えるようになった。
片言のヤオ語も話すようになって……。
そうじゃないと、
ジャングルで遭遇した時にあぶない。
「おまえ、なんだ? 誰だ!」
ってことになるから。
武器持っていないわけだし。 |
糸井 |
十文字美信っていう人は、思えば、ずっと、
「おまえは誰だ?」
と言われつづけた人なんですね。 |
十文字 |
(笑) |
糸井 |
「おまえは誰だ」っていう人生(笑)。 |
十文字 |
そういうものの集積でしか、
ぼくは、本を作れないのかもね。
だから、いつか一度、いままでやってきたことを
まとめてみたら、おもしろいかもしれないけど。 |
糸井 |
大変な、おもしろい話だねぇ……。
でも、それは、本人しかできないね(笑)。 |
十文字 |
(笑)できない。 |
糸井 |
あるいは、書生として入るしかないね。
仕事として秘書がいてもムリだろうなぁ。
「俺は、十文字美信になりたい!」
っていうぐらいの人じゃないと、ムリだわ。
いま、話を聞いていたって、
もっと知りたい、もっと知りたいの連続だから。
キリがないもん! |