糸井 |
「黄金」の本のほうは、『わび』に比べると、
きっと、知りたいという欲が強すぎるんですよ。
「黄金をめぐる戦い」があるような気がする。
『わび』には、戦いじゃない何かを感じたわけで。 |
十文字 |
黄金は、途中で3Dで見せる、
みたいなことを、やっていたでしょう?
世間がまだ3Dに何の興味も持ってないころから、
自分で機材を作ってやってて……。
俺、特許をふたつ持ってるんだよ。 |
糸井 |
(笑)そんなことまでしてたの? |
十文字 |
SONYがそれを見て、
「共同で名前をだしましょう」って電話がきたから、
連名で特許持ってるんですよ。 |
糸井 |
(笑)すごいなぁ、それ。
黄金の時の写真には、なんか、
スケベさがあるような気がしたんです。
「奥のほうは、どうなっているんだろう?」
というか、学問の持っているスケベさに
似たものを感じていたんですよ。
「すごい知りたいんだろうなぁ」
とは思ったんだけど。
『わび』では、そのスケベさじゃなくて、
もっといいスケベさになっているよね。 |
十文字 |
たぶん、黄金のころは、
まだ必死に勉強をしていたからだと思うんです。
言ってみれば
「教養を深めたい」というスケベさかもしれない。
「仏教ってなんだ?」
「阿弥陀如来ってなんだ?」
「三昧ってなんだ?」 |
糸井 |
大脳を感じますよね。 |
十文字 |
そういう、いわゆる勉強をやっていたんだけど、
最終的には3Dにしたことで、
「もう、金は、娯楽だぞ!」と……。
そこで、結論が出たんですよ。
金っていうのは、やはりたのしむもので。 |
糸井 |
あ、そうか。
3Dにした時に、スケベさが成仏したんだ? |
十文字 |
うん。「金は、体験だよ」と。楽しもうよ、と。 |
糸井 |
その意図は、
人には理解できなかっただろうなぁ(笑)。 |
十文字 |
そりゃ、そうだよ(笑)。 |
糸井 |
でも、自分の中では解決したね!
目の前に、金を山ほど置いた場所を作るのが、
ほんとうの娯楽だよね。 |
十文字 |
うん。快楽という意味ではね。
でも人は面白いね、知ってしまうと、
その瞬間からもう、ざわざわしないんだよ。
まだ、何も実際に行動を起こしていないから、
ほんとうは、
クチにするべきじゃないのかもしれないけど、
最後は自分自身で
何かをしようと思っているんです。
作りおわったあとは。
まだ、ぜんぜん、見えていないけど。 |
糸井 |
あぁ……。
自然に、そこに行くよね。
つまり、あらゆる計画は都市計画になるように、
たぶんそこに、行くんですよね。 |
十文字 |
即身成仏とかやる坊さんの気持ち、
なんかわかるもん。
即身成仏してみたいっていう気持ちは、
なんとなくわかるよ。 |
糸井 |
つまり、なんか
最後は、生きることそのものを
アートにしていくしか、ないんだよね。 |
十文字 |
最後は、自分がただ、
立ったり座ったりしていれば、
それを見た人が、
「あ、もうこれだ」と……。「こいつはすげえぞ」と。 |
糸井 |
「俺がアートだ」と。
それは同時に、
「おまえがアートだ」
っていうメッセージでもあるんだよね。 |
十文字 |
そう!
そう思ってくれないとね。 |
糸井 |
十文字さんは、ポルノには行かないの? |
十文字 |
未発表のポルノはあるよ。自分だけのね。
ただ、個人的なものだから。
だけど、ポルノは、しみじみ撮るねぇ。
俺、いちばん最初に撮っていた写真は、
ガールフレンドと
セックスしている時の顔だったから。 |
糸井 |
あ、そうなんだ。
ポルノも、美というものだよね。
「欲情するってなんだ?」
「エネルギーが沸きあがる理由は何?」
ということでは、
研究者になれるタイプの話だと思う。
ただ、性器がうつっているだけで
もう載せられないというものなわけで、
だけど毎日毎日みんなが見ているのがポルノ。
これを、ほんとにいやらしい意味じゃないと
信じてもらって作った時には、
いいものができるような気がして……。
性には、支配関係があるでしょう?
夫婦がなぜセックスをしなくなるかというと、
それはきっと支配関係が壊れるからですよね。
支配関係がある夫婦は、
いつまでもセックスをどんどんするだろうし。
そういうことを考えて、作ってみるというか。 |
十文字 |
だけど、エロティシズムって
共有できないのかもしれないね。 |
糸井 |
でも、共有できるかどうかは、
試せないじゃないですか。 |
十文字 |
試せない。
でも、エロティシズムは、
同時に持つものではないと思う。
共有するエロティシズムなんて、
底が浅いような気がする。
エロティシズムだけは、深ければ深いほど、いい。
自分の持っているものを他人が見て、
すごいエロティシズムを感じた瞬間に、
そこから離れるような気がするんです。
なんか、そういう感じがある。
つまり、自分の作ったエロティシズムを
誰か3人ぐらいの人に見られた瞬間に、
作った側のエロティシズムはなくなっちゃう、
という宿命があると思う。
見られて感じるエロティシズムは
鮨を食べに行って、
まぐろを焼いてもらうようなもんでしょう。 |
糸井 |
俺はそこは、あいだに
媒介として「黄金」にあたるものを、
1回、撮るべきなんだと思うんですよ。
つまり、人がいいって思うに決まってる
大商業主義的なポルノグラフィの傑作は、
「黄金」にあたるものですよね。
いいに決まっているものを探る商業主義を通して
できあがったエロティシズムを通貨にすれば、
答えが見えてくるんじゃないかなぁ? |
十文字 |
エロティシズムって、それぞれの性格と
モロに直結しているものだから、
微妙に違うと思う。
ほんとのことを言うと、
誰もが同じように感じる
エロティシズムなんてないんですよ。 |
糸井 |
でも、黄金が消えなかったように、
みんな、セックスしつづけているじゃないですか。
だとしたら、みんなの個人的な
エロティシズムを抽出したのがポルノですよ。
ピンナップもそうだし。 |
十文字 |
エロの一部は、共有できるんだよね。
でも、自分の感じているエロティシズムって、
エクスタシーに近いじゃないですか。
だいじにしているし、それはやっぱり、
共有した瞬間にエクスタシーじゃなくなっちゃう。
娯楽だとか、別なものになっちゃうよ。 |
糸井 |
黄金が娯楽であったと同じように、
おおぜいに見せる、
きれいなポルノってあるじゃない。
それがいちばん商売になったわけだけど、
「それじゃ足りないよね」
とみんなが思いながら見ている。
その「足りなさ」をわかるために、
1回、いちばんいいものってなんだって
探ってみたらどうかなぁと思うの。
「あらゆる芸術がポルノに近づき、
あらゆるポルノは芸術に近づく」
っていう言葉があるようにね。 |
十文字 |
たぶん、象徴化して抽象化しないと、
なかなか人と共有はできないんですよね。
だけど、他のことならいざしらず、
エロティシズムだけは、象徴化しちゃうと、
自分の生理に届かないものがあるんですよ。
エロティシズムだけは、具体的なほどいいなあ。
そこはたぶん、
男のことで言えば、実際に女を触っているのと、
イク瞬間との違い。
イクのは、自分だけのものなんです。
それは共有できない。
そこをすごく大切にしたいと
思っているヤツには、
なかなか共有できないですよ。 |
糸井 |
なるほど。
いまの話、女の人でちゃんと話がわかる人が
参加してくれたら、答えが出てくるかもね。 |
十文字 |
支配するとか、支配されるとか、
そういうものが、すごく大きいものだと思う。 |
糸井 |
女のほうも、
支配されることで支配しているんですよね。 |
十文字 |
うん。
臆するとできなかったりするし……。
上になったり、下になったり、
体位じゃなくてね。気持ちの持ちようがね。 |
糸井 |
ただ、話していて、
俺と十文字さんの違いに気づいたよ。
たぶん、俺のほうは、とにかく1回ばらまいて、
そこで流行が生まれて裾野が広がってから
見えてくるものを見たい、というのがあるよね。
だけど、十文字さんはきっと、
先に個人で見たいんだよね。 |
十文字 |
そうかもね。
何よりも自分が感じたいんだと思う。 |
糸井 |
思えば、しあわせな人生だよね。
ぼくは要するに、他者志向なんですよ。
「俺は景色」なんです。
十文字さんの場合、景色は従属物でしょう?
それは、表現の形態が変わってくるだろうね。 |
十文字 |
かつてはそういう気持ちが強かったけど、
でも、いまは個人の体験は、
つまらなくなってきたんだよ。 |
糸井 |
本にするだとか
展覧会にする以外の表現方法は……。 |
十文字 |
「ないかね?」と、すごく思ってるよ。 |
糸井 |
『わび』について、
「まあ、満足してるよ」って言ってたけど、
どうも、さっきからの話をきいていると、
してないよね? |
十文字 |
(笑)やっぱり、ほんとは
本を見た人が実際に体験してほしいよね。 |
糸井 |
見る人ぜんぶに、
十文字さんの目の中に入ってもらって
それを通して見てもらいたいんだろうし。
映画でもないし……
表現って、いつもその枠の中で
やるしかないんだろうねぇ。 |
十文字 |
映画よりも、舞台が好きですよ。 |
糸井 |
そうだね。舞台は1回性だからなあ。 |
十文字 |
舞台のほうが好きだし、俺に合ってると思う。 |
糸井 |
スポーツは? |
十文字 |
すごい好き。 |
糸井 |
やっぱり! 偶然性のかたまりだもんね。 |
十文字 |
けっこう見てますよ……。
ぼく、ハンマー投げの室伏くんと
仲がいいんですよ。
こないだBSで彼を扱った番組を見ていたら、
感動しちゃって、すぐに『わび』を送ったの。
そうしたら、すぐにメールが入ってきて、
「いま届きました。
十文字さんの写真を1枚1枚めくりながら、
見えないわびを感じます」
って……また感動しちゃったよ!
すごいよなぁ、と思って。 |
糸井 |
ハンマー投げもそうだし、
あらゆるスポーツはそういうものですよね。
すごい精神力なんだろうなぁ。
トップクラスの選手は、ほんとにすごいもの。 |
十文字 |
うん、すごいと思った。 |