十文字美信的世界。
生き方が、もう表現であるような。

第7回 美しさって、なんだろう?


糸井 少数民族のヤオ族の経験のあとに、
十文字さん、急に黄金を撮りはじめたんですか?
十文字 ヤオ族に関心を持ったのも、
『八犬伝』がきっかけじゃないですか。
それで、俺、よく考えてみたら、
日本のことを知らないなぁ、と気づきまして。
糸井 あぁ、なるほど。
いままで外に出ることをやっていたら、
スタート地点のことを見ていなかった、と。
十文字 『南総里見八犬伝』も、
子どものころの映画を見てはいたけど、
でも、よってたつところの内容を
ぜんぜん知らなかった。

そこで、ここいらで1回、日本というものを、
ビジュアルでとらえてみたいなぁと思ったんです。
「ビジュアルで」っていうのは、
深く考えることが嫌いだからなんだろうなあ。

日本美術の文献を何冊か買ってきたんですけど、
どの時代にも共通してあったのが「黄金」だった。


「日本人って言ったら
 茶とかわびさびだとか
 もののあはれだとか言われているけど、
 それは時代時代のものじゃない?
 古代から近世まで、ずうっと共通して
 日本人が興味を持ってるのは、黄金じゃねぇか」
糸井 そう気づいたんだ。
十文字 しかも、西洋もそうだなぁ、と。
西洋と東洋の黄金への興味って、
違うかたちなのかな、一緒なのかなぁ、と、
そういうことを思いはじめたのが、最初だね。
それでチョコチョコ、見にいっては、
撮らせてくださいってふうに、やってた。
糸井 光るものがあると行くって感じだったよね。
そこでたまたま、黄金には
仏像が多かったってこともわかったわけで。
十文字 「漢倭奴国王」と記された
西暦57年のころの金印からはじまって、
光悦・光琳あたりまで、金はずっとあった。
現代もそうじゃないですか。
糸井 黄金のシリーズが出はじめた時に、
「早い話が、黄金じゃねえか!」
と十文字さんが言いたい気持ちについて、
思ったことがあるんですよ。
そのことは、むずかしいことじゃないですか。
「趣味がいい」っていうのは、人の価値だから、
「趣味がいい」を追及していると、
他人とのすりあわせが絶えず必要なんですよ。

「趣味悪いじゃん?」って、ひとこと
言われたらぜんぶが崩壊してしまうみたいな、
そういうことってあるわけだけど、
そこに、飛びこんだんだなぁ、と思いまして。
「趣味がいい」と言われているその正体が、
黄金を撮りつづけている十文字さんに、
ゆるがされているなぁと思って見ていたんです。


黄金の中のハゲたものに、人が
趣味のいいものを見つけたりしている。
「それってどういうことなんだ?」
というのが十文字さんだったわけで……。
いろいろな人たちが、自分の寄って立つ
美意識というものを疑わないことに対して、
十文字さんの活躍があった。

おもしろいのは、かならず編集者をまきこんで、
まわりを、説得できていたということなんですよ。
十文字さんがテーマに取りあげることって、実は、
「これ、おもしろいと思うんだよ」
そうやって、酒場で話して終わりになっちゃうような、
かなり「いがらっぽい」ところなんですよね。

だけど、その気持ちを、作品にするまで届けている。
もちろん、自分も同時にのめりこんでいってる。

それで黄金があって、
今回の『わび』が来た時に、
十文字さんのこれまで辿ってきた道が、
俺の中で、ぜんぶつながったような気がしたんです。

早い話が、十文字さんのやってきた仕事は、
「みんながキレイだと思うものと
 自分がキレイだと思うものとは、
 同じなのか違うのか。
 ……どっちがウソなんだ?」

というか。
十文字 まぁ、そうですね(笑)。
糸井 だから、今回の『わび』を見た時にも、
もう、めくるたびに、
「おまえはどうなのよ?」
って言われているような気がして、
だから驚いたわけだし、おもしろかった。
十文字 (笑)
糸井 なおかつ、『わび』がたのしいのは、
十文字さん自身でも、
「これは失敗かもしれない」
といくものを、ときどき混ぜていますよね。
それが、勇気なんですよ。
十文字 うん。
さっきした話につながるんだけど、
「何でもないものは、ほんとに価値がないの?」
っていうのは、けっこう
この本で、俺の言いたいことなんだよ。

糸井さんにそんな風に思われているんなら、
この本はそうとう成功しているのかもしれない。
糸井 そうだよ。
十文字 俺がいくらそういうつもりでも、
見た人はそんなことを思わないだろうな、
と思っていたから。
糸井 「これを、美しさとして混ぜこんでいいんだ」
っていうのを、
自分の中で決済しているんですよね。

十文字さんは、
写真の世界の縦の軸で
出世していきたいんだったら
ハズすべきものが、
絶対にあることをやっちゃうから。
十文字 それは、けっこういわれるね。
糸井 ほんと?
十文字 言われる言われる。
「十文字さんみたいに評価の定まっている人が、
 どうしてそういう写真を出すんですか?」
と言う人がいるんです。
糸井 それは、ネガティブな見方ですね。
十文字 そりゃ、そうだよ。
糸井 俺は違うんですよ。
もう、まるっきりポジティブ。

十文字さんの写真が言っているのは、
「これ、みなさん、どうっすかね?」
ってことで。
十文字 (笑)
糸井 「俺は、ちょっといいなと思ってるんですけど」
とか。
十文字 うん。
糸井 そういう写真が混じるんですよ。
で、お茶の章にいくと、もんのすごく安定する。
十文字 (笑)
糸井 その安定は、みんながつきあっている
大ウソかもしれないんですけどね。


(明日の第8回に、つづきます)

2003-01-20-MON


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