- ──
- すごいと思いました。
「真ん中は、何にもするな。
それは、まわりがやってくれる」
って‥‥。
- 國村
- ねえ。
- ──
- そんな「主役論」のような言葉を、
松田優作さんは、30代の若さで。
- 國村
- そうですよね。本当にね。
ハリウッドの撮影システムって
優作さん自身も
はじめての経験だったわけですけど、
「OKテイク、NGテイク」
って、基本的にはないんですよ。
- ──
- ない‥‥とおっしゃいますと?
- 國村
- つねにカメラが4台くらいまわっていて、
ぼくたち役者は、
同じシーンを平均7テイク、撮るんです。
つまり、1シーンにつき「4かける7」で
「28」の素材が集まったら、
そろそろいいかと、次の撮影に進むんです。
- ──
- 「1発OK」という概念がないんですか。
- 國村
- ないんです。
- ──
- バリエーションを押さえるのが、撮影。
- 國村
- そう。で、最後の編集のときに、
28のバリエーションから、ひとつ選ぶ。
つまり、ぼくら俳優の側にしてみたら、
7テイク演技すると言っても、
同じように7回やったって意味がない。
- ──
- ああ‥‥。
- 國村
- ぼくは、そんなことを知らずに、
言われるがまま、
4テイクくらい同じような感じでやったら、
監督のリドリー・スコットに呼ばれて、
「キミキミ、いま4テイク撮ったけど、
ぜんぶ同じイメージちゃうか?」と。
- ──
- うわ。
- 國村
- 「次はな、ぜんぜんちがう、
キミの別の引き出し、見せてや」と‥‥。
- ──
- うわー‥‥。
- 國村
- 大阪弁ちゃいますけどね。
- ──
- ですよね(笑)。
- 國村
- でも、優作さんは、
そのへんのことはさすがにわかってはって、
「俺は、この映画の現場では、
リドリーから、
おまえのイメージそれしかないのかって、
言われ続けてる気がする」って。
- ──
- あの「松田優作」でさえ‥‥必死で。
- 國村
- たしかに、優作さんの現場を見てたら、
ワンテイクごとに
まったく、ちがうことをやってはった。
日本の映画ではあんまり見たことない、
大袈裟な動きまでやってはりました。
- ──
- そうなんですか。
- 國村
- 同時に感じたのは、舞台とちがって、
映像や映画における俳優って、
なんというか、
大きな建築物を組み上げていくための
パーツや素材、ピースなんだな、と。
- ──
- 松田優作さんとは、
『ブラック・レイン』の撮影のときに、
お会いしただけですか?
- 國村
- いや、日本に帰ってきてから一度だけ。
でも、やっぱり、
濃いやり取りをさせていただいたのは
『ブラック・レイン』のときです。
- ──
- そうなんですね。
- 國村
- 撮影現場ではずーっと一緒でしたし、
撮影後の食事には、
4回も連れて行ってくださいました。
- ──
- ええ。
- 國村
- そのあとも、まだ飲みたらんやろう、
俺の部屋に行って、
もういっぺん飲みなおそうや、って。
- ──
- 若き國村さんには、うれしいですね。
少し緊張しそうですけど‥‥。
- 國村
- ぼくらとちがって優作さんの部屋、
ものすごいんです。
プライベート・バーがついている、
スウィートルームで。
- ──
- わあ。
- 國村
- 棚にびっしり酒の瓶が並んでるんです。
で、4席くらいのカウンターがあって。
好きな酒、飲んでいいぞって。
- ──
- なんかもう、
そこが映画のワンシーンのようです。
- 國村
- ぼくはビールでええですわって言って、
優作さん何飲みますって聞いたら、
俺はこれでいいんだって、
ティーバッグのお茶を、
ちゃぷちゃぷしながら、飲んでました。
- ──
- 松田優作さんといえば
お酒というイメージがありますが‥‥。
- 國村
- そのころはもう、たぶん身体的に。
- ──
- でも國村さん、優作さんとの思い出を、
本当にうれしそうにお話されますね。
ちなみに高倉健さんは、
そんなとき、どうされてたんですかね。
- 國村
- 高倉さんは、現場で一緒になることは
ぜんぜんなくて、
泊まっているホテルも別だったんです。
でも一度、タクシー待ちをしていたら、
向こうから高倉さんが歩いてきて。
- ──
- ええ。
- 國村
- 「今回せっかく同じ現場にいるのに、
食事もご一緒できず申しわけない」
- ──
- いま「健さんの声」で聞こえました(笑)。
- 國村
- あの「高倉健」が、
ぼくみたいな端っこの役者に向かって。
- ──
- はい。
- 國村
- そういう人なんです。
「いえいえ、とんでもないです」って、
恐縮してたら、
「こんな言い方は失礼ですが、
自分のほうが海外は慣れてると思う、
もし、困ったことがあったら、
いつでも連絡をください」と言って、
ホテルの電話番号と部屋番号に
「小田」って高倉さんの本名を
紙切れに書いて、くださったんですよ。
- ──
- うわあ、かっこよすぎる。
でもあの映画、あらためてすごいです。
なにしろ國村さんの出演シーンなんか、
ボスの松田優作さんと、
その子分の内田裕也さんと國村さんの
絡みじゃないですか。
- 國村
- 裕也さんは、どっかでバッタリ会うと
いまだにこっちを指さして
「あ! 『ブラック・レイン』の!」
って言うんです(笑)。
- ──
- いいですねえ(笑)。
- 國村
- そういう経験も含めて、
『ブラック・レイン』という作品には、
本当に、勉強させてもらいました。
本場の映画づくりの現場を経験できて、
だからこそ、
「そうか、自分は映画をやりたいんだ」
と、思うようになりましたし。
- ──
- 30代の前半で。
- 國村
- そうですね、幸運だったと思います。
まだ自分自身が定まっていないときに、
リドリー・スコット、
マイケル・ダグラス、
アンディ・ガルシア、
松田優作、高倉健、若山富三郎‥‥
そういう人たちと出会うことができて、
学ばせてもらうことができて。
- ──
- 國村さん、その後は、
香港でも
ジョン・ウー監督作品に出演されたり、
海外での出演経験を重ねますよね。
- 國村
- ご縁ですね。
- ──
- クエンティン・タランティーノ監督の
『キル・ビル』にも出演されてるし。
- 國村
- 首をちょん切られる、ヤクザの役でね。
- ──
- そうですね(笑)。
- 國村
- それも、ご縁ですよねえ。
<つづきます>
2018-09-07-FRI
写真:大森克己