- ──
- 國村さんのお仕事を拝見していると、
演ずる役の「幅」が、
なんて広いんだろうって思うんです。
- 國村
- そう言ってもらえるとうれしいです。
同じことを繰り返すのは苦手ですし、
自分の好みとして、
振れ幅の大きいほうが好きですから。
- ──
- ああ、そうですか。ご自身でも。
- 國村
- うん、やったことのないような役を
やらしてもらうほうが、楽しいし。
- ──
- 園子温監督『地獄でなぜ悪い』では、
一見ものすごくコワいんだけど、
実はコミカルなヤクザの親分でした。
- 國村
- 娘役の二階堂ふみさんを溺愛してる、
お父さんの役でね。
- ──
- 町田康さんの原作小説を映画化した
『パンク侍、斬られて候』でも、
最初、偉い人だったのに、
豊川悦司さんとの権力争いに負けて
「猿回し奉行」になってしまって。
- 國村
- あれ、ねえ(笑)。
- ──
- 國村さんが、
こわもてなのに「コミカル」というか、
実は情けない役を演じると、
なんだか、もう「絶品」だと思います。
- 國村
- ありがとうございます。
- ──
- あと最近、國村さんの出ている作品で
ものすごく感動したのが、
テレビドラマの
『ハロー張りネズミ』で演じた‥‥。
- 國村
- ああ!
- ──
- 中華料理屋のオヤジさんの役でした。
- 國村
- あの話は、ぼくも大好きなんですよ。
でも、たくさん観てくださって。
- ──
- 一転して
韓国映画の『哭声/コクソン』では、
人間ですらない‥‥怪物?
- 國村
- あの映画も、楽しかったですねえ。
監督が少し普通じゃなかったんで、
現場は、いろいろ大変でしたけど。
- ──
- 役は、どう選んでいるんですか?
- 國村
- まずは「この役柄を演じてみたい」
という「好奇心」が、
最初のモチベーションですよね。
自分がおもしろがっている役には、
くーっと入っていけますし。
- ──
- なるほど。
- 國村
- はじめて演じるような役の場合は、
不安とは言いませんが、
どうなっちゃうのかわからん、
先の見えなさ加減で、ワクワクで。
- ──
- やっぱり「やりたい」が基本。
- 國村
- 自分がこうだとイメージした人物が、
きちんと、しっかり、
作品の中に存在しているのかどうか。
やりたいと思える役を演じたあとは、
いっそう、
できあがりが楽しみになるんですよ。
- ──
- 國村さんは、俳優というのは、
どこか「依り代」のようなものだと、
おっしゃっていますよね。
- 國村
- そうですね。
- ──
- 依り代というと、
つまり「憑依する」というような?
- 國村
- 具体的な体験としてあったんです。
昔、ラジオドラマをやったときに。
- ──
- ラジオドラマ、ですか。
- 國村
- はい。ラジオドラマという形式は、
言うまでもなく「音だけ」で、
聴いている人に
視覚的なイメージを伝える技術が
求められるんです。
つまり、けっこう難しいんですけど、
でも、ちゃんと演じきれたら、
あんなにおもしろいものはないです。
- ──
- へぇ‥‥。
- 國村
- 自分自身が試されるような部分も含めて、
ぼくは
ラジオドラマが好きなんですけど、
あるときに、
実在の人物の実話をベースにした物語を、
演じさせていただいたんです。
原爆の話だったんですけれど。
- ──
- ええ、原爆。
- 國村
- あるシーンを演じているときに、
とつぜん、ぶわーっと、
抑えきれない感情が、湧いてきたんです。
ぼくの演じていた人物は、
お子さんを残して死んでしまうんですが、
そのお子さんに、
自分の思いを伝えるというシーンでした。
- ──
- はー‥‥。
- 國村
- ふだんは、一応プロですから、
頭の上に客観的な視点をキープしながら、
セリフを言っているわけですが、
そのときは、突然、
アンコントローラブルになってしまって。
- ──
- 自分自身が?
- 國村
- ええ、もう‥‥どうしようもない感情が、
こみ上げてきてしまったんです。
自分が自分にびっくりするような感じで、
「これは、なんや!」って。
- ──
- 何でしょう、つまり、「その人」が‥‥。
- 國村
- そうですね、ひょっとしたらと思います。
そのときに、「その人」が、
ぼくのところに来はったのかなあ、って。
不思議な話かもしれませんが、
そういう体験が、実際にあったんですよ。
- ──
- 以来「俳優とは、依り代だ」と。
- 國村
- そうなんです。そう思ったんです。
その後は、そういう経験はないんですが、
実在の人物じゃなく、
架空のキャラクターであっても、
自分という容れ物に降りてきた人格を、
表に出すというような、
そういう仕事なんだと思うようになって。
- ──
- 俳優というものは。なるほど。
ちなみに自分は、ラジオドラマには、
あまりなじみがないんですが‥‥。
- 國村
- でしょうね。今は、そんなにないですし。
かつては、音の設計みたいなところまで、
役者の裁量でやれたんです、
モノラルの時代は。おもしろかったなあ。
- ──
- モノラルの時代?
- 國村
- 今は、そのあたりについては、
ミキサーさんの仕事になっているので、
役者の自由の幅が狭まってます。
たとえば、モノラルの時代には、
だんだん離れていく‥‥というシーンを
声だけで伝えるために、
実際に役者がマイクから遠ざかりながら
セリフを言ったりしてました。
- ──
- そうやって、この場から離れていく‥‥
という場面を、リスナーに、
視覚的にイメージさせていたんですか。
- 國村
- 音や声だけで、その場面の空間構成まで、
聴いている人に伝えるんです。
たとえば、上の方に向かって
「おーい! どないなってんねーんっ!」
‥‥って声を出してやって、
「ああ、この家は2階建てになっていて、
階段越しにしゃべってるんだな」
ということを、
聴いている人にイメージさせるんですよ。
- ──
- わー、おもしろい。声だけでそこまで。
でも國村さん、今、急に「俳優の声」に。
さすがの迫力でした。
- 國村
- いえいえ、お恥ずかしい(笑)。
- ──
- つまり、ラジオドラマを演ずるためには、
技術が必要なんですね。
- 國村
- 役者の技量が、丸わかりになります。
うまい人がやれば、声だけで、
顔の表情まで伝えることができます。
- ──
- うまい人というと‥‥。
- 國村
- 山岡久乃さんですとか、
それと、やっぱり森繁(久彌)さん。
ぼくみたいなのが
お上手なんて言ったらおこがましい。
いちど聞いてみてほしいです。
なにしろ、すばらしい演技ですから。
<つづきます>
2018-09-08-SAT
写真:大森克己