- ──
- 國村さんが尊敬している俳優さん、
あるいは
単純に好きな俳優さんでもいいんですが、
どなたか、挙げるとすると‥‥。
- 國村
- 松田優作という役者以外にも、
ある種、憧れに近いようなことで言えば、
大勢いらっしゃいますよ。
三國連太郎さんなんかそのお一人ですし、
その他にも、志村喬さん‥‥。
- ──
- ええ。
- 國村
- あと、伊藤雄之助さんという‥‥。
- ──
- はい、黒澤監督の『天国と地獄』とかに
出てらっしゃる俳優さんですね。
- 國村
- ああいう、なかなか個性的な役者だとか。
海外で言ったら、トム・ハンクスや
ジョン・マルコヴィッチなんか、
何ともすごいなあと思って観てます。
- ──
- トム・ハンクスとマルコヴィッチって、
けっこう雰囲気がちがいますね。
- 國村
- 勝手な想像に過ぎませんけど、
役柄へアプローチする際の方法論とかも、
ぜんぜん、ちがう気がします。
演技や表現のしかたもそれぞれですけど、
でも、どっちにも惹かれるんです。
- ──
- それは、どうしてですか。
- 國村
- まず、マルコヴィッチって俳優の演技は、
仮に「映像」だったとしても、
どこか舞台役者のそれに見えるんですよ。
で、自分のなかで
役を育て上げるような演技をしていると
思うんですが、
でも、その「意図」が「見えない」です。
- ──
- なるほど。
- 國村
- だから、極端に癖のあるような役でも
どれもがぜんぶ、
きちんと「リアル」に落ちてくる。
そういうところが、達者な役者ですね。
- ──
- 突拍子もないのに、リアル。
- 國村
- 他方で、トム・ハンクスは、
なんにもやってないように見せながら、
難儀な演技を、きちんとやってはる。
- ──
- おお。
- 國村
- たしかに役者としては、
ぜんぜんちがう2人ではありますけど、
どっちもすごいし、
見ていて、とてもおもしろい役者です。
- ──
- なるほど。
- 國村
- ジョニー・デップという役者も、
マルコヴィッチに似たタイプですけど、
あの人の魅力って、
リアルな役より、
海賊のキャプテンだったり、
手がハサミだったり、
人間じゃないような役を演じるときに、
俄然、輝きますよね。
- ──
- たしかに、そういう人として見てます。
- 國村
- あとは‥‥日本の俳優で言ったら‥‥、
笠智衆さんの存在感、とか。
- ──
- 静かだけどたしかな、というような?
- 國村
- 笠智衆さんて、ぼくが子どものころに、
テレビのドラマで
おじいさんの役をやってらしたんです。
- ──
- ええ。
- 國村
- 演技のことなんかは何にもわからない
子ども心に、
えらい下手くそな人が出てるなあって、
思ってたんです。失礼な話。
- ──
- え、あ、そうですか。下手くそ‥‥。
- 國村
- なんでこんな人が
テレビに出てんねんやろうと(笑)、
思ってたんですが、
のちのち
小津作品における笠さんを見たとき、
びっくらこきまして。
- ──
- こきましたか(笑)。
- 國村
- こいた。なるほどなあって思いました。
ただの子どもがドラマを見ただけでは、
笠智衆のすごさって
わかんないんだな‥‥と思いましたね。
- ──
- 笠さん自身は変わってないんですか?
- 國村
- たぶん変わってないです。
- ──
- 見ている側の國村さんが変わった。
- 國村
- それもあるかと思いますが、
おそらく、作品自体がちがうんですよ。
小津映画とテレビドラマとでは、
そもそもちがうってことだと思います。
- ──
- ようするに「額縁」の問題?
- 國村
- 舞台も映像も、
創り手との共同作業なわけですけれど、
映像の場合は、撮る側との
コラボレーションでできています。
その場合、演じる側のイメージと、
撮る側のイメージがうまく噛み合えば、
すばらしいものになるし、
お互いに隔たりがあったりすると、
どんどん、ズレていってしまうんです。
映像には、そういうところがある。
- ──
- つまり、國村少年が見たドラマよりも、
小津映画のほうが、
笠智衆さんという役者に合っていたと。
- 國村
- そうだ、ついこの間のことなんですが、
すばらしい役者との出会いがあって。
- ──
- おお、どなたでしょう?
- 國村
- Nスペってありますでしょ、NHKの。
- ──
- はい、NHKスペシャル。
- 國村
- そう、そのNHKスペシャルに
「未解決事件」
というシリーズがあるんですよ。
- ──
- ええ。
- 國村
- 実際に起こった事件を題材にして、
ドキュメンタリーと、
ドラマ、フィクションをつくるんです。
ドラマと言っても再現ドラマではなく、
本格的な物語なんですが、
そのドラマのほうにね、出演しまして。
- ──
- はい。
- 國村
- そのときに、はじめて、
イッセー尾形さんと、共演したんです。
- ──
- わ、イッセー尾形さん! 大好きです。
- 國村
- これがねぇ、本当に、演じていてもね、
何が出てくるかわからない人。
何が飛んでくるのか、予想もつかない。
- ──
- まさしく、そんな感じがします。
- 國村
- やってて、あれほどドキドキしたのは、
久しぶりというか、
ちょっとはじめてだったかもしれない。
- ──
- それほどまでに。
でも、國村さんとイッセー尾形さんの
ガチンコ勝負って‥‥すごい。
- 國村
- ぼくが刑事で、取り調べる役。
取り調べられる容疑者がイッセーさん。
- ──
- どのような俳優でしたか。共演されて。
- 國村
- そうですね、あの方は‥‥あのねえ、
ある意味ですごくね、
恥ずかしがり屋いうたら変ですけど、
押し出しの強い人ではないし、
むしろ人見知りする感じなんですよ。
- ──
- ええ。ふだんは。
- 國村
- でも‥‥いざ演技し出したら、
そら、もう‥‥おそろしい人でした。
- ──
- おそろしい?
- 國村
- ご自分の中で、完全に醸成したものを、
まったくそのように見せず、
次々表に出してくるという役者でした。
- ──
- おお‥‥。
- 國村
- ただし、イッセーさん自身は、
こうしてやろう、ああしてやろうとは、
事前に思ってないんですって。
最初に、全体のイメージで、
こんな感じ‥‥というふうに把握して、
演じるうちに、相手と絡む中で、
どんどん、どんどん、
やりたいことが出てくるっていう‥‥。
- ──
- それ、相手役としては怖くないですか?
- 國村
- 怖かったですよ。
ただね、ぼくも、どっちかって言うと、
そっちの側の役者なんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- 國村
- だから、
同じようなおもしろがりかたのできる
役者と出会えて、一緒にやれて、
怖かったし、
うれしかったし‥‥楽しかったんです。
<つづきます>
2018-09-11-TUE
写真:大森克己