- ──
- もう何年も前になるんですけど、
村上さんが主演された
『Playback』というモノクロ映画を
劇場で観たときに‥‥。
- 村上
- ええ。
- ──
- 上映が終わって席を立とうとしたら、
舞台袖から、
村上さんがおひとりでフラッと出てきて、
今から少し時間あるんで、
何か聞きたいことがあったらどうぞって。
とつぜん、質問大会がはじまったんです。
- 村上
- ええ。何のときだろう?
- ──
- それは、あとから知ったことなんですが、
劇場の前の方の列に、
映画の仕事や役者を目指す若い人たちが、
おおぜい座ってらっしゃったんです。
村上さん、けっこう長い時間をとって、
若い人たちからの質問に答えたり、
演技について話したりしていて、
そのようすに、ちょっと感動したんです。
- 村上
- 映画や映像を志す、
表現者を志すという人間に対して、
僕は、どうも勝手に‥‥勝手にですけど、
同業者意識を持ってしまうんです。
- ──
- そんな感じでした。
- 村上
- 具体的に何を話したのかは覚えてませんが、
だから、映画をやりたい若い人なら、
求められなくなったとか、
しばらくオファーが来ない程度では
諦めないでねってことを言ったと思います。
- ──
- 村上さんは、そういう‥‥俳優仲間だとか、
先輩後輩のつながりを
大事にする人なんだなあって、そのときに。
- 村上
- 僕、今45歳なんですが、
ハタチのときに映画の世界に入って、
今年で25年目なんです。
それより前は、プロのスケーターやってて、
そのあと
藤原ヒロシくんが雑誌にひっぱってくれて、
モデルになって‥‥。
- ──
- はい、もちろん知ってます。
ファッション誌の表紙に出ている
「ムラジュン」を、見ていた世代なので。
- 村上
- 当時、少しはチヤホヤされていましたが、
映画の世界に入ったら
「ムラジュンです」って言ったところで、
「誰?」じゃないですか。
- ──
- それまでの村上さんが、
まったく通じない世界だったんですね。
- 村上
- でも、その未知の世界の人たちは、
何だかよくわからない、
ただのド素人のハタチの小僧を相手に、
叱咤激励して、
いろいろ教えてくださったんです。
そんなことが日々、当たり前にあって。
- ──
- 未知の世界の人たち‥‥というのは、
先輩の俳優さん、ですか。
- 村上
- スタッフさんからも、教わりました。
- ──
- スタッフさん‥‥。
- 村上
- 照明技師、録音技師、カメラマン‥‥。
デビュー作品では、仙元誠三さんって
大御所中の大御所がカメラで。
松田優作さんの作品なんかを、
ずーっと、撮っていた方なんですけど。
- ──
- なるほど。
- 村上
- 2本目がジミーさん‥‥
今は北野武組の柳島克己さんでした。
- ──
- つまりプロ中のプロといった方々が、
ハタチの村上さんに、教えてくれた。
- 村上
- そうですね、声をかけてくださって。
怒ってくれたし、褒めてくれたし、
監督はもちろんですけど、
僕には、
スタッフにも育ててもらったなあという、
そういう気持ちがあります。
本当にみなさん、よくしてくれたんです。
- ──
- たとえば、どういうことですか。
- 村上
- 監督が、理由も言わずに、
テイク20くらい出したとしますよね。
- ──
- おお‥‥20回も。
- 村上
- もう一回、もう一回‥‥ハイもう一回。
- ──
- 理由もなく?
- 村上
- 演技を心得ていない駆け出しの俳優には、
よけいなこと言わないで、
何度もやらせたほうがいいんですかね。
そのへんは、僕には、わかりませんけど。
- ──
- ええ。
- 村上
- やってる俳優部は、テイク5あたりで
頭が真っ白けになるんです。
でも‥‥何度もテイクを重ねていくと、
「あ、今のテイクかもしれない」
「たぶん、今のテイクだ」
という感覚を掴めるようにもなります。
- ──
- へぇー‥‥。
- 村上
- だから、手取り足取り丁寧に
何かを「教える」んじゃない場合も
多いんですが、大きく言えば
「俳優は、こう映ったほうがいい」
「カメラの前には、こう立つんだ」
ということを教わりました。
- ──
- 被写体としての、立ち居振る舞い。
- 村上
- それまでもモデルとして、
被写体としての覚悟はあったんです。
でも、俳優としてのそれを、
撮影部、照明部、録音部の人たちが、
それぞれの立場から、
口々に、教えてくれた気がします。
- ──
- なるほど。
- 村上
- ときには、監督がOKだったとしても、
スタッフのほうで
演技を止めちゃったりもしてね。
ちょっとでも僕の台詞がすべったら、
録音部から、すぐさま
「何言ってるかわかんねぇよ!」って。
- ──
- おお。
- 村上
- 僕が何にも知らない小僧だったから‥‥
だと思いますけど、
今のは、演出の領域にまで
踏み込んでるよね、っていうところまで。
- ──
- アドバイスをくださった、と。
- 村上
- 当時は、現場に
トランシーバーがなかったのかな、
みんな今よりぜんぜん、
大声を張り上げていたんですよ。
で、その怒鳴り声がぜんぶ、
自分に向けられているような気がして、
毎日ドキドキしてました(笑)。
- ──
- そういう経験があったから、
こんどは、村上さんが、若い人に‥‥。
- 村上
- 僕は、役者は、しがみついてでも
続けようと思ってるんです。
- ──
- しがみついて?
- 村上
- はい。
ハタチでこの世界に入れてもらって、
映画人という言葉に憧れて‥‥。
- ──
- ええ。
- 村上
- かっこいい先人たちに教えられたり、
演技で見せてもらったり、
学ばせてもらったりしてきたことを、
ずっと、大切にしながら、
しがみついてでも続けていくんです。
- ──
- なるほど。
- 村上
- で、そのなかで覚えたことを、
若い人たちにも‥‥とくに僕の場合は
村上虹郎って、
自分の息子も俳優やってるんで。
- ──
- 河瀬直美監督の『2つ目の窓』や
大橋トリオさんのPVで
親子で共演なさってますよね。
- 村上
- 彼らのような世代にとっても、
説得力のある役者になれたらいいなあ、
憧れられる存在でいたいなぁと、
そういう思いを持って、やっています。
<つづきます>
2018-08-22-WED
写真:富永よしえ