- ──
- 村上さんは、本は読まれますか。
- 村上
- ほとんど読まないです。
- ──
- それは、たとえば、
出演する作品の「原作」についても?
- 村上
- はい。読めば、もちろん、
ヒントは落ちてると思うんですけど。
- ──
- 演ずる上でのヒントが。
- 村上
- でも、脚本家が映画にするときに、
足したものは原作にないし、
逆に引いたものが残ってますよね。
それを、原作を読みましたって、
わざわざ俳優部がほじくり返すことも
ないんじゃないかと思っていて。
- ──
- 読まない理由が明確ですね。
- 村上
- だから結局、本は読まないんですけど、
いただくホン‥‥「台本」は、
読み込みますよ。真っ黒けになるほど。
- ──
- それは、何かを書き込んだりして?
- 村上
- やっぱり、はじめて聞く土地の名前とか、
病気の名前、人の名前‥‥
それを単に「言う」だけじゃなく、
観ている人に
明確にイメージさせてやるような意識が、
俳優には必要だと思うんです。
- ──
- ええ、なるほど。
- 村上
- これは恥ずかしい話なんですが、
僕、27歳のときに、
はじめて舞台に出させていただきました。
演出は、蜷川幸雄さんでした。
- ──
- はい。
- 村上
- そのとき‥‥稽古のときに、
「向こう岸の町が」
というセリフを言った途端、
蜷川さんから「どっちだよ!」って。
- ──
- わあ。
- 村上
- 「向こう岸の町って、どっちだよ。
どんな建物が建ってる?
馬鹿かおまえは。
おまえが誰より
はっきりイメージしてなかったら、
他人に伝わるわけねぇだろう!」
- ──
- お、おお。
- 村上
- さぁ、そっからがおもしろいんです。
台本のなかで「鳥」がさえずってたら、
そのさえずり声を調べたり、
淡島通りという通りの名が出てきたら、
実際に歩いてみたり、
想像の中の
「向こう岸の町」の絵を描いたり‥‥
そうやって、台本が真っ黒になるまで。
- ──
- そうすることで
セリフ自体、変わってくるんですか?
- 村上
- 変わります。少なくとも、僕の場合は。
これは俳優によるとは思うんですけど、
僕はセリフに対して、
責任を持ちたいと思っているんです。
- ──
- それは、どうしてですか。
- 村上
- 自分の口から出る言葉、だから。
- ──
- なるほど。
- 村上
- これまでの役者人生、まあ、波があって。
最近はありがたいことに続いてますけど、
「半年間、仕事ゼロ」とか、
つい最近まであったんですよ、ふつうに。
- ──
- へえ‥‥。
- 村上
- で、そのときに何をするかっていうと、
『月刊シナリオ』
という映画脚本の専門誌があるんです。
その時期に公開されている映画の
決定稿が2稿、載る雑誌なんですけど。
- ──
- ええ。
- 村上
- 仕事がなくなったときに何が不安って、
ホンが読めなくなることです。
だから、そういうときには、
よく『月刊シナリオ』を読んでいます。
で、自分の役は決めず、
だいたいのセリフとト書きを憶えて、
その映画を、実際に見に行くんですよ。
- ──
- 話の筋とセリフを憶えて、
情景を頭に入れた状態で、映画館に?
- 村上
- 阪本順治監督の『座頭市』なんか、
ほとんど脚本通りで、おどろきました。
笠松則通さんというカメラマンですが、
眼の前で展開されるシーンが、
ト書きのまんまで「すっげー!」って。
- ──
- はー‥‥。
- 村上
- これからも仕事が来ないような時期は、
いくらでもあると思うんです。
そういうときには、また、やると思う。
- ──
- あの、脚本を読んでから見る映画って、
おもしろい‥‥んですか。ちなみに。
- 村上
- だって、ほら、シェイクスピアなんて。
- ──
- あー‥‥みんな知ってる。
- 村上
- だから、その場合は
「あの結末に向かって、監督さんはじめ、
脚本家さん、俳優部のみなさん、
各スタッフのみなさん、
さあさあ、どう見せてくれるんですか?」
という楽しみかたですよね。
- ──
- なるほど。
- 村上
- みなさんが結末まで知っている作品で、
おもしろいと思ってもらえること、
そのことが、役者をはじめ、
制作側の冥利に尽きるところでしょう。
監督の、脚本家の腕の見せどころ、
撮影の腕の見せどころ、
役者の腕の見せどころ‥‥醍醐味。
- ──
- どうしてやろうか、と。
- 村上
- 運がいいなと思うことに、
僕、準備稿から台本をいただける仕事も、
けっこう多いんですが‥‥。
- ──
- そうじゃないこともあるんですか。
- 村上
- あります、あります。
僕の場合は両極端で、
準備稿からもらえる仕事も多い代わりに、
「この仕事、
ぜひとも村上淳さんでお願いします!」
「撮影は、いつからですか」
「5日後です!」
みたいな仕事もけっこう多くって(笑)。
- ──
- なんと(笑)。
- 村上
- 「えー、うっそーん。
みんなが断って断って断って断って、
まわりまわって
最後、僕んとこに来たんちゃうん?」
みたいなやつですね。
- ──
- はい(笑)。
- 村上
- でも、僕は、最終的にはやったもん勝ち、
フィルムに焼き付いたもん勝ちだから、
そのことについては何も思っていません。
ほとんど滑走路‥‥準備期間がなくても、
全力でやるだけですし、
むしろ、みんなが断ってくれたおかげで
僕のところに来て、よかったと思います。
- ──
- ポジティブにとらえて。
- 村上
- そういう性格なんです。
- ──
- というか、本当にお好きなんでしょうね。
映画とか、俳優のお仕事が。
- 村上
- そうだと思います。
<つづきます>
2018-08-26-SUN
写真:富永よしえ