- ──
- 村上さんは、俳優になる以前にも、
プロスケーターやモデルとして
活動されていましたが、
どの時点で「俳優で行くんだ」と、
はっきり意識しましたか。
- 村上
- ハタチの撮影現場です、やっぱり。
- ──
- プロにまで登りつめたスケボーも
20歳で辞めたと
おっしゃっていましたが、それも?
- 村上
- 映画に入ったことが、大きいです。
- ──
- それほど映画の世界は魅力的だった。
- 村上
- それは、もう。
自分ではテングになってるつもりは
なかったんですけど、
はじめての現場で痛烈に感じました。
勘違いしてたんだな、自分はって。
- ──
- そうですか。
- 村上
- そして、まわりの映画人の方々に
ただの単なる
「いち小僧」として扱われたときの
あの「心地よさ」を、
今でもずーっと、覚えています。
- ──
- 今後も俳優人生は続いていきますけど、
最終的にこうなりたいという、
村上さんの「理想型」ってありますか。
- 村上
- のちのちにまで残る映画に一本、
出られたらいいなあと思っています。
- ──
- 一本。
- 村上
- 一本でいいです。
- ──
- それは‥‥一本というのは、
どういう役でも出れればいいですか。
つまり「主演」でなくとも。
- 村上
- はい。ハタチで、映画人に洗礼を受けて、
その人たちのかっこよさに触れて、
一生この仕事を続けたいって思いました。
で、それから25年、
こうしてしがみついているわけですけど、
同時に、この仕事って、
いつか答えが出るのかなと思うんです。
- ──
- 答え?
- 村上
- たとえば、映画でも小説でも写真家でも、
名作とか天才とか言われているのに、
生きていたときは不遇で、
死んでから評価され出すような人たちも、
たくさん、いますよね。
- ──
- そうですね。宮沢賢治みたいに。
- 村上
- 僕の好きな写真家で、
E.J.ベロックという人がいるんです。
生涯、ニューオリンズの「娼婦」を、
撮り続けた写真家です。
- ──
- 娼婦‥‥の肖像?
- 村上
- そう。ヌード。
ふだんは
街の写真屋だったそうなんですけど、
娼館で、娼婦を撮り続けて、
有名にもならず、ひっそり死んで。
- ──
- 時代にうずもれるようにして。
- 村上
- で‥‥死んでだいぶ経ってから、
作品がごっそり、発掘されたんです。
- ──
- それで、世に出たんですか。
- 村上
- ベロックさんだって、もちろん僕だって、
こういう仕事をやっている以上、
生きているうちに、評価されたいですよ。
でも、どれだけの作品を残したとしても、
時代や運命のめぐり合わせで、
そうならないことだって、多いですよね。
- ──
- はい。
- 村上
- だからこそ、僕は、
「できるだけ出たい」と思うんです。
撮影開始5日前のオファーだろうが、
スケジュールがぶつからない限り
断らないですし、
映画に出続けてさえいれば、
のちのちに残る一本に出られる可能性は、
ゼロにはならないので。
- ──
- すぐには評価されなくても、いつか。
- 村上
- うん。
- ──
- ただ、歴史や時代が評価する作品と、
ご自身の好きな作品って、
違ってくる場合も、ありますよね。
- 村上
- そうですね。
僕の30代を支えた作品を挙げるなら、
『ヘヴンズ ストーリー』と
『Playback』だと思っているので。
- ──
- 両方観ましたが、
前者は4時間以上もある長編で、
後者はモノクロ映画で。
どちらも、個性的な作品ですよね。
- 村上
- どっちの映画を合わせても、
観た人は、何万人もいないですよ。
せいぜい何千人でしょう。
でも、あの作品に出てなかったらとは、
今ではもう、考えられません。
今の40代の自分に、
絶対に影響を与えている映画だと思う。
- ──
- それほどまでに。
- 村上
- とくに『Playback』に関して言えば、
三宅唱という、
当時25歳の「いち小僧」の映画監督が、
どういう感覚で、どういう演出で、
どういう緊張感を持って、
映画に取り組むんだろうと思いました。
そして、その三宅唱監督のやり方に、
今の若者たちの感性や方向性に、
できるかぎり沿おうと思ったんです。
- ──
- 静かだけど、でもコンスタントに、
日本のどこかで
上映し続けられている作品ですね。
- 村上
- この先『Playback』が、
歴史に残る映画になるかどうかって、
それはわかりませんけど。
僕自身にとって、大きな映画です。
- ──
- 今日、村上さんに
インタビューさせていただくにあたって、
また観たいと思ったんですが、
観ることのできる手段が、今のところ‥‥。
- 村上
- なかなか、ないですよね。
- ──
- DVDにもなってないみたいだし。
- 村上
- しないんじゃないですかね。
フィルムに焼いている作品なんで、
シネコンじゃ無理なんです。
ミニシアターとか、
今でも映写機が回ってる劇場じゃないと、
上映できないんです。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 村上
- 公開から6年くらい経ちますけれど、
ありがたいことに
何度も何度も、
上映の機会を与えていただいていて。
- ──
- ええ。
- 村上
- フィルムで撮ってますから、
だんだん、
フィルムに傷がついていくわけです。
- ──
- ああ、上映を重ねるごとに。
- 村上
- ちょっとずつ、ちょっとずつ、
傷がついていって‥‥
それが何だか、
映画に、貫禄がついていく気がして。
- ──
- そう思うと
何か不思議なものですね、映画って。
- 村上
- そうですね。得体が知れないです。
だから「これしかない」って、
思っているのかもしれないです。
- ──
- 当面の目標って、なんですか。
- 村上
- 今は、自分の40代を支える映画に、
出会えたらいいと思ってます。
- ──
- なるほど。
- 村上
- 50代になったとき、
40代で、あの作品に出会っていたから
今があるんだ、
何とかやってこれたんだって思える、
そういう映画に。
<終わります>
2018-08-27-MON
写真:富永よしえ