こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
junaida(ジュナイダ)さんという画家の
インタビューをはじめます。
魅力的な作品集を何冊も出版しているし、
ここ数年は百貨店・三越の
クリスマス・ディスプレイを手がけているし、
注目していた人も多いと思います。
でも、junaidaさんご本人に関しては
これまで、あまり知られていませんでした。
(日本人であることも、あるいは?)
「僕は絵で、人によろこんでほしい」という、
絵描きとしての職業論、仕事論。
すごみを増した新作、『LAPIS』のこと。
絵を描くのが大好きなまま大人になって
絵描きになった人なんだなあと、憧れます。
作品とともに、たっぷりお楽しみください。
なお、6月10日(水)からは
TOBICHI②で、原画展も開催しています。
こちらもぜひ、足をお運びくださいね。
(概要はこのページの下のほうに!)

junaida(ジュナイダ)


1978年生まれ。画家。京都在住。
2007年から2011年まで
芸能プロダクションAMUSEにアーティストとして所属。
2014年より、京都精華大学客員教授に就任。
ボローニャ国際絵本原画展2015入選。
近年は、三越クリスマス催事への作品提供や、
西武グループによる
SEIBU PRINCE CLUBのポスターなどを担当。
近著に、鉱石の世界を描いた
『LAPIS・MOTION IN THE SILENCE』、
北欧文学からインスパイアされた
『NORDIC TALES』、
宮澤賢治の世界を描いた『IHATOVO』シリーズなど。
──
絵を描ける人に対して、
僕みたいな「ぜんぜん描けない人」って
すごい憧れがあるんです。

絵筆をさらさら動かしている姿を見ると
なんだか
大空を自由に飛び回っているかのようで。
junaida
へえ、そうなんですか。空かあ。
──
小学生みたいな質問ですみませんが
昔から、絵がお上手で‥‥?
junaida
うまいかへたかはわかんないですけど、
とにかく、
ずうっと絵を描いている子どもでした。

中学高校では勉強好きでもなかったし
絵を描いて大学に行けるなら
それはいいと思って、美大を目指して。
──
順調に、絵の道を進んだと。
junaida
でも、美大に入ったとたん、
ぜんぜん、絵を描かなくなったんです。
──
え、どうしてですか。
junaida
うーん、よく理由はわからないです。

絵のことはもちろん好きだったんですけど
自分というものが、
まだ、あやふやだったんじゃないですかね。
──
じゃあ、絵を描かずに、何を?
junaida
バンドやって、バイトやって、映画観て。
──
だいぶ、ふつうの学生っぽい感じ‥‥。
junaida
美大生のくせに、提出する課題の他には
ほとんど描いていなかったので
卒業制作のとき、窮地に立たされました。

絵本を、つくったんですけどね。
──
絵本‥‥というと、絵と物語の両方?
junaida
はい、そうです。これから自分は
どんな作品をつくっていったらいいんだろう、
という「自問」に
そこではじめて真剣に向き合いました。

同時に、作品をつくることの楽しさを
なんとなく味わったりもして。
──
その絵本って
今、どこかで読めたりするんですか?
junaida
いやあ、恥かしいので、隠してます。
──
恥ずかしい。
junaida
やっぱり、絵が「つたない」ですし。
──
つまり、技術の問題?
junaida
いや、それも当然ありますけど、
あのころは「自分が描く意味」といいますか、
絵の核になるものが、なかったですね。
──
冒頭のテーマに戻るかもしれませんが
「自分は何者であるか」って
やはり重要なんですね、絵を描くには。
junaida
そうですね、重要だと思います。

僕、18歳のときに
沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んで
ものすごく感動したんです。
──
香港とかマカオから、インドを経て
ロンドンまで行く話ですよね。
junaida
自分も、あんなふうに
世界中を自由に旅してみたいと思って、
バイトしたりしてたんですが、
そのときの自分って
「何者でもない、何にもできない、
 ただの18歳」にすぎなくて。
──
同時に、何にもでもなれる歳ですよね。
junaida
そう、今から思えば、そうなんです。

でも、そのときの意識は
「誰でもない、何もできない自分」でした。
で、それから10年後、
28歳で『深夜特急』を読み返したら‥‥。
──
ええ。
junaida
すでに「絵描き」の仕事をしてましたから、
絵を描く自分を投影しながら、
本を読んでいることに、気がついたんです。
──
なるほど。
junaida
18歳で読んだときは
こんなふうに世界を見て回れたらいいなって
憧れているだけだったんです。

でも、28歳であらためて読み返したら
こうして、絵描きの自分が世界中を旅したら
どこへ行くだろう、
どこで、どんな絵を描くだろうって、
本を読んでいる間、ずっと妄想しっぱなしで。
──
「自分ならどうするか」の視点があった。
junaida
そう、そのときに
「ああ、僕は『絵描き』になったんだな」
って、そう思ったんです。
──
そう自覚してからは、何か変わりましたか?
junaida
明確にその時点かはわかりませんが
若いころって、
もっと自分の絵を褒めてもらいたいとか、
もっと自分の絵を知ってもらいたいとか、
そういう「野心」が強かったんです。
──
ええ。
junaida
でも、自分は絵描きなんだって確信して、
年々、歳を重ねてくると
「人からどう見られるか」なんてことは
さして重要じゃなくなってきました。

そんなことより
「自分が、自分の絵をどう感じられるか」
という方向に、
意識が向いているのを感じます。
──
それ、もうすこし具体的に言うとすれば‥‥。
junaida
自分が、その絵に込めようと思っていた
気持ちや感情を、
自分は、きちんと込められたか、どうか。

今、自分が描く意味を
絵に載せることができているか、どうか。
──
作品と自分の間で、往復運動してるみたい。
junaida
若いころは、そんなこと
ぜんぜん、考えなかったんですけどね。
──
では、絵を描くときの楽しさやよろこびって、
どういうところにありますか。
junaida
ひとつの作品が完成したとき、
一瞬‥‥もう、ほんの一瞬だけなんですけど、
「俺、いい絵を描くなあ!」
と思える瞬間があって、それかな(笑)。
──
いいですねえ(笑)。
junaida
でも、そんな有頂天はすぐ消えて、
「次は、もうちょっと、こんなふうにしよう」
という気持ちに変わるんですけど。
──
でも、自分に対するハードルって
そうやって、
一段ずつ上がっていくのかもしれないですね。
junaida
あ、それと、僕のやっている「水彩画」って、
まだ絵の具が乾いてない、
水分を含んでる状態が、本当に綺麗なんです。

で、その状態って「僕だけのもの」なんです。
──
そうか、完成してない段階の絵を見れるのは
描いている人だけ、ですもんね。
junaida
乾いて、紙に定着した絵の具の色も
それはそれで綺麗だし、好きなんですけれど
色を塗っている途中の、
あのキラキラしていて宝石みたいな状態には
「うわあ」って、いつも思いますね。
──
水彩画家の密やかな愉悦。
junaida
あと、新作の『LAPIS』のときは、
また、ちょっと新しい感覚があったんです。
──
と、言いますと?
junaida
僕、以前から「鉱物」が好きで
綺麗な石を手にとっては
もう、いろんな方向から眺めながら
これ、女の人のドレスみたいだよなあとか
この石の上に、
ちいさい人が立ってたらおもしろいなとか
想像していたんです。
──
ええ。
junaida
で、そういう想像を作品にしようと
描きはじめたら、それまで
使ったことのない筋肉が必要だってことに
気づいたんです。
──
たしかに、ポップでカラフルなイメージの
junaidaさんの過去作とは
かなり、印象のちがうシリーズですよね。
junaida
ものすごく「絵画的」だったんです。

たとえば、それまでだったら
三角屋根を描いて、壁を描いて、窓を描いて、
で、その線で囲われたスペースに
色を塗る感覚で、描くことが多かったんです。
──
はい。
junaida
でも今回は、人や石の輪郭が存在するだけで
あとはすべて、絵の具を重ねて表現していく。

あんまりやってこなかった手法なんですけど
それが、猛烈におもしろくて。
──
描くこと自体が「よろこび」だったと。
junaida
そう、自分自身さえ、
次の展開が予想できない領域へ、入っていく。

そのスリルを感じながら、描いてました。

<つづきます>
(2015-06-11-THU)

「LAPIS・MOTION IN THE SILENCE」  2015.06.10(水)~06.14(日)  11時~19時

ポップでカラフルなイメージから一転、
最新作『LAPIS』の作品からは
静けさ、美しさ、量感、すごみ‥‥を感じます。
世界観は「黒」で統一、
でも、幸福であたたかな印象は、そのまま。
これはぜひ、実際に原画を見てほしいです。
会場では、『LAPIS』はもちろん、
入手しづらくなっている
過去の作品集も販売します(数量限定です)。
トートバッグやポスター、ポストカードなど
オリジナルのプロダクトも、できるだけ販売。
また、junaidaさんは
会期中、会場の片隅で作品を制作する予定。
その手元を、壁のスクリーンに投影します。
5日間で、一枚の作品の完成を目指します。
絵が生み出されてゆくプロセスを
間近で、ごらんいただくことができます。
会期は6月10日(水)から14日(日)まで。
場所は、南青山のTOBICHI②。
junaidaさんは京都在住、貴重な機会です。
どうぞ、おみのがしなく。
【TOBICHI2へのアクセス】
TOBICHI」は、
東京メトロ「表参道」駅A4出口より
歩いて10分もかからないところにあります。
TOBICHI②」は「TOBICHI」の3軒先の建物です。
詳しくはこちらから