「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

05 俄然、おもしろくなる。

糸井 松村さんは、この犬の
フィギュアの話を聞いたとき、
すぐにやると決められました?
松村 ええ、それはもう。
糸井 そうですか。
松村 たぶん、そう簡単にはいかないだろうなって
気持ちは最初からあったので、
うまくいくものなら、
という感じではありましたけど。
糸井 簡単にいかないのは、特定の犬だから。
松村 ええ。それともうひとつ、
自分がどこまでやっていいのかな、
ってことですね。

フィギュアって、どちらかというと、
男の子のものだと思うんですよ。
で、けっこう面倒くさいものだったりするんです。
なにしろ、「本物」があるのに、
わざわざあるんですから。
たとえば車のフィギュアだとして、
本物の車があるのに、
わざわざあるわけじゃないですか。
フィギュアって、
そういう七面倒くさいもんなんです。
糸井 なるほど(笑)。
松村 そういうものだから、
ついつい男っぽいほうに行こうとするんですよね。
男っぽいかっこよさだとか、精巧とか精密なほうに。
で、犬のフィギュアを作るというときにも、
俺自身はやっぱりかっこいいほうに行っちゃうんです。
犬っていうのは、かわいいんですけど、
同時にかっこいいとこもあるじゃないですか。
肉食獣の鋭さも持ってますよね。
糸井 うん、うん。
松村 口が「がっ!」てなってるような、
俺自身はそういうところを見てしまうんですね。
犬のかっこいいところを見て、
そういうかっこいい部分を
フィギュアにも出したいと思うんですよ。自分では。

『日本の天然記念物』(小学館)の甲斐犬。
松村 でも、このブイヨンのフィギュアを買う人たちって、
ふだんからフィギュアに
囲まれてるような人じゃないですよね。
たぶんこれは、
ふつうのフィギュアファンの人の
ものではないんじゃないか。
「ほぼ日」のグッズのラインナップを見たら、
やっぱり女性っぽいほうの流れがあるし、
そこんとこを、オレはいったい
どういうふうにしたらいいんだろうかと‥‥。
糸井 ブイヨンの「かっこよさを出す」という方向では
ないとなったときに(笑)。
松村 そうそうそう、だから、ほんというと、
「ほぼ日」で「フィギュア」っていうのは
けっこう、場違いかなと思ってたんです。
糸井 いや、実はぼくも最初、
うちのスタッフたちが、
ブイヨンのフィギュアを作る相談で
海洋堂さんに行くという話を聞いたとき、
正直にいうと、場違いだろうと思ったんですよ。
「おまえら、大胆だな」と(笑)。
一同 (笑)
糸井 フィギュアにしたときには、
かわいくないかもしんないよ、って。
つまり、いまおっしゃったとこですよね。
肉を噛み切るやつだから。
松村 そうそう。そうなんですよ。
糸井 そこらへん、担当の永田さんから
なにかありますか(笑)。
永田 ぼくは、もともと
フィギュアを飾るタイプではないんですけど、
以前、ゲーム雑誌の編集部にいて、
自分の机にフィギュアを
たくさん飾っている同僚がいたんです。
で、それを見てると、年にひとつぐらい、
「それは俺も飾りたい」と思うものがあって。
松村 はい、はい。
永田 「マイファーストフィギュア」みたいなものが、
あるんですよね。
だから、ふだんフィギュアを買わない人にこそ
いちばんいいものをっていうか、
ブイヨンは、絶対に
半端なフィギュアじゃなく最高のものにと思って、
海洋堂さんにうかがったんです。
松村 そこがやっぱり、俺としては、
やばいなと思ったわけですよね。
糸井 やばい(笑)。
松村 ずいぶんいつもと違うところだ、って
最初の印象はそうです。

いや、ブイヨンのことは前から知ってて、
好きだったんですよ。
以前、「チョコQ」のペット動物シリーズで
ジャック・ラッセルをやったことがあって、
そのときに実は、
勝手にブイヨンにしちゃおうかなと
思ったこともあったくらいで。
糸井 へぇえ、そうなんですか。
松村 でも、ブイヨンは、
耳が普通のジャックと違って特徴的なので、
やっぱり勝手にはできんなって思って
やめたんですけどね。
糸井 ははは。
松村 ま、というぐらいに
ブイヨンのフィギュアは
自分でも作りたいものではあったんです。
糸井 いや、うれしいです。
松村 でも、いざ実現してみると、
土俵はこっち(ほぼ日)なわけで、
これはずいぶん、畑が違う。
糸井 畑が違う(笑)。
松村 どうしようと思いました。
一同 (笑)
糸井 ブイヨンのフィギュアを
「ほぼ日」で紹介している写真は、
大江(弘之)さんというカメラマンに、
撮影してもらったんですけど、
なんの打ち合わせもなく、
彼は、手のひらに載せて写真を撮ったんです。
そうしたときに、今度は読者の人たちが、
「手乗りブイちゃん」と言ったんですよ。
あれでぼくは自分のなかでも、すっとわかって。
「見る」フィギュアというより、
「手乗り」っていう言葉のほうが
これには合ってるな、と思ったんです。
松村 手乗り。
糸井 手乗りブイヨン。
畑は違うけど、おかげさまで
みんなに可愛がられると思います。
ありがとうございました。
松村 あー、よかったです。
ありがとうございました。
(おわります)

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2011-06-17-FRI