カラダの使い方に関して、
「こうじゃなきゃだめなんじゃないのかな」
と思っていたことが、
実はまったく違うことだった、という経験を
何度も繰り返してきたという、TK。
「何も気にしないで、自分の好きなようにやれば
 それが実際、自分の一番やりやすい
 動きなんじゃないのか?」
というところに、今、辿り着いているのだそうです。
ドラマー・沼澤尚さんとの対談に続いて、
こんどは「日舞の師範」である
花柳輔蔵さんのところを訪れました。
基本の歩き方から、女形の踊りまで、
輔蔵さんの稽古場で、いろんな「カラダの使い方」を
教わってきました。
全6回で、おとどけします。
   
       
   
高阪 お忙しいところ、お時間いただいて
ありがとうございます。
すみません、不躾な質問させていただきます。
自分は日本舞踊のことは、
知識がありませんので、
失礼があったらお許しください。
花柳 大丈夫です、どうぞ、どうぞ!
高阪 日舞というのは、
男の踊りと女形の踊りがありますよね。
男の踊りが開く動きなのに対して、
女形になると
閉じる動きをされますよね。
花柳 はい。
高阪 それには、特別な練習方法が、
おありなんでしょうか。
花柳 そもそも、日本舞踊には、
基礎練習のいろはみたいなのは、
あまり、ないんです。
ヒップホップ‥‥にあるかどうかは分からないけど、
たとえばバレエだと基礎の練習がありますよね。
アン・ドゥ・トロワ、というような。
ああいうものが、ないんです。

高阪 あ、そうですか!
花柳 男踊り、女踊りっていうので
一から演目を練習することによって
基礎も一緒に体に覚え込ませていくという、
お稽古方法なんです。
高阪 最初、いきなり踊りから入るんですね。
花柳 はい、そういうところが多いですね。
ただまあそれじゃあいけないっていうので
最近は基礎練習をするようになってきました。
先生ごとに、体系づけているんですが、
僕のところでは、歩く練習から入ります。
生徒さんに、役者さんが多いものですから。
高阪 はい。
花柳 でも、基本的には、
踊って、それをまねて、
それを芸として身につけていくっていう
練習の仕方ですね。
高阪 その、歩く練習を、
教えていただいていいですか。
花柳

ええ、もちろんです。
では、初めの歩き方なんですけども、
まずは男も女もなく歩いていきますね。
西洋舞踊と違って、
基本的に日本舞踊は重心は下、腰の辺りで、
立ったときには踵に重心がある。
これが真っすぐな状態です。
「姿勢を正す」というと、
皆さん、そってしまうんですが、
そうすると重心が上がってしまいますので、
姿勢をよくしすぎないように
ちょっと腰が曲がるぐらいの状況の方が
横から見ても真っすぐですし、
重心が下がるわけです。


坂東三津五郎さん、前名を八十助さんと
おっしゃいましたけれど、
その方が「腰を入れるっていうのはどういうことか」
というのを、製氷皿の水を冷蔵庫に持って行くとき、
そろそろっと歩きますよね。
それを「腰を入れる」というんだと。
ですので、膝を曲げて、
そのときにお尻を出さないようにすると
お腹が出ますんで、そのお腹も引っ込めます。



この状況が膝を曲げる、腰を入れるということです。
この状況で歩いていきます。
で、すり足。足を踵をつけたまま床をすります。



床をするのと、
右足だったら左足の側面をするっていう、
二つの「すり」方があります。
なんでするようにするかっていうと、
軸がずれないで真っすぐ歩けるように。

高阪 視線はこういう感じで大丈夫でしょうか。
花柳 はい、大丈夫。
爪先なんですけども、何も力を入れないと、
爪先上げたときに
足の裏が前から見えてしまいますよね。
舞台を見ているお客さまから。
そうすると、きれいではないので、
爪先に少し力を入れてちょっと折るように、
そうすると前から見ても、
足の裏が完全に見えなくていいんです。
高阪 これが基本の歩き方ですか?

花柳 ええ。
花柳 後は女性の歩き方というのがあります。
それをちょっとやってみましょうね。
ちょっと早く歩くと、
こうやって歩いていくのが女性の歩き方です。



基本姿勢から、斜めになります。
足は揃えますね。
で、揃えた状況で前に右足を出して、
それで内股にします。
これは何で右足かっていうと、
いま、進行方向右手が、客席という設定ですから、
反対の足を出すと股が前の人から見えてしまうので。
高阪 は、はい。(汗びっしょり)
花柳 昔のひとは足が短かったので、
女歩きのときは、
膝と膝をつけたわけですけども、
今の人は足が長いので、
股のあたりをつけて、膝を曲げる。
高阪 ‥‥(必死)。
花柳 上半身ですが、女性の場合は、
肩甲骨と肩甲骨をつける感覚で。



それで腰を入れる。
それで、女性というのは、
男性もそうなんですけど、
うなじを前に見せると色気が出ます。
それで首を反対に回す。
そういう状況だとうなじが前に出て色気が出る。

高阪 ‥‥はい、こうですか。
花柳 それで前の足ひねって方向転換して、
それで重心を上げます。
そうです、そうです、
あ、すごい、腰が決まりますね。

   
   
花柳 次は男の歩き方、武士の歩き方をやってみましょう。
女は内股ですけども、今度は足を外股にして、



手は、右足出たときに左‥‥、
おっ、いいですね!

高阪 そうですか。
花柳 これを、構えと呼びます。
では、ここまでできたところで、
花柳の一番最初でやる曲にあわせて
踊りを、やってみましょうか。
高阪 は、はいっ!
  (つづきます)
   
2007-12-24-MON
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第1回
日舞の基本は「歩き」です。
第2回
女形の踊りを、やってみた。
第3回
理屈よりも先に、カラダで覚えたこと。
第4回
股関節と肩甲骨が基本です。
第5回
若い人に、できなくなっちゃったこと。
最終回
「できない」と「できる」の境目。
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