田島 |
さきほどの「説得力」の話に
少し戻りますが、
歌の説得力というのは
まさに意味を通り越したところに
あると思います。
頭でっかちな歌って、やっぱり、
迫ってこないんですよ。
美空ひばりさんの歌は、
音楽好きとか、演歌好きの人に限らず、
絶対的に届きます。
それはもう、ロックが何だ、
演歌が何だ、というところではない、
歌というものが持つ、
ずっと変わってない部分が
そうさせてるんだと思います。
歌い手にとっては、そこはいちばん
がんばんなきゃいけないところだと
いつも俺は感じてます。
つまり‥‥、
自分がどういうふうに生きてるか、
ということが歌に出ちゃいます。
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糸井 |
うん、出ちゃうね。
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都築 |
それは、文章書いたってそうです、
結局。
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田島 |
出まくりますね。
すごい歌を前にして
自分が歌えないと思うとき、
それを歌ってる人がいて
すげぇな、と思います。
あの説得力、
それはその「出てるもの」に
かかってるんじゃないかと思います。
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みうら |
「出てるもの」を出すには
どうしたらいいんでしょうかねぇ。
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糸井 |
それについては、考える材料が
とても少ないんですが、
最近ちょっと思ったことがあります。
その人が持っているものを
「教育がつくるのか」
「もともと持っている遺伝がつくるのか」
ということがよく言われますけども、
人から聞いた説で、
「実は友だちが大切だ」
ということがあるらしいんですよ。
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みうら |
ほう。
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糸井 |
誰とどんなふうに遊んできたかが
いちばん「その人」をつくる、
ということらしいです。
音楽家の家族に育てられた人よりも、
音楽をやる友だちがまわりにいて
その友だちとつきあったことのほうが
大きかったりすることがあるみたい。
自分を振り返ってもそれはそうで、
誰とどういう遊び方してきたかが
自分のほとんどを作ってると思えます。
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みうら |
ぼくがよく、友だちと
どっちがかっこいいか決めたりする遊びも、
あれは親から授かったものじゃないですね。
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糸井 |
そう。
親父とは、それはやらなかったでしょ?
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田島 |
友だちとか、近い人と
いつの間にかピンポンしてるんですよね。
自分ひとりで全部をつくると
どんどん沈んでいくし、
あんまりおもしろいものにならない。
「あのときはああいう曲書けたな」
と思うものって、
近い人とやりとりしてるときのほうが
多いんですよ。
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糸井 |
ひとりがきついのはそこなんだ。
俺も長いことひとりだったから
よくわかります。
ひとりのときはいつも
「誰にもわかってもらえない」という
気持ちがあって、
いまは「だからこそ言える」という感じかな?
まぁ、毎晩スナックに通ったりしてた
部分も含めて‥‥
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都築 |
それを思うと、
無駄な遊びはなかった
ってことですよね。
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みうら |
無駄な遊びは
糸井さんはないですね。
いっこもない。
いつもそれを超えられないんですよ。
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糸井 |
それは、馬鹿だけど、
それなりの苦労はあるからね。
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みうら |
知ってますよ。
糸井さんは借金抱えてたとしても
ちゃんと遊んでます。
それもやるってすごいじゃないですか。
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糸井 |
そういう循環をしてないと、
人と集まれなかったんですよ。
それは、なんで俺が
ジャイアンツであんなに一所懸命になるのか、
みたいな話とおなじです。
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みうら |
そうなんですか。
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糸井 |
「なんで負けたんだー」って、
堂々と怒鳴れる理由は、
野球場ではありますからね。
でも、自分が危なっかしいところで、
やっと生きてるときに、
むやみに日常で
怒鳴るわけにはいかないでしょう。
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田島 |
なるほどねぇ(笑)!
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糸井 |
あの頃、ジャイアンツが負けた日に
俺が機嫌が悪かったとします。
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みうら |
たいてい、負けたらそりゃあ、
悪かったですよ。
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糸井 |
ジャイアンツが負けたから
糸井は機嫌が悪いんだな、と
思ってくれるじゃないですか。
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みうら |
うん。
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糸井 |
それをみんなが思ってくれれば少し助かった。
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都築 |
はははは。
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糸井 |
そういう状況がなげれば、
「そんなにも野球好き」という状態には
あんまりなれないですよ。
仕事とは別の、趣味のようなことに
ものすごく没頭してる人って、
おそらくそこに、何かありますよ。
主にそれは家じゃないかなぁ、と思う。
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みうら |
そういうもんですか。
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都築 |
主に家庭ですか(笑)。
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糸井 |
しあわせかふしあわせかの
分け目のほとんど、それは
80%は家庭でしょ。
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みうら |
そういう人も
いるかもしれないけど‥‥そうかな。
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糸井 |
ぼくはそう思います。
ホームというものがなく、
無限にお金が集まって、
女の子がチヤホヤしてくれたとして、
どのくらい飽きないかと言えば、
ものすごく短く飽きると思います。
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都築 |
そうかぁ。
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糸井 |
だけど、家に機嫌のいい奥さんがいたり、
かわいい子どもが
ちょうどよく甘えてくれたりしたら。
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みうら |
それは、最高ですよね。
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都築 |
うん、それ以上のものはないですよ。
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糸井 |
寸前まであったお金は
なくても、そうでしょ。
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みうら |
早く教えてくださいよ、
その話。
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一同 |
(笑)
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みうら |
早く言ってくださいよ。
いま、はじめて聞きましたよ。
もともとは、
無頼だったじゃないですか、糸井さん。
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糸井 |
でも、それはなかなか、
わかんなかったんだよ。
ほんとうにわかんないんだよ。
家庭というものも重要だな、とは思ってたけど、
もっと違うこともあると考えてたから。
だからおそらく、
カラオケの歌でも、ものすごくいい
怒りの歌とかをぶつけられる人は、
ほんとは違って‥‥
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みうら |
違うところにテーマがある(笑)。
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田島 |
はははは。
ぼくもそうかもしれない。
もしかして、バイクとか
趣味にすごい走るのは‥‥。
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都築 |
あやしいかもしれませんね(笑)。
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糸井 |
だけど、みなさん。
実際に、
「さてこれがしあわせな家庭です」
というものはね、
なかなかもろいガラス状のものです。
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みうら |
あああ、そうです。
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糸井 |
「自分がこのひとことを言えば
おしまいになるな」
というような爆弾のスイッチを
みんな脇に持っています。
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みうら |
ええ、きっとありますね。
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糸井 |
あることはある。しかし、
それさえしなければ、それなりだ。
これを押してもいいんだって思うことが
ロックじゃないかとか、
余計なことを考える。
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一同 |
(笑)
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みうら |
俺らの世代は、キーワードが
「ロック」しかないんですよ。
おもしろくないよりは、
おもしろいほうがいいと
ついつい、思っちゃうんです。
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糸井 |
それってね、各世代にずっと
姿を変えてあることです。
つまり「自由」のことだと思うんだよね。
事情があったり、
守らなければならないことがあって、
いろんなことから、
「自分が自由か、自由じゃないか」
の話を、俺らは最終的にしてるんだと思う。
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みうら |
うん、結局いつもそうです。
だからロックでいようとすると、
人の意見は極力聞かないほうがいい。
糸井さんもきっと、
俺が行き過ぎれば、認めてくれる
と思ってるんです。
もう、キーワードは
「行き過ぎる」しかないから。
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田島 |
はははは。
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糸井 |
まずは、俺が言ってるとおりのみうらだと
俺はおもしろくない。
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都築 |
うん、うん。
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糸井 |
でも、間違ってる。
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みうら |
ええ、いつもね。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
かと言って、突っ走らないで
うまいことニコニコしてるみうらは、
つまんなくなっちゃうんですよ。
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都築 |
いやぁ、さじ加減ですね。
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糸井 |
たぶんそうでしょう。
俺んちの犬、散歩してると
ぐいぐい引っ張るのに、
ひもを離すと止まるんですよ。
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みうら |
そういうもんですね。
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一同 |
(笑)
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みうら |
俺はやっぱり、
100万の敵がいても、
糸井さんに認めてほしいです。
それがあれば、もう大丈夫だと思ってます。
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糸井 |
認めてるじゃん。
充分、認めてます。
かなわないと思ってる。
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みうら |
いやいや、それはほら、
そこがネックだから‥‥
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スタッフ |
(横から)
そろそろここのスナックの開店時間が
迫っていますので、
おひらきにしてもよろしいでしょうか。
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糸井 |
もうそんな時間?
俺、帰んなきゃいけないわ。
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みうら |
ハッキリ言うなぁ。
糸井さん、去り際がいつもきれいなの。
すっと帰るんですよ。
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糸井 |
そこがみうらの言うロックなのね。
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都築 |
じゃあそろそろ行きましょうか。
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糸井 |
また会いましょう。
すいません。
わがまま放題で。
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みうら |
いえいえ。
ありがとうございました。
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糸井 |
みうらとは、これから
人生の戦略についてもう一回
立て直さないといけないからね、またね。
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みうら |
俺はもうちょっとだけ
飲んで帰っていいですか。
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都築 |
それじゃあごいっしょに。
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糸井 |
それじゃあね。
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田島 |
また! |
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(おしまいです) |