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永田 |
お話をうかがっていると2年前のことが
どんどんよみがえってくるんですけど、
思えば、あの日、男子体操の決勝は、
最初の床で出遅れるんですよね。 |
刈屋 |
はい。床が終わった時点で
日本は8チーム中7位でした。 |
永田 |
あの、ぼくは、あの日、
最初の床が終わった時点で、
刈屋さんの実況と小西さん
(※小西裕之さん:
ソウルオリンピック体操男子銅メダリスト。
当日は刈屋さんの横で解説を務める)
の解説がなければ
最後まで中継を観てないと思うんです。
というのは、体操に関する知識が
まったくないわけですから、
勝てるかどうか、わからないんです。
深夜にテレビを観はじめて、床が終わって7位。
ぜんぶの競技が終わるころには
朝になるっていうことはわかってる。
でも、観ているこれが
金メダルになる可能性があるなんて
まったくわかってないですから。
だとしたら、まあ、
つぎの日も仕事がありますし、
ニュースで結果だけたしかめればいいかな、
って思うような状況だったと思うんですよね。 |
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刈屋 |
そうやってほとんどの人が
観のがして、後悔してましたね(笑)。 |
永田 |
うん、終わったあとは、ほんっとに
観てよかったなあと思ったんですけど(笑)。
でも、最初の床が終わった時点で、
「これはニッポンが
いちばん不得意な種目であって
このスタートは上出来とも言える。
最初っていうのは、
とんでもない緊張感がかかるから
それを乗り越えたんだ」
っていうことを
刈屋さんがどんどん説明してくださって、
その連続でつぎの種目まで観ることができた
っていうのがあるんです。
だからやっぱり実況っていうのは、
その場を詳しく伝えるだけじゃ
ないんだなと思って。 |
刈屋 |
そうですね。
とくに採点競技の場合は
どういう状態なのかっていうことを
説明するサービスと
ひとつひとつの局面が変わっていくときの
価値判断ですよね。
「これは7位だけども、
7位は上出来なんだよ」
という判断をどれだけきちんと伝えられるか。
「うわ、7位で出遅れちゃいましたよ」
ということで終わっちゃうんじゃなくて、
やっぱり7位という順位のなかで
情報と価値判断のサービスを
つねに出していかないといけないんですよね。
それを的確にやらないと
まったく違った放送になると思うんです。 |
永田 |
そしてそこから、
刈屋さんと小西さんの言葉を裏づけるように
日本が追い上げていくわけですけど、
展開としても、ものすごく名勝負というか。 |
刈屋 |
そうですね。
たぶんオリンピックの体操のなかでは
最高の勝負のひとつだと思います。 |
永田 |
鉄棒の最後の最後、
冨田選手がコールマンを取ったあとは
解説の小西さんが
しゃべれなくなってましたよね。 |
刈屋 |
はい、もう泣き始めてました。
着地が終わったあと、
横を見たら小西さんがボロボロ泣いてるんです。 |
永田 |
そこで刈屋さんが思わずおっしゃったのが
「小西さん、どうぞ泣いてください」 |
刈屋 |
はい(笑)。 |
永田 |
ぼくは、刈屋さんの名ゼリフっていうと
「栄光への架け橋」よりも
あの「泣いてください」のほうが
印象が強いんです。
あれは、ほんとうに、感動しました。 |
刈屋 |
あのときは、小西さんが
もうしゃべれない状態だったんです。
でも、泣くのをこらえて
解説者としてしゃべろうとしている。
でも、視聴者の人には、
泣いていることはわかりませんから、
「なんでこんなに
オロオロした声なんだろう?」
って不安に思われますよね。
それで、こういう状態なんだっていうことを
なんとか説明しようと思ったんですよ。
「小西さんは泣いてるんです」ということと、
「それでもしゃべろうとしている」
ということを伝えたくて、ああ言ったんです。 |
永田 |
あーー、それで
「小西さん、どうぞ泣いてください」
そういう思いが込められていたんですね。 |
刈屋 |
小西さんにとっては
われわれとはまったく違った思いが
こみ上げてきたと思うんですよね。
やっぱり小西さんは
体操日本の強い時代にあこがれて、
でも自分がトップ選手になったときには
もう日本は王座から転落していて
行っても行っても勝てないという状態で。
勝てない勝てない、
体操ニッポンはもう終わりだ、というような
罵声を浴びながら現場に戻ってきていて。
そんななかで、同じ年代の
オリンピックに行けなかった人たちが
「じゃあ日本の体操はどうしたら勝てるか?」
というのを追い求めていって、
全国でジュニアを育成しはじめた。
小西さんもそれを手伝いながら
その苦労を全部見てきてると。
そういう思いがあったんで、
たぶんふつうの人とはまったく違ったんでしょう。
小西さんの世代は、もしかすると
日本が金メダルを取る瞬間は
自分が生きているあいだにもう二度と
見られないかもしれないと思いながら
苦労してきた世代ですからね。
それがああいうふうな劇的なかたちで
金メダルをとったわけですから。 |
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永田 |
そうですね。そして、刈屋さんは、
いまおっしゃった体操ニッポンの復活の経緯も
中継のときに説明なさってますよね。 |
刈屋 |
はい、してました。 |
永田 |
正直言って、ぼくと体操の結びつきは
あの数時間だけなんです。
体操の情報を集めたりしないですし、
オリンピック以外では
体操のテレビ中継をわざわざ探して
見るようなこともないですから。
そんななかで、いまおっしゃられたことが
ぜんぶ説明されていたということに
あらためて、驚きました。
やっぱりあの3時間のあいだに、
体操ニッポンの復活劇、
あるいは小西さんが泣いている意味
というところまで
刈屋さんが掘り下げて
説明されたからだと思うんですよね。 |