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永田 |
男子体操の表彰式、
塚原選手が金メダルをもらうときに
「塚原に金メダルをかけてあげたかった」
っておっしゃってましたよね。 |
刈屋 |
はい。塚原直也選手ですね。
やっぱり直也くんが、
日本がメダルをとれずに苦しかった時代を
ひとりで支えたというところがあるんです。
日本が王座から転落して
なんとかしようとあがいているときに、
国際的なスターだった
塚原光男の息子が出てきて、
世界選手権で銀メダルをとったりとか、
メダルはとれなかったですけど
オリンピックでそれに近い活躍をした。
「体操ニッポンはまだまだいけるぞ」
というのを国際的にアピールできたのは
彼の存在が大きかったんですよ。 |
永田 |
ああ、なるほど。 |
刈屋 |
いざ、アテネに来たときには、
どちらかというと彼の力は
全盛期よりちょっと落ちていた。
その彼を新しい世代が支えて
なおかつ直也くんの経験が活きたという意味で
やっぱりファンは
彼に金メダルがかかる瞬間を
見たかったんじゃないかと思ったんです。 |
永田 |
しかもそれは、昔からのファンだけじゃなくて
ぼくらにわかファンもそう感じたんですよ。
刈屋さんの説明を聞いてると
その日だけのにわかファンなのに
「そうなんだよ!」
って言いたくなるんですよ(笑)。 |
刈屋 |
(笑) |
永田 |
それまでの日本の苦労なんて知らないくせに、
「いや、塚原はね、金メダルのないときにね」
って、思わずつぎの日に
説明したくなっちゃう(笑)。
でも、それって、かんちがいじゃなくて、
あの瞬間だけで、ぜんぶを伝えてもらって
「おれ、ほんとうにそう思ってるから
言ってもおかしくないよ?」
くらいの思いこみになっちゃうっていうか。
そういう放送だったなって思うんですよね。 |
刈屋 |
やっぱり、ああいう中継のときっていうのは、
いかに見ている人の心と共鳴していくか
ということが重要になってくるんですね。
それは、昔の状況を知ってる人の
「そうだよ!」っていう記憶を呼び戻すような
記憶の共有ができるかということと、
初めて見た人にも
「じつはこういうことがあるんですよ」
というエピソードとして
いかに印象的に伝えられるかという、
その部分が重要になってくるんだろうなと。 |
永田 |
両方が必要なんですね。 |
刈屋 |
そうなんです。
しかも、あれは生放送だったというのが
大きかったと思います。
やっぱり、競技も実況も、編集されると
どうしても伝わりきらない部分が
出てきてしまいますから。 |
永田 |
今日、おっしゃったことにしても
ダイジェスト版には入っていないことが
やっぱりいっぱいありますし。 |
刈屋 |
そうですね。 |
永田 |
やっぱりあの
「栄光への架け橋だ」という
着地のシーンだけではないですよね。 |
刈屋 |
そうですね、そこに至るまでの過程ですよね。 |
永田 |
長かったですよね、あの日は。
けっきょく、最初の床が始まってからだと‥‥。 |
刈屋 |
3時間20分くらいかかりましたね。 |
永田 |
そっからほんとに、
コールマンを取る瞬間まで‥‥。 |
刈屋 |
もう、いろんなことを考えながら(笑)。 |
永田 |
で、もちろん応援する気持ちもありつつ、
アナウンサーとしての気持ちもありつつ、
っていうふうな3時間20分。 |
刈屋 |
はい。 |
永田 |
すごいなあ、それ。
‥‥すいません、2年前の話を
こんなに熱くしてしまいましたが(笑)。 |
刈屋 |
あ、いえいえ(笑)。
でも、しっかり覚えてますね。 |
永田 |
ぼくもいま、話しながら
こんなに覚えてるもんなんだなって
自分で思ったんですけど(笑)。 |
刈屋 |
なんとも言えない空気でしたね、
あの日の、あの会場は‥‥。
べつに超満員でもないんですよ。
8割くらいしか入ってないんですけど
なんとも言えない空間‥‥。
ピンク色とまでは言いませんけど
ほんとうにこう、パアッと、
ほんとうにいい空間でした。
あの空間は二度と味わえないのかなって。 |
永田 |
観ている側としても
奇跡に立ち会ったなあ、
っていうくらいの感じがありました。 |
刈屋 |
いやあ、ぼくも
NHKでは23年めになりますけど
いままでで最高の瞬間ですし、
ぼくがNHKのアナウンサーになりたいと思った
夢がかなった瞬間です。
ああいうオリンピックの最高の舞台で
最高の勝負で日本が勝つ瞬間を
中継したいというのが
NHKのアナウンサーになったときの夢ですから。
というか、
NHKのアナウンサーになる動機でしたから。
だからもうすごく、
ほんとうになんとも言えない‥‥
疲れたときにお風呂に
「ふぅ〜」って入ったときに
「はぁ〜」って放心するような気持ちよさ。
ほぼあれと同じ状態ですよね。
しゃべり終わった後っていうのは。
いやあ、よかったなあっていう。 |