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永田 |
フリープログラムに入るところでは、
サーシャ・コーエンが僅差の1位。
そして、スルツカヤ、荒川の順位。
そう考えると、フリーは、
順番がすごくよかったというか。 |
刈屋 |
順番は最高でしたね。 |
永田 |
まず、最終グループで
トップのサーシャ・コーエンが滑る。
荒川選手は、それを見て
一か八かで最高点を目指すのか、
ひとつ落としてもいいのかということを選べた。 |
刈屋 |
選べた。
まずサーシャ・コーエンが滑りましたが、
ミスをふたつした。
そのことによって
荒川は無理をしなかったんですね。
3回転ー3回転を、3回転ー2回転にして、
さらに、3回転を2回転にした。 |
永田 |
はい。 |
刈屋 |
そこまで無理をしなかったということは
「荒川は金をとりにいっていない」
ということですよ。 |
永田 |
えっ!? そうですか。 |
刈屋 |
そうです、そうです。
だって、最後にスルツカヤがいるわけですから。
もし金メダルをとりにいくのであれば、
サーシャ・コーエンのあとで
「よし!」と挑戦するはずなんです。
もうサーシャ・コーエンは失敗をしたから
じぶんもひとつ失敗をしても
大丈夫だということで
3回転ー3回転を2回入れてきますよね。
そこまで最高点を目指さないにしても、
少なくとも1回は入れてきます。 |
永田 |
ふたつ落とすことはない。 |
刈屋 |
ふたつ落とすことはない。
1回入れてくれば、スルツカヤも最低1回は
入れてこないといけないことになるんです。
でもそれをしなかったということは
「銀メダルでいい」と。 |
永田 |
あああああ。そうか。そうなんですか。
すごい話ですよね、それ。そうかあ。 |
刈屋 |
そういう判断ですよね。
だから、荒川静香はあの時点で
金を狙っていたわけではないということです。 |
永田 |
「選ばれた」んだ、じゃあやっぱり。 |
刈屋 |
だから、まあメダルがとれればいい、と。
しかもサーシャ・コーエンが失敗してるから
うまくいけば銀をとれる。
でも、いちばんほんとうのところは、
「最高の演技をすればいい」という
それくらいの気持ちですよね。 |
永田 |
それが、あの、滑る直前の、
「入れ込んでない感じ」というか。 |
刈屋 |
リラックスしてました。
で、これは、解説者の五十嵐(文男)さん
が言っていたことですが、
ああいう状況で
「自分の最高の演技をすればいい」
というところまでの精神状態に
持っていくのは奇跡に近い、と。 |
永田 |
あああ、はい。 |
刈屋 |
だって、4年に1回、
彼女にとっては最後のオリンピック、
その最終グループです。
しかも、サーシャ・コーエンがミスをして
メダルがもう目の前にあるわけです。
そういうなかで、
自分の演技に集中できるという精神状態は、
もうすごいとしか言いようがないと
五十嵐さんはおっしゃっていました。 |
永田 |
はああああ。 |
刈屋 |
やっぱりすごいことだと思うんですよ。
彼女は確実に自分の演技に
集中できていましたから。
それは金を狙っていなかったから、
というか、金メダルが関係ない領域に
自分がいたからだと思うんです。 |
永田 |
はあーーー。 |
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刈屋 |
自分の演技に集中して、
その結果、メダルがとれればいい、
くらいのものだと思うんですよ。 |
永田 |
それは決して悪い意味ではなく。 |
刈屋 |
悪い意味じゃないです!
これはまったく悪い意味ではない。
消極的だとか、安全策だとか、
そういう意味ではなく、
それをさらに超越して
自分の演技に集中できたということなんですね。 |
永田 |
それはやっぱり
長野の失敗があったからでしょうか。 |
刈屋 |
はい。
長野の失敗から8年間の
彼女のいろいろな苦労が
あったからだと思います。 |
永田 |
たとえばもしもあれが初出場だったら、
金をとりに行ったかもしれない。 |
刈屋 |
金をとりに行って無理をして、
失敗をして4位になっていたかもしれない。
あるいは、
銀メダルがとれるかもしれないということで
ものすごく守りに入っていたかもしれない。
失敗しないように、失敗しないようにって。
だから、ああいう状況になるのは、
ものすごいことなんです。
ほとんど、あり得ないですね。
2度目のオリンピックで、しかも8年ぶりで、
いろんな苦労をしたことによって
到達し得た領域ですよね。 |
永田 |
いま、おっしゃったことが
刈屋さんが現場で実況された
「荒川静香、長野から8年の思い」に
込められてるわけですね。 |
刈屋 |
はい。 |
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永田 |
うわぁ。そうだったんだ。 |
刈屋 |
彼女はトリノに来て、
一貫してすごくリラックスしてたんですよ。
我々のいる放送席は3階にあったんですけど、
その後ろの通路が広くなっていて、
そこに彼女はいつも
ウォーミングアップに来るんですけど、
解説の佐藤有香さんのお母さんが
彼女のコーチだったということもあって、
放送席に遊びに来るんですよ。
そのときにすごくリラックスしてて、
ショートプログラムのときは、
じぶんの衣装はどちらがいいか、
なんていう話をしていました。
そのときも、自分でカメラを回して、
「どうですかー?」なんて
ぼくらにインタビューしてたりして。 |
永田 |
へえええ。 |
刈屋 |
壁に選手がいろいろな寄せ書きをしてるのを見て
わたしも書きたい、と言って
ぼくのところから紫のペンを選んで書いて、
そこでポーズを取って、写真を撮ったりとか。
それはウォーミングアップの始まる直前ですよ。
それを見て、
「ああ、彼女はこういう領域に達してるんだな」
って思いました。
ほかの選手ではいないですよ。
あそこまでリラックスしていたのは。 |
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