第3回 日本の金メダルの数は‥‥
刈屋 すいません、どんどんしゃべってしまって。
永田 いえいえ、おもしろいですし、
なんというか、助かります(笑)。
刈屋 もっと、メダルの予想とか、
そういう具体的なことを
言ったほうがいいですよね。
永田 いえいえ、そんな(笑)。
刈屋 でも、はじめに言っておきますけど、
アテネのときの金メダル16個というのは
ほんとうに、まれなことだと思いますから、
アテネを基準に考えることは
やめたほうがいいと思います。
永田 うん、そうですね。
刈屋 もう奇跡ですから、あれは。
永田 (笑)
刈屋 やっぱり、どうしてもオリンピックは、
みなさん、メダルの数で判断しますけど、
アテネと比べたら、かならず
「北京は惨敗」っていうことになりますから。
そうではなくて、テレビを観ている人は、
選手がほんとに力を発揮できたのか、
精一杯の力を、最大限の力を、
そこで発揮できたのか、発揮できるのか。
その部分を思いっきり応援してもらえたら、
いちばんいんじゃないかな、と。
やっぱりメダルは、そのときの運とか、
いろんな要素がありますからね。
なんというか、まったく根拠を説明できない
ひとつの国としての流れとかね。
永田 ありますねー(笑)。
アテネの日本はとってもいい流れだった。
刈屋 そう!
永田 柔道が大きかったですよね。
やっぱり、谷選手と野村選手で
最初に金ふたつとったのが大きかった。
刈屋 そうなんです、そうなんです。
永田 ベースとなる実力はもちろん必要で、
そのうえで運や流れが呼び込めないと
ああいうふうにはならないんでしょうね。
刈屋 そうですね。
で、ベースとなる実力の部分というのは
ちゃんと分析することができるんです。
選手個人個人はもちろん、ひとつの国として、
世界に対してどういう位置にいるのか、
あるいは、どう目指していて、
どういう段階にあるのか、
というようなところですけど。
永田 なるほど、なるほど。
刈屋 たとえば、日本は、
東京オリンピックに向けて全体を強化して、
そこで金を16個とったわけです。
いわばそこがひとつのピークですから、
4年後の大会は力が下がります。
けれども、ピークからやや落ちた程度というか、
ピークを極めた余力がありますから、
そんなに極端にガクンと下がったりはしない。
ですから、その後、
メキシコで11個、ミュンヘンで13個と、
2大会連続で二桁の金メダルをとってるんです。
ところが、そこから15年くらい経つと、
余力がなくなり、ガクッと力が落ちて、
ソウルやバルセロナでは4個、3個、
というふうにレベルが落ちていくんです。
で、それじゃいけない、というので、
ジュニアからしっかり強化をはじめるんですが、
やっぱりそれには10年から20年かかるんです。
永田 あ、ソウル(1988年)と
バルセロナ(1992年)から数えると、
アテネ(2004年)がばっちりその位置ですね。
刈屋 そうなんです。
ソウルとバルセロナからはじめたことが
アテネで花開いたということですね。
永田 となると、今回の北京は‥‥。
刈屋 国全体の大きな勢いで考えるなら、
アテネの余力ととらえるべきでしょう。
もちろん、振れ幅は生じると思いますが、
ふつうに分析していくと、
金メダルの数は、ぼくは、半分。
8個くらいだろうなと思ってます。
永田 わ。あっさり予想を。
刈屋 (笑)
永田 そんな俗なことを訊いちゃ
失礼かなと思ってたんですが、
あっさり予想してくださいました。
金メダル、8個。
刈屋 あくまで、個人的な目安ですよ。
しかも、運や流れをまったく考慮してませんから。
だから、予想のひとつの基準というか、
ここからいろいろ足し引きしていけば、
ほんとうの予想になると思います。
永田 なるほど(笑)。
刈屋 そういえば、日本では、
獲得メダル数の予想というのを
正式な形ではやりませんよね。
永田 そうですね。
雑誌や新聞のコラムのような形で
企画としてやるくらいで。
刈屋 したほうがいいのか、しないほうがいいのか、
そこは議論が分かれると思いますが、
事実としていうと、アメリカのテレビ局は
メダルの予想を確実に、厳密にやるんです。
なぜやるかというと、広告をとるためです。
つまり、この種目では絶対にメダルがとれる、
という予想があるからこそ、その種目の中継に
たくさんの広告料がとれるわけなんです。
永田 はーー。なるほど。
刈屋 だからこそ、彼らは、的確に、厳密に、
客観的にメダル数を予想するんです。
だから、たとえばトリノオリンピックのとき。
日本では、事前にメダルラッシュが囁かれつつも
フタを明けてみれば惨敗、
というかたちの報道でしたよね。
永田 そうですね。
刈屋 つまり、なんとなく楽観的なムードで、
あれもとれるんじゃないか、
これもメダル圏内じゃないか、
というふうに報じられていたからこそ、
結果的に惨敗、というかたちになった。
ところがね、あのとき、
現地のトリノに私たち報道陣が入って、
アメリカのテレビ局の予想を聞くと、
「日本は銅メダル2個だ」っていうんです。
すなわち、スピードスケートの加藤条治選手と
フィギュアの荒川静香選手だと。
永田 うわ、ほぼ当たりじゃないですか。
刈屋 そう。だから、極めて適切な予想なわけです。
加藤条治選手は残念ながら
メダルに届かなかったんですが‥‥
永田 直前のレースで選手が転倒して、
製氷作業のあいだ、リンクでずっと
シューズを履いたまま待たされるという
アクシデントがあったんですよね。
刈屋 そうです。
実力が発揮できなかったんですよね。
逆に、荒川選手は実力を十二分に発揮して、
見事に金メダルをとった。
でも、ベースとなる実力の評価で、
銅メダル2個というのは、極めて適切です。
永田 そうですね。
そして、日本のメディアに
その意識があったら‥‥。
刈屋 決して「惨敗」なんていう
ことばは使わなかったでしょうね。
むしろ、全体的には、
実力相応の力を出し切った
ということになったんじゃないでしょうか。
そう考えたときに、日本の場合は、
どうして、ああも楽観的な予想というか、
見通しになってしまうのか?
永田 そうですね。
刈屋 なぜ、ああいうふうになるかというと、
各競技団体が、目標を言うわけですよ。
私たちは、メダルいくつが目標です、と。
そうすると、その目標が報道される。
それを根拠に、この競技もメダル争い、
こっちの競技は金メダルの可能性、
というふうになって、
みんなもそれを信じ込んでしまう。
イメージとして植えつけられてしまう。
で、本番になると、メダルに届かない。
ある意味では実力どおりだとしても、
「どうしちゃったんだ?」ということになる。
永田 はーーー。そうか。
最初っから冷静な予測じゃないんですね。
刈屋 そうなんです。
もしも最初から冷静な予測を
みんなが持っていれば、
「メダルを!」というよりも、
競技そのものを純粋に
応援できるんじゃないかな、
とも思うんですけどね。
永田 なるほどー。
でも、それは簡単なようで難しいですね。
日本のメディアで
「今度のオリンピックの予想は
 銅メダル2個です」って言ったら、
なんだこの悲観的なテレビ局は?
って思っちゃいますもんね。
刈屋 だから、そこが難しいんですよ。
行く前に、そんなことを言ったら
水を差すとか、なんで盛り上げないんだ、とか、
そういう批判を受けると思います。
でも、オリンピックを純粋に楽しむために、
その選手をほんとうに応援するために、
冷静な分析が、ガイドとして発表されても
いいのかな、という気もするんです。
永田 少なくとも、「ほぼ日」では、
その前提も含めて発表できますよ。
ええと、ガイドラインとして
「金メダル8個」。
これで、いいですか?
刈屋 ははははは。
永田 これは、刈屋さんの予想というよりも、
「ほぼ日」が北京オリンピックを
楽しんでもらうために提示する、
ひとつのガイドラインです!
‥‥ええと、刈屋さん、
ちなみに金メダル8個の内訳は?
刈屋 (笑)。
それでは、あくまでも目安として。
永田 はい、目安ですとも。
刈屋 女子レスリングで2個。
柔道で2個。水泳で2個。
あとの2個は、
野球、体操、女子マラソンの3つから、
「2個とれたらいいな」という予想です。
永田 あ、いいですね。
冷静な分析と、
ちょっと気持ち的な予想も入ってて。
刈屋 いいでしょう(笑)?
永田 ちなみに、柔道の2個は、
誰と誰と踏んでますか?
刈屋 まず、上野選手(女子70キロ級)。
あと、鈴木選手(男子100キロ級)か、
柔ちゃん(谷選手:女子48キロ級)か。
永田 あ、柔ちゃんが入ってるんですね。
刈屋 可能性は十分ありますよね。
永田 柔道ってだいたい軽量級からはじまりますから、
谷選手が金メダルをとると、
日本チーム全体がのっていけるんですよね。
刈屋 そうなんですよね。
アテネの勢いが出ますよね。
だから、谷選手が金をとれたら、
8個よりも増えて、二桁も夢ではなくなります。
永田 水泳の2個は、北島選手が1個と。
刈屋 あるいは北島選手がもうひとつ。
もしくは、背泳ぎの彼、18歳の入江くん。
永田 あー、入江くん。彼はいいですよね。
天才肌だし、ルックスもいいし、
ちょっと精神的なもろさが
あるところもスリリング。
いまも大人気ですけど、
北京ではさらに人気出ると思うなー。
刈屋 というようなところですかね。
永田 女子レスリングは、まあ、
誰がとってもおかしくないけれど、
吉田選手を中心に、最低でも2個と。
刈屋 はい。おおまかなガイドとしてね。
永田 ありがとうござました。
はー。訊きたいこと、みんな訊いちゃった。
刈屋 え、そうですか?
まあ、そう言わずに、
もっと訊いてくださいよ(笑)。
永田 もちろん、もちろん(笑)。

(続きます!)


2008-08-04-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN