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刈屋 |
これは専門的な見方になりますが、
今回の北京オリンピックの注目点のひとつは
全競技がフルハイビジョンで
中継されるということです。 |
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永田 |
ハイビジョン放送自体は
これまでのオリンピックにもありましたよね。 |
刈屋 |
ありました。
ただ、部分的なものでしたので、
全競技が対応するのははじめてなんです。
ですから、この北京オリンピックからは、
中継の基本的な放送の姿勢、
画(え)のつくりかたというのが
これまでとは変わってくるんじゃないかな、
と思っているんです。 |
永田 |
具体的にはどういうことでしょう。 |
刈屋 |
たとえば、アテネのときは、
ハイビジョンの細やかな映像を活かして、
体操の中継で、あえてロングで見せたりしました。
トリノでは、ご記憶の方も多いかと思いますが、
カーリングで、顔のアップを長めに見せてみたり。 |
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永田 |
なるほど、なるほど。 |
刈屋 |
もっとさかのぼると、オリンピックに
はじめてハイビジョンが導入されたのは、
1992年のバルセロナからなんです。
そのとき、主要競技のいくつかに
はじめてハイビジョンのカメラが入った。
そのとき、すごく印象的だったのが棒高跳びで、
当時のディレクターは、選手のルーズ
(狙った選手だけでなく、
その周辺も広く見せる映像)を見せる、
という画づくりをしたんですね。
するとどういうことになったかというと、
跳躍する選手の映像に、
これから跳ぶブブカの姿が映るんですよ。
つまり、視聴者は、いま跳ぶ選手よりも、
アップしているブブカの姿を観る、
ということになったんです。 |
永田 |
あー、なるほど。 |
刈屋 |
当時、棒高跳びの主役は
やっぱりブブカなんです。
みんな、ブブカがいつ跳ぶのか、
どのくらい跳ぶのか、
というのに注目している。
視聴者だけでなく、実況も、
画面にちらちら映り込むブブカを見ながら
「ブブカはまだアップしてないので
つぎもパスしそうですよ」ということが
アナウンスできたんです。 |
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永田 |
おもしろい(笑)。 |
刈屋 |
そこでいちばんおもしろかったのは、
そのときブブカが
自分の順番をひとつ勘違いしていたのが
映像からわかったんですよ。
それに気づいて、慌てて着替えて、
きちんと準備できないまま跳んで失敗する。
それが全部映ってたんです。
おそらく、通常の映像だったら、
助走して失敗するところだけしか
映らなかったと思うんですけど、
ハイビジョンで、広い映像を撮っていたので
そういうこともわかったんです。 |
永田 |
なにが起こるかわからない
スポーツの中継だからこそ、
いろんなものをとらえることができる
ハイビジョンが威力を発揮する。 |
刈屋 |
そう思います。
もうひとつ、端的な例を挙げると、
ある競技の表彰式で、
金メダルをとった選手の
顔がアップになったとき
頬にね、涙の跡が見えたんです。 |
永田 |
へーー! いいですね。 |
刈屋 |
もう、とっくに涙は乾いていて、
その選手は笑顔なんです。
でもね、その跡が見えたことで
「ああ、この笑顔のまえに
感激の涙があったんだな」
ということが伝わってきた。
そういうのも、ハイビジョンならではの
よさだと思うんです。 |
永田 |
なるほど、なるほど。 |
刈屋 |
技術の話でいうと、
もうひとつあるんですが‥‥あの、
こんなにどんどんしゃべっちゃって
いいんですか? |
永田 |
どうぞ、どうぞ(笑)!
とってもおもしろいです。 |
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刈屋 |
それでは、ええと、
データ放送と、インターネットに関する情報を
どのように考えるかという話です。
とくに、パソコンの速報性ですね。
視聴者がリアルタイムの情報をほしがるときに、
もうパソコンは無視できない時代になってきている。 |
永田 |
そうですね。
トリノのときも、ぼくはテレビ観戦しながら
ノートパソコンで情報を得てました。 |
刈屋 |
そういう時代だと思うんです。
オリンピックの場合、
同じ時間帯に複数の競技が行われますから、
陸上の予選のあいだに
バレーボールの結果をチェックする、
といったことを、みんなやりたいですよね。
そうなったときに、テレビは、
あるいは報道は、どうあるべきなのか。
その意味で今回、注目しているのは、
アメリカの三大ネットワークのひとつ、
NBCの取り組み方なんです。
NBCは、アメリカにおけるオリンピックの
テレビ放送権を持っているんですが、
パソコンにオリンピックの情報を
配信する権利も持っているんです。
で、一説によると、NBCは、
アメリカと北京の時差があるということで、
速報をすべてパソコンでやるということなんです。
つまり、結果や、短い映像なんかは、
全部、パソコンで速報として配信してしまう。
そのかわり、アメリカがメダルを取った種目、
あるいは視聴率が稼げそうな種目だけは
ゴールデンタイムでたっぷり放送する。
これは、生放送ではないんです。 |
永田 |
へぇーーー。 |
刈屋 |
たとえばアメリカの選手が金メダルをとったら、
その競技の結果を放送するだけではなく、
ドキュメンタリーをたっぷり流す。
つまり、競技の中継は全部録画しておいて、
なおかつ、有力選手はふだんから取材を重ねて、
いい結果が出た瞬間にババッと編集するんです。 |
永田 |
勝った瞬間に? |
刈屋 |
勝った瞬間に、それを。 |
永田 |
たいへんだぁ。 |
刈屋 |
たいへんです。
あたかも、その選手が金メダルをとることが
事前にわかっていたかのような番組を
すごい速さでつくって放送するんです。 |
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永田 |
優勝候補の選手ならまだしも、
伏兵が勝つことだってあるでしょう? |
刈屋 |
ですから、おそらく、彼らはすでに
膨大な量の取材をこなしていると思いますよ。
じつは、これまでもアメリカの報道というのは
そういうふうに時差のあるものが多いんです。 |
永田 |
そういうことが、日本でも? |
刈屋 |
すぐにそうはなりませんが、
今回の北京でNBCがそれをやって結果がよければ
影響を受ける可能性は大いにあるでしょうね。
少なくとも、どうするのか考えはじめるでしょう。
速報はパソコンで配信して、
テレビではじっくり、という形になるのか、
やっぱりテレビは生中継だよ、
ということになるのか、それはわからない。
その結果によっては、アナウンサーの実況だって
大きく変わってくるでしょうしね。
加工されたドキュメンタリーに沿った実況を
その場で入れる、ということだって
あるかもしれません。 |
永田 |
一部の民放のスポーツニュースとかだと、
明らかに録画したビデオに実況をかぶせている、
みたいなのありますよね。 |
刈屋 |
あります、あります。
だから、そういうふうに、
すべてが客観的な素材と化してしまうのか。
もしかすると、アナウンサーの実況は
パソコンでの速報に活かされるように
なるんじゃないか、とか。 |
永田 |
うわー、変な話になってきましたね。 |
刈屋 |
変な話になってきてますよね(笑)。 |
永田 |
でも、たとえばアテネやトリノで、
みんなが刈屋さんの実況に感動したのは、
速報性とか、データとか、生放送かどうかとか、
そういうこととはまったく違う次元でしたよね。 |
刈屋 |
(笑) |
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永田 |
だって、たとえば、
トリノで金メダルをとった
荒川静香選手のフリー演技なんて、
後半、刈屋さんは、ひと言もしゃべってない。
それも、わざとしゃべってない。
ところが、それがいちばん、
現場のひりひりする感じとか、
うっとりする感じとか、
祈るような気持ちというのが
伝わってくるんですから。 |
刈屋 |
ありがとうございます(笑)。
ですから、今後のことを考えると
あえてああいうチャレンジをすることも
必要になってくるかもしれない。
果たして今回、ああいうことが通じるかどうかは
やってみないとわからないですけどね。
(続きます!)
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