第7回 10.8。
糸井 勝ったほうが優勝、
という中日との最終戦「10.8」。
試合の途中から川相さんが感じたという
「負けない流れ」について、
もっと詳しくことばにできます?
川相 そうですね、
なぜ、そう感じたかというと、
あの試合、ドラゴンズは
ピッチャーを温存してるんですよ。
糸井 なるほど。
川相 先発は今中ですけど、
山本昌も投げてないし、
郭源治さんも投げてない。
赤坂 ‥‥山本昌は投げてなかった?
川相 投げてないです。
あんなに大事な試合ですから、
ほんとうなら山本昌と
郭さんが投げていい試合なのに、
投げなかったんですよ。
そのことがぼくたちも
ジャイアンツのベンチにいて
「なんで投げないんだ?」っていう感じで。
糸井 そうか、そうか。
川相 で、今中を崩したあとに、
追加点を取っていけたんですね。
その時点で、気持ち的にも、
また、ピッチャーの顔ぶれ的にも
やっぱり、優位じゃないですか。
なにせ、巨人はあの試合、
3本柱を全員つぎ込んでるんですから。
赤坂 槇原、斎藤、桑田。
糸井 抑えが桑田だからね。
川相 だから、もう、そのときの巨人としては
負けるわけがないと。
もちろん、途中からの流れですよ?
はじまるまでは、不安はありました。
むしろ、巨人のほうが
プレッシャーは感じてました。
糸井 ああ、やっぱりねぇ。
赤坂 試合のずっとあとで、
当時の監督だった高木守道監督に
会って訊いたんですよ。
「この試合でシーズン終わり
 っていう状況なのに、
 なぜピッチャーをどんどん
 つぎ込まなかったんですか?」って。
糸井 ほぅ!
赤坂 高木さんいわく、「130分の1だ」と。
当時は130試合制でしたからね。
「130試合目の試合なんだから、
 ふだんどおりの野球をやろう」
って言ってたんですって。
だから、ローテーションどおりに
先発は今中であり、中継ぎもぜんぶ、
役割どおりにやったんですよ、って。
で、山本昌のことをいま思い出したんだけど、
二日前の阪神戦で100球以上投げてたんですよ。
そこから中一日っていう状態でしたから。
川相 山本昌は、それでも投げます、
投げたいっていう気持ちだったらしいです。
赤坂 ま、そうでしょうねぇ。
糸井 山本昌って、やっぱりおもしろいなぁ!
川相 本人はそう言ってました。
糸井 あ、そうか、
川相さんはドラゴンズに行ってから
直接訊いてるんですね。
川相 はい。今中とも、
このあいだその話をしたんですけど、
彼は、「覚えてない」って言ってました。
糸井 はーーー。
川相 最初、マウンドに行ったときのことは
まだ覚えてるらしいんですけど、
交代してからあとの展開は
一切覚えてない、って。
それぐらい、放心状態だったというか。
緊張してないと思って
マウンドに立ったんですけど
たぶんじつは緊張してたんでしょう、
と言ってました。
糸井 だって、今中って、
基本的には冷静な人でしょう?
川相 めちゃめちゃ冷静です。
糸井 そんな人が覚えてないんだね。
はーーー、すごいねぇ‥‥。
こうして、しゃべってるだけで
おもしろいっていうのも、
またおもしろいものですねぇ(笑)。
川相 ほんとうにそうですね。
糸井 ホームラン打った落合さんが
ケガして交代したり、
立浪が一塁にヘッドスライディングして
肩を脱臼したり、
おっそろしい試合ですよね、思えば。
川相 おそろしい試合でした、ほんとに。
糸井 ぼくは、あの日、もう、
いてもたってもいられなくなって、
チケットもないのに名古屋まで行って
なんとか観たんだけど、
「もう一回、ああいうのを観たい」
っていう気持ちと、
「あれはいいわ」っていう気持ちが
正直言って、両方ある。
赤坂 高木守道監督と話したときに
印象的だったんですけど、
あの試合でオレの運命も変わった、
っておっしゃってました。
「あの試合、勝っておけばね」って、
それは、何度もおっしゃってましたね。


(続きます)
2010-12-09-THU
まえへ トップページへ つぎへ
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN