第8回 二軍監督。

糸井 さて、話をびゅーんと戻しまして、
今シーズン、二軍監督を務めました。
川相 はい。
糸井 思うんですが、二軍の監督っていうのは、
一軍に比べると、なにが目的なのかが
わかりづらいポジションだと思うんです。
たとえば一軍だと、「とにかく優勝!」
みたいなことがありますけど、
二軍は、また違いますよね。
川相 そうですね。
糸井 象徴的にいうと、
「二軍」ということばと、
「ファーム」っていうことばは
意味が大きく違っていて、
「二軍」だったら、
当然、勝たなきゃいけないし、
一軍に上げる即戦力な選手を
つくらなきゃいけない。
一方、「ファーム」だったら、畑ですから。
川相 「育てる」ということですね。
糸井 そう、若い選手を、数年先を見据えて
地道に育てるということをやらなきゃいけない。
川相 ぼくがやろうとしてたのも、そっちでした。
糸井 ああ、やっぱり。
川相 今シーズンのいちばんの目的は
二軍選手全体の底上げでした。
というのも、ドラゴンズはいま、
二軍でじっくりと若い選手を
育成しておかないと、
正直、将来困るだろうと感じたので。
糸井 なるほど、なるほど。
赤坂 荒木、井端も30代ですからね。
糸井 じゃあ、未来に向けて。
川相 はい。
いま変えないとダメだと思ったんです。
残念ながら、続けられませんでしたが‥‥。
糸井 うーん、それはやっぱり、
川相さんの、将来に向けての
「二軍の底上げ」という目標と、
一軍ののぞむ「即戦力を」という意向が
ずれてしまったということでしょうか?
赤坂 まあ、外から見た印象で言うと、
今年の中日はやっぱり打線が
非常に苦しかったと。
チーム打率は2割5分台でリーグ5位。
チーム得点数にいたっては
巨人、阪神と100点以上差がありますから。
落合さんも、打線を組むのに
毎日、四苦八苦してました。
そこで、得点能力の高い選手を、
二軍からひとりでも上げたい、というときに
そのイメージに沿ってないと
思ったんじゃないですかねぇ。
糸井 その違いだねぇ、やっぱり。
川相 あと、ぼくの意図としては、
ファームの雰囲気を変えたかった
というのがあります。
というのも、ドラゴンズって、
ファームから上がっていく選手たちが
いつも同じような人たちで、選手によっては、
自分はもう一軍に上がれないんじゃないか、
っていうふうに感じているように思えたんです。
ですから、まずは、
選手の目の色を変えさせなきゃダメだと。
糸井 なるほど。
川相 ですから、ふだん使われないような選手を
思い切って試合で起用したりして、
どんな選手にもチャンスがある、
というところを伝えていったわけです。
糸井 効果はありましたか。
川相 半年やってきて、
効果があったと自分では思ってます。
漫然とやっていた選手が
きちんと自分のポイントを
アピールするようになって、
目の色が変わってきた。
まぁ、試合には勝てませんでしたが、
内容としては、とくに野手のほうは
充実したな、と思いました。
赤坂 二軍のチーム打率は2位くらい?
川相 いや、チーム打率は1位です。
ウエスタンで1位。
赤坂 盗塁数が2位。
川相 そう、ソフトバンクに続いて2位。
で、犠打数が1位!
ダントツです(笑)。
糸井 だって、川相監督だからね(笑)。
赤坂 (笑)
川相 まぁ、そういう感じで、
チームの成績は4位でしたけど、
手応えはすごく感じられました。
糸井 そういう話を聞くと、
自分がおつき合いがあったせいかも
わからないですけど、
やっぱりぼくは、川相さんって
「藤田(元司)さんちの子」
なんだなと思うんです。
川相 ああ、そうですかね(笑)。
糸井 藤田監督の時代にいた人たちが持ってる
独特の野球観があるような気がするんですよ。
だって、藤田さんは、
勝つことが義務づけられていると
いわれていた巨人のなかで、
「勝つことよりも大事なことがある」
って言った人ですからね。
川相 そうですね。
しかも、一軍でさえ、そうなんですから、
ファームはもっと勝ち負け以外のことを
大事にしなければいけない。
糸井 そうですよね。
川相 一軍レベルの選手でも
監督からそういうことを言われるわけですから
二軍の選手だったら
もっとそうあるべきじゃないかなと思います。
実際、ぼくが入団した当時は
そういうことをよく言われましたから。
須藤さんや藤田さんに。
糸井 あーー、そうですか。
川相 そういうことばっかりでした(笑)。
技術の練習もしましたけど、それ以上に、
「勝ち負け以外のこと」
「野球以外のこと」について、
何度も言われました。
野球以外のことのほうが
多かったかもしれません(笑)。
糸井 (笑)
川相 いやぁ、ほんとに、そうです(笑)。


(つづきます)
2010-12-10-FRI
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