糸井 |
お話をうかがっていて感じるんですけど、
川相さんがすごくおもしろいのは、
自分がヘタだったときのことを
よく覚えていることですよ。
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川相 |
ああ、ああ、なるほど。
でも、指導者になって役立ったのは
やっぱり、そこですよ。
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糸井 |
あーー、そうですか。
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川相 |
はい。
二軍監督になってからは、
自分の入団1年目のころのことを
すごくよく思い出しました。
たとえば、須藤さんに教えてもらった
基本的な部分のこととか‥‥。
あの基本がなかったら、
その後の自分はたぶんなかったと思うので。
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糸井 |
なるほど、なるほど。
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川相 |
とくに入団1年目の選手には、
ピッチャーも野手も、
プロとしての基本をしっかりと
体にたたき込むことが第一だと思うんです。
そこをおろそかにすると、
途中でほころびが出てくる。
最初の基礎の部分を
きっちりやらせることから
はじめないといけないなって
いまもあらためてそう思ってます。
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糸井 |
「プロとしての基本」と
「アマチュアとしての基本」というのは
まったく違うものですか。
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川相 |
うーん、まあ、
まったく違うわけではないですけど、
もしかしたら、アマチュアよりもプロのほうが
基本練習をすごく丁寧に
継続してやるかもしれないです。
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糸井 |
はぁーーー。
聞いてて、ちょっと寒気がするくらい、
こわい世界ですね。
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川相 |
うまい選手、
たとえば現役でいったら宮本とか井端。
このふたりはノックとか見てると
ほんっとに基本に忠実に、
丁寧にやるんですよ。
なんでもないゴロをほんとうに丁寧に
足を運んで腰を落として捕るんです。
井端はぼくもずっといっしょにやってたので
何度も見たことがあるんですけど、
彼がノックを受けている姿というのは
ほんとに、アマチュアの子たちに
見せてあげたいってすごく思いますね。
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糸井 |
鑑賞に耐えうるノック。
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川相 |
はい。もう、ぼくらが、
足を動かせ、低くしろ、なんて言わなくても、
自分がノックを受けるなかで、
自然と足を動かして、低く捕って、
きっちり足を運んで、
スローイングするんですよ。
ああ、これを続けてたら、
そんなに大きく技術的に
崩れることはないだろうなって
見てるだけでわかりますよ。
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糸井 |
つまりそれ、川相さんは
同業者として感動してるわけですね。
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川相 |
あ、そうですね。
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糸井 |
川相さん自身も、そういうふうにして
ノックを受けていたんですか?
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川相 |
ぼくもしてました。
だからたぶん、
42歳まで守れたと思うんですよ。
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糸井 |
なるほど。
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川相 |
たぶん、それしかないです。
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糸井 |
守りは最後までもつんですね。
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川相 |
もちました。
それで、なんとか42歳まで
ぼくはできたと思います。
あれ、たぶん手を抜いてたら
できてないと思います。
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糸井 |
こないだね、赤坂さんといっしょに
ドームで試合を観たんですけど、
赤坂さんがグラウンドのすぐそばの席を
とってくださったんですよ。
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赤坂 |
エキサイトシートです。
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川相 |
ああ、はいはい。
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糸井 |
あんなにおもしろく
観られるとは思わなかったです。
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川相 |
そうですか(笑)。
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糸井 |
いや、びっくりしました。
とにかく、低いんですよ、すべてが。
ぜんっぶが低い。
たとえば、野手の重心が低い。
投げる球、構えるグローブの位置、
ふだんから足腰を鍛えてる人たちが、
落とすだけ、落としてるんです。
なんだろう、野球っていうのは、
地上10センチですべてが起こってる
スポーツなんじゃないかって思った。
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川相 |
ああ、それぐらいかもしれません。
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糸井 |
あの日以来、
ちょっと野球の見方が変わったくらい。
たとえば内野ゴロひとつとってみても、
落とすだけ腰を落として低く構えて、
打った瞬間にスタートしないと
ほとんどヒットになっちゃいますよね。
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川相 |
もちろん、そうです。
試合中はスタートが勝負ですから、ほんとに。
スタートを怠ると追いつかないし、
エラーもします。
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糸井 |
そして、テレビには
そこは絶対映らないですよね。
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川相 |
ああ、そうですね。
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赤坂 |
じゃ、低い構えというので、
こんな一面はどうですかね。
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糸井 |
来たね(笑)。
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赤坂 |
バントする川相選手が一面です。
どうですか、このがっちり落ちた腰!
この写真、川相選手が犠打の
世界記録をつくったときに
NHKが貸してくれって言ってきたんですよ。
すごい構えでしょう?
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糸井 |
ほんとだ。
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赤坂 |
膝をがっしりとここへ突いてね。
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川相 |
あれ? これ、送りバントですか?
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赤坂 |
いや、スクイズです。
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川相 |
ああ、スクイズですよね。
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永田 |
(こらえきれず参加)
え、川相さん、いま、
自分の構えを観ただけで
スクイズだってわかったんですか?
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川相 |
ええ。ふつうの送りバントのときは
こういう形ではほとんどやらないんで。
スリーバントくらいしか
たぶんここまで下げてやらないと思います。
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永田 |
はーーーー。
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糸井 |
つまり、スクイズは送りバントよりも
もっと怖いんですね。
だから、からだごと下げるっていう。
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川相 |
そうですね。
手だけでは対応できないんで。
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赤坂 |
ちなみにこの日、
なぜ川相選手のスクイズが
一面になっているかというと、
この打席の前まで、
2打席連続ホームランを打ってるんです。
1打席、2打席と連続ホームランを打って、
拮抗した展開になって、最後に
決勝スクイズを決めてるんです。
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永田 |
じゃ、ホームラン、ホームラン、スクイズ?
うわーーー、しびれる!
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川相 |
ヤクルトの、誰だっけな、
矢野から打ったとき?
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赤坂 |
そうそうそう。
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川相 |
2打席連続で打って、
最後はデービスでしょ、スクイズ。
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赤坂 |
そうそう、デービス、デービス。
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糸井 |
覚えてるんだよね、本人はね。
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川相 |
平成元年でしょ。
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赤坂 |
そう、89年です。
この試合はぼくもよく覚えてます。
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糸井 |
すごいですね、自分の思い出を
みんなが知ってるっていうのは。
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川相 |
ありがたいことですね。
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永田 |
しびれるわー。
(つづきます) |
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