第9回 プロは低い。
糸井 お話をうかがっていて感じるんですけど、
川相さんがすごくおもしろいのは、
自分がヘタだったときのことを
よく覚えていることですよ。
川相 ああ、ああ、なるほど。
でも、指導者になって役立ったのは
やっぱり、そこですよ。
糸井 あーー、そうですか。
川相 はい。
二軍監督になってからは、
自分の入団1年目のころのことを
すごくよく思い出しました。
たとえば、須藤さんに教えてもらった
基本的な部分のこととか‥‥。
あの基本がなかったら、
その後の自分はたぶんなかったと思うので。
糸井 なるほど、なるほど。
川相 とくに入団1年目の選手には、
ピッチャーも野手も、
プロとしての基本をしっかりと
体にたたき込むことが第一だと思うんです。
そこをおろそかにすると、
途中でほころびが出てくる。
最初の基礎の部分を
きっちりやらせることから
はじめないといけないなって
いまもあらためてそう思ってます。
糸井 「プロとしての基本」と
「アマチュアとしての基本」というのは
まったく違うものですか。
川相 うーん、まあ、
まったく違うわけではないですけど、
もしかしたら、アマチュアよりもプロのほうが
基本練習をすごく丁寧に
継続してやるかもしれないです。
糸井 はぁーーー。
聞いてて、ちょっと寒気がするくらい、
こわい世界ですね。
川相 うまい選手、
たとえば現役でいったら宮本とか井端。
このふたりはノックとか見てると
ほんっとに基本に忠実に、
丁寧にやるんですよ。
なんでもないゴロをほんとうに丁寧に
足を運んで腰を落として捕るんです。
井端はぼくもずっといっしょにやってたので
何度も見たことがあるんですけど、
彼がノックを受けている姿というのは
ほんとに、アマチュアの子たちに
見せてあげたいってすごく思いますね。
糸井 鑑賞に耐えうるノック。
川相 はい。もう、ぼくらが、
足を動かせ、低くしろ、なんて言わなくても、
自分がノックを受けるなかで、
自然と足を動かして、低く捕って、
きっちり足を運んで、
スローイングするんですよ。
ああ、これを続けてたら、
そんなに大きく技術的に
崩れることはないだろうなって
見てるだけでわかりますよ。
糸井 つまりそれ、川相さんは
同業者として感動してるわけですね。
川相 あ、そうですね。
糸井 川相さん自身も、そういうふうにして
ノックを受けていたんですか?
川相 ぼくもしてました。
だからたぶん、
42歳まで守れたと思うんですよ。
糸井 なるほど。
川相 たぶん、それしかないです。
糸井 守りは最後までもつんですね。
川相 もちました。
それで、なんとか42歳まで
ぼくはできたと思います。
あれ、たぶん手を抜いてたら
できてないと思います。
糸井 こないだね、赤坂さんといっしょに
ドームで試合を観たんですけど、
赤坂さんがグラウンドのすぐそばの席を
とってくださったんですよ。
赤坂 エキサイトシートです。
川相 ああ、はいはい。
糸井 あんなにおもしろく
観られるとは思わなかったです。
川相 そうですか(笑)。
糸井 いや、びっくりしました。
とにかく、低いんですよ、すべてが。
ぜんっぶが低い。
たとえば、野手の重心が低い。
投げる球、構えるグローブの位置、
ふだんから足腰を鍛えてる人たちが、
落とすだけ、落としてるんです。
なんだろう、野球っていうのは、
地上10センチですべてが起こってる
スポーツなんじゃないかって思った。
川相 ああ、それぐらいかもしれません。
糸井 あの日以来、
ちょっと野球の見方が変わったくらい。
たとえば内野ゴロひとつとってみても、
落とすだけ腰を落として低く構えて、
打った瞬間にスタートしないと
ほとんどヒットになっちゃいますよね。
川相 もちろん、そうです。
試合中はスタートが勝負ですから、ほんとに。
スタートを怠ると追いつかないし、
エラーもします。
糸井 そして、テレビには
そこは絶対映らないですよね。
川相 ああ、そうですね。
赤坂 じゃ、低い構えというので、
こんな一面はどうですかね。
糸井 来たね(笑)。
赤坂 バントする川相選手が一面です。
どうですか、このがっちり落ちた腰!
この写真、川相選手が犠打の
世界記録をつくったときに
NHKが貸してくれって言ってきたんですよ。
すごい構えでしょう?
糸井 ほんとだ。
赤坂 膝をがっしりとここへ突いてね。
川相 あれ? これ、送りバントですか?
赤坂 いや、スクイズです。
川相 ああ、スクイズですよね。
永田 (こらえきれず参加)
え、川相さん、いま、
自分の構えを観ただけで
スクイズだってわかったんですか?
川相 ええ。ふつうの送りバントのときは
こういう形ではほとんどやらないんで。
スリーバントくらいしか
たぶんここまで下げてやらないと思います。
永田 はーーーー。
糸井 つまり、スクイズは送りバントよりも
もっと怖いんですね。
だから、からだごと下げるっていう。
川相 そうですね。
手だけでは対応できないんで。
赤坂 ちなみにこの日、
なぜ川相選手のスクイズが
一面になっているかというと、
この打席の前まで、
2打席連続ホームランを打ってるんです。
1打席、2打席と連続ホームランを打って、
拮抗した展開になって、最後に
決勝スクイズを決めてるんです。
永田 じゃ、ホームラン、ホームラン、スクイズ?
うわーーー、しびれる!
川相 ヤクルトの、誰だっけな、
矢野から打ったとき?
赤坂 そうそうそう。
川相 2打席連続で打って、
最後はデービスでしょ、スクイズ。
赤坂 そうそう、デービス、デービス。
糸井 覚えてるんだよね、本人はね。
川相 平成元年でしょ。
赤坂 そう、89年です。
この試合はぼくもよく覚えてます。
糸井 すごいですね、自分の思い出を
みんなが知ってるっていうのは。
川相 ありがたいことですね。
永田 しびれるわー。


(つづきます)
2010-12-13-MON
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