川上 |
糸井さんの奥様が
世界を広げたいと思っている時と
そうではない時の見分けって、
ものすごく微妙で、むずかしくないですか? |
糸井 |
それは、「機嫌」なんですね。 |
川上 |
「機嫌」ですよねぇ……。おもしろい! |
糸井 |
それは表現する必要もないことで、
生活の中で、逸脱しては
「しまった!」
と思い、見事に通過した時には
「やった!」
と思い……これを繰りかえすわけで。 |
川上 |
ふだんなら逸脱になることでも、
ある時、ヒョッとうまくいっちゃったりすると、
「しめた!」というか、
「またこの道を極めるんだ」と思いませんか?
それでまた失敗しちゃったりしてね。
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糸井 |
しますねぇ。
そのリトマス試験紙になるのが、
「つまらないギャグ」なんです。 |
川上 |
(笑) |
糸井 |
つまらないギャグというのは、
「世界を広げること」ではあるんです。
それがピタッとはまった時には、
彼女の世界が、ひとつ増えたわけですから、
「それ、おもしろい」と言うんです。
「ああ、よかった」と思って
「次にまた」と思って……。
どのくらいでしょうね。
60回に1回ぐらい当たるんですよ。 |
川上 |
(笑) |
糸井 |
エネルギーの量はぼくのほうが多いですから、
60回、出すことは、やぶさかでないので。 |
川上 |
ギャグを出すこと自体に、
腹を立てられたりしません? |
糸井 |
腹を立ててますけど、
まったくそういうことのない人について
「あの人はつまらない」
と言うのを聞いたことがある。 |
川上 |
そうか。そこは、むずかしいですね。 |
糸井 |
むずかしいです。
ぼくは当たった時に、
「ほんとにおれと結婚してよかったろう」
と、よけいなことを言うんです。
どうも、弘兼憲史さんもそうらしいんですよ。
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川上 |
(笑) |
糸井 |
柴門(ふみ)さんと話していて
それがわかったんだけど、柴門さんも、
そういうダンナのことを
人に説明している時は、おもしろそうなんです。
だから、
「そうじゃないと退屈なんだけど、
微妙にうるさいし、
わたしはわたしのフィルターを持って
生きているわけだから……。
まぁ、世界をちょっと
広げてくれた瞬間というのは
あったほうがいいものだけど」と。
川上さんは女性なんだけど、
それを、もしかしてしてるのかなぁ。 |
川上 |
そこは
ダンナ的な部分と受け手の部分、
混じってますよ。
ただ、日常の中では
受け手の部分がほとんどです。
ものを書く時になると、
どうしても基本に「受けたい」があるので……。 |
糸井 |
してますよね。 |
川上 |
60回ギャグ、つい自分でしちゃいます(笑)。
それは、柴門さんとかでもしてるじゃないですか、
仕事の時にはもちろん。 |
糸井 |
してますよね。
柴門さんも、その旦那を選ぶというのは……。 |
川上 |
同じなんじゃないかな、きっと。 |
糸井 |
映画の『マトリックス』の中で、のけぞって、
弾をいっぱいよけるシーンがあるじゃないですか。
「あれがおまえだ」と言ったことがあって。 |
川上 |
奥さんなんですね、よけてる人は。 |
糸井 |
そう。
おれはつまらないことをバンバン撃つ。
おまえはそれが好きなんだ、と。 |
川上 |
大変だなぁ(笑)。 |
糸井 |
それはぼくの、
アメリカ人が「愛してるよ」と言って
チュッとやるののかわりの、口説きなんです。 |
川上 |
(笑) |
糸井 |
表現する場所もないし、
今こうやってしゃべれたので、
初めて言っていることですけれども、
そう思いながら生きてるわけですよ。 |
川上 |
すごい。 |
糸井 |
でも、川上さんの書いていることは、
そんなことばっかりに思えますよ? |
川上 |
そうでもない、
そんなに弾はくり出せない(笑)。 |
糸井 |
ぼくが読んでる限りでは。 |
川上 |
たぶんそれは、
弾が飛んでくると感じてくださるのも
ひとつの感受性だから。
そういう風に
全然感じない人と糸井さんが結婚しちゃったら、
ものすごくまた、大変ですよね、違う意味で。
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糸井 |
同じおもしろいものを
共有したいというのって、
誰かを好きだという時の、
いちばん大きな前提ですね。 |
川上 |
そうですね。
最近よく目にする説で、
恋愛をしている時に大事なのは、
うれしいことを共有することではなくて、
何が嫌かということを共有する……
あれ、反対だっけ?
ちょっと、あやふやな話ですね。 |
糸井 |
それ、どっちかで、言ってることが、
ガラッと変わっちゃいますね。
両方言えちゃうから、
記憶が曖昧になったんだろうなぁ。 |
川上 |
そうですね。
どっちもそうかな、と思っちゃったんですね。 |
糸井 |
コンサートに行って、
「帰ろうか」と言うタイミングが
いっしょだったりすると、嬉しいですよね。
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川上 |
それ、ありますね。
わたし、それ、すごく記憶があるな。
即出て来ちゃったことがあって、
すごいうれしかった。 |
糸井 |
うれしいですよね。 |
川上 |
それで仲良くなっちゃったりしてね。 |
糸井 |
「おれは二度我慢したんだけど、
もうだめなんだけど、出ようか」
あるいは
「どうだろう?」と話しかけておいて、
「ねぇ」って。
「ねぇ」の時にはまだ立たない。
「弱ったね」と言って、
「ねぇ」と言って、まだ立たない。
かえってこれは、うれしいですよね。 |
川上 |
うれしいですね。ものすごくうれしいです。 |
糸井 |
3回ぐらい確認してから、いっしょに出る。
ぼくは我慢して出ないであげるタイプなんです。
作った人に悪いから。 |
川上 |
そうですよね。 |
糸井 |
かみさんはバンバン帰れる人なんです。
ほんとに羨ましいくらいなんですけど。
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