男女が同居するということ。
川上弘美さんと「いっしょ」を語る。

第3回
いっしょで、よかった。

川上 糸井さんの奥様が
世界を広げたいと思っている時と
そうではない時の見分けって、
ものすごく微妙で、むずかしくないですか?
糸井 それは、「機嫌」なんですね。
川上 「機嫌」ですよねぇ……。おもしろい!
糸井 それは表現する必要もないことで、
生活の中で、逸脱しては
「しまった!」
と思い、見事に通過した時には
「やった!」
と思い……これを繰りかえすわけで。
川上 ふだんなら逸脱になることでも、
ある時、ヒョッとうまくいっちゃったりすると、
「しめた!」というか、
「またこの道を極めるんだ」と思いませんか?
それでまた失敗しちゃったりしてね。

糸井 しますねぇ。
そのリトマス試験紙になるのが、
「つまらないギャグ」なんです。
川上 (笑)
糸井 つまらないギャグというのは、
「世界を広げること」ではあるんです。
それがピタッとはまった時には、
彼女の世界が、ひとつ増えたわけですから、
「それ、おもしろい」と言うんです。

「ああ、よかった」と思って
「次にまた」と思って……。

どのくらいでしょうね。
60回に1回ぐらい当たるんですよ。
川上 (笑)
糸井 エネルギーの量はぼくのほうが多いですから、
60回、出すことは、やぶさかでないので。
川上 ギャグを出すこと自体に、
腹を立てられたりしません?
糸井 腹を立ててますけど、
まったくそういうことのない人について
「あの人はつまらない」
と言うのを聞いたことがある。
川上 そうか。そこは、むずかしいですね。
糸井 むずかしいです。
ぼくは当たった時に、
「ほんとにおれと結婚してよかったろう」
と、よけいなことを言うんです。
どうも、弘兼憲史さんもそうらしいんですよ。

川上 (笑)
糸井 柴門(ふみ)さんと話していて
それがわかったんだけど、柴門さんも、
そういうダンナのことを
人に説明している時は、おもしろそうなんです。

だから、
「そうじゃないと退屈なんだけど、
 微妙にうるさいし、
 わたしはわたしのフィルターを持って
 生きているわけだから……。
 まぁ、世界をちょっと
 広げてくれた瞬間というのは
 あったほうがいいものだけど」と。

川上さんは女性なんだけど、
それを、もしかしてしてるのかなぁ。
川上 そこは
ダンナ的な部分と受け手の部分、
混じってますよ。
ただ、日常の中では
受け手の部分がほとんどです。

ものを書く時になると、
どうしても基本に「受けたい」があるので……。
糸井 してますよね。
川上 60回ギャグ、つい自分でしちゃいます(笑)。
それは、柴門さんとかでもしてるじゃないですか、
仕事の時にはもちろん。
糸井 してますよね。
柴門さんも、その旦那を選ぶというのは……。
川上 同じなんじゃないかな、きっと。
糸井 映画の『マトリックス』の中で、のけぞって、
弾をいっぱいよけるシーンがあるじゃないですか。
「あれがおまえだ」と言ったことがあって。
川上 奥さんなんですね、よけてる人は。
糸井 そう。
おれはつまらないことをバンバン撃つ。
おまえはそれが好きなんだ、と。
川上 大変だなぁ(笑)。
糸井 それはぼくの、
アメリカ人が「愛してるよ」と言って
チュッとやるののかわりの、口説きなんです。
川上 (笑)
糸井 表現する場所もないし、
今こうやってしゃべれたので、
初めて言っていることですけれども、
そう思いながら生きてるわけですよ。
川上 すごい。
糸井 でも、川上さんの書いていることは、
そんなことばっかりに思えますよ?
川上 そうでもない、
そんなに弾はくり出せない(笑)。
糸井 ぼくが読んでる限りでは。
川上 たぶんそれは、
弾が飛んでくると感じてくださるのも
ひとつの感受性だから。

そういう風に
全然感じない人と糸井さんが結婚しちゃったら、
ものすごくまた、大変ですよね、違う意味で。

糸井 同じおもしろいものを
共有したいというのって、
誰かを好きだという時の、
いちばん大きな前提ですね。
川上 そうですね。
最近よく目にする説で、
恋愛をしている時に大事なのは、
うれしいことを共有することではなくて、
何が嫌かということを共有する……
あれ、反対だっけ?
ちょっと、あやふやな話ですね。
糸井 それ、どっちかで、言ってることが、
ガラッと変わっちゃいますね。
両方言えちゃうから、
記憶が曖昧になったんだろうなぁ。
川上 そうですね。
どっちもそうかな、と思っちゃったんですね。
糸井 コンサートに行って、
「帰ろうか」と言うタイミングが
いっしょだったりすると、嬉しいですよね。

川上 それ、ありますね。
わたし、それ、すごく記憶があるな。
即出て来ちゃったことがあって、
すごいうれしかった。
糸井 うれしいですよね。
川上 それで仲良くなっちゃったりしてね。
糸井 「おれは二度我慢したんだけど、
 もうだめなんだけど、出ようか」
あるいは
「どうだろう?」と話しかけておいて、
「ねぇ」って。
「ねぇ」の時にはまだ立たない。
「弱ったね」と言って、
「ねぇ」と言って、まだ立たない。
かえってこれは、うれしいですよね。
川上 うれしいですね。ものすごくうれしいです。
糸井 3回ぐらい確認してから、いっしょに出る。
ぼくは我慢して出ないであげるタイプなんです。
作った人に悪いから。
川上 そうですよね。
糸井 かみさんはバンバン帰れる人なんです。
ほんとに羨ましいくらいなんですけど。

(つづく)

2003-06-24-TUE

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