男女が同居するということ。
川上弘美さんと「いっしょ」を語る。
先日、川上弘美さんと、対談ダブルヘッダーという、
合計3時間を超える、ずいぶん珍しいことをしました。
「ほぼ日」に掲載する、『MOTHER』についての雑談と、
「文藝」(河出書房)に掲載する、文学についての会話。

そのどちらにも掲載しきれなかった部分が、
なんだかおもしろかったので、短期連載で、まず、ご紹介!
『MOTHER』対談を待ちながら、たのしんでみてください。

結婚生活は極楽なの? うなずくだけの関係が心地よい?
「男女がいっしょに住むこと」についてのよもやま話です。

第5回
男のやさしさって、なんだ?

糸井 今、ついでのように思い出したんだけど、
「ほぼ日」で話すと、
女の子たちにものすごくうける雑談があるんです。

「かぐや姫の『神田川』の主人公の女の子は、
 なぜ『あなたのやさしさがこわかった』のか?」
っていうやつなんですけど……。
川上 あれ、わたしには、
ものすごく、不可解な歌詞なんです。
あれに関しては、いろいろ考えたんですよ。

糸井 やっぱり考えたことある?
ぼくもあるんです。
川上 ものすごい考えた。
あそこの歌詞でつまずいて……。
曲全体はわりと好きだもんですから。
曲調は、センチメンタルだし。
糸井 川上さんは、
女側をいぶかしんでるんですか?
川上 そうなんです。
糸井 ぼくは、男側を見たんです。
ちょっと、説明しはじめると、
一見下品になるので気をつけてくださいね。
川上 気をつけます(笑)。

糸井 男の子たちはバカだから、
ゲームとしての性というのを考えざるを得ない。
つまり、技術の性というのを
考えざるを得ない時期があるんですね。

「ああすりゃいいんだ、こうしてやれ」
みたいなことって、
みんな、ちょいとおぼえたての時は、
「おれはうまい」とか、思いがちなんですよ。

「もっとうまくなりたい」とか考える。
それを止めてくれる人は、いないんですね。
川上 そうですね。
糸井 実際は、
「そんなことしてても、しょうがないや」
と思って飽きて止めるまで、
技術の追求が続いてしまうんです。

ただ、
性の技術の追求と、
「添い遂げる」ということは、
矛盾するんですね。


ある女性を好きになって、
この人をどうやって喜ばせようかということを、
花束であり、プレゼントであり、
様々なやさしさであり、性的技巧であり、と、
どんなにてんこ盛りしてても、
てんこ盛りにすればするほど、
「この人は私を他者として扱っているから、
 添い遂げないんだ」という……。
川上 それがこわいんだ。
糸井 こわいんです。
川上 ああ、そうか。
糸井 ああやってやさしくしているということは、
この人は私からいずれ離れていく、
籍が入っていない、ということで……。
川上 なるほど、やさしいのはこわいんだ。

糸井 そうなんです。
川上 そうか。
その解釈はしたことがなかったな。
糸井 ぼくも歳とってからわかったんですけど。
つまり、お恥ずかしい時代に、
いい気になって自分は過不足なく
おつきあいしている、
という時に嫌われるとわかるんです。
「この男はいいかげんだ」
「恋人にはいいけれども結婚するにはだめ」
と言われているやつって、
自分では絶対わからないはずなんです。
川上 わからないんですね。
糸井 もっと不器用でいいから、極端に言えば、
「私をほっといてもいいから一緒にいろ」
という短刀をつきつけられると、
『神田川』がわかるんですよ。
川上 そうか。そういうものだったのか。
あの「やさしさ」は。
糸井 あの女の子は「私を嫁にもらってくれ」と。
あの時代ですからね、まだ。
両方田舎から来ているわけで。親は農家です。
川上 私はあの曲の「やさしさ」というのは、
彼女は彼の武骨な行動を間違って
やさしさと解釈したんじゃないか、

と思ってたんです。
それで女の子が変だよと思ったんですけど……。

糸井 そこは、男の側から男の欠点が見えるんです。
頼りないんですよ、やさしい男なんて。
川上 頼りないですね。
糸井 何か隠しごとがあるんです。
過剰にやさしく感じられるというのは。
川上 そういう意味ですか。

でも、あの歌のころ、
男の子たちは、
おもてだって女の子に
やさしくできたのかな?

行動でやさしさを示すという文化は、
バブル直前ぐらいから
はじまったんじゃないか、
とわたしは思うんですけど、
そうでもないんですか。
糸井 男からすると……。
川上 やさしくしてた?

糸井 「やさしい」という言葉と
「気をつかう」という言葉は、
本当は別物なんですけど、
男たちは、そうとうわからないから、
ドキドキしてたんです。

あの時代でも、男は、
こうしたらいいかな、
ああしたらいいかなというのを、
一生懸命、下手なりに精一杯やってたよ。

みんな、男は弱いんですよ。
いっぱい考えられない。
川上 そうか!
やさしさを大げさに男の子たちが
出さなくても、あの時代は、
女の子たちも、抑えたやさしさを
感じとることができたんですね。


で、男の子たちは、
いっぱい考えようとはしてたんでしょう?
実際にはできなくても。

糸井 ぼくは遡って考えて、
いまは平気で言ってますけど、
自分でもいっぱいは何か考えられない。

でも女の人は、
「その都度のことで考える」
ということが得意なので、
実はいっぱいになっちゃう。
川上 うん。
その都度、いっぱいですね。
糸井 それって、おもしろいよなぁ。

(おわり)


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2003-06-26-THU

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