糸井 |
今、ついでのように思い出したんだけど、
「ほぼ日」で話すと、
女の子たちにものすごくうける雑談があるんです。
「かぐや姫の『神田川』の主人公の女の子は、
なぜ『あなたのやさしさがこわかった』のか?」
っていうやつなんですけど……。 |
川上 |
あれ、わたしには、
ものすごく、不可解な歌詞なんです。
あれに関しては、いろいろ考えたんですよ。
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糸井 |
やっぱり考えたことある?
ぼくもあるんです。 |
川上 |
ものすごい考えた。
あそこの歌詞でつまずいて……。
曲全体はわりと好きだもんですから。
曲調は、センチメンタルだし。 |
糸井 |
川上さんは、
女側をいぶかしんでるんですか? |
川上 |
そうなんです。 |
糸井 |
ぼくは、男側を見たんです。
ちょっと、説明しはじめると、
一見下品になるので気をつけてくださいね。 |
川上 |
気をつけます(笑)。
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糸井 |
男の子たちはバカだから、
ゲームとしての性というのを考えざるを得ない。
つまり、技術の性というのを
考えざるを得ない時期があるんですね。
「ああすりゃいいんだ、こうしてやれ」
みたいなことって、
みんな、ちょいとおぼえたての時は、
「おれはうまい」とか、思いがちなんですよ。
「もっとうまくなりたい」とか考える。
それを止めてくれる人は、いないんですね。 |
川上 |
そうですね。 |
糸井 |
実際は、
「そんなことしてても、しょうがないや」
と思って飽きて止めるまで、
技術の追求が続いてしまうんです。
ただ、
性の技術の追求と、
「添い遂げる」ということは、
矛盾するんですね。
ある女性を好きになって、
この人をどうやって喜ばせようかということを、
花束であり、プレゼントであり、
様々なやさしさであり、性的技巧であり、と、
どんなにてんこ盛りしてても、
てんこ盛りにすればするほど、
「この人は私を他者として扱っているから、
添い遂げないんだ」という……。 |
川上 |
それがこわいんだ。 |
糸井 |
こわいんです。 |
川上 |
ああ、そうか。 |
糸井 |
ああやってやさしくしているということは、
この人は私からいずれ離れていく、
籍が入っていない、ということで……。 |
川上 |
なるほど、やさしいのはこわいんだ。
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糸井 |
そうなんです。 |
川上 |
そうか。
その解釈はしたことがなかったな。 |
糸井 |
ぼくも歳とってからわかったんですけど。
つまり、お恥ずかしい時代に、
いい気になって自分は過不足なく
おつきあいしている、
という時に嫌われるとわかるんです。
「この男はいいかげんだ」
「恋人にはいいけれども結婚するにはだめ」
と言われているやつって、
自分では絶対わからないはずなんです。 |
川上 |
わからないんですね。 |
糸井 |
もっと不器用でいいから、極端に言えば、
「私をほっといてもいいから一緒にいろ」
という短刀をつきつけられると、
『神田川』がわかるんですよ。 |
川上 |
そうか。そういうものだったのか。
あの「やさしさ」は。 |
糸井 |
あの女の子は「私を嫁にもらってくれ」と。
あの時代ですからね、まだ。
両方田舎から来ているわけで。親は農家です。 |
川上 |
私はあの曲の「やさしさ」というのは、
彼女は彼の武骨な行動を間違って
やさしさと解釈したんじゃないか、
と思ってたんです。
それで女の子が変だよと思ったんですけど……。
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糸井 |
そこは、男の側から男の欠点が見えるんです。
頼りないんですよ、やさしい男なんて。 |
川上 |
頼りないですね。 |
糸井 |
何か隠しごとがあるんです。
過剰にやさしく感じられるというのは。 |
川上 |
そういう意味ですか。
でも、あの歌のころ、
男の子たちは、
おもてだって女の子に
やさしくできたのかな?
行動でやさしさを示すという文化は、
バブル直前ぐらいから
はじまったんじゃないか、
とわたしは思うんですけど、
そうでもないんですか。 |
糸井 |
男からすると……。 |
川上 |
やさしくしてた?
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糸井 |
「やさしい」という言葉と
「気をつかう」という言葉は、
本当は別物なんですけど、
男たちは、そうとうわからないから、
ドキドキしてたんです。
あの時代でも、男は、
こうしたらいいかな、
ああしたらいいかなというのを、
一生懸命、下手なりに精一杯やってたよ。
みんな、男は弱いんですよ。
いっぱい考えられない。 |
川上 |
そうか!
やさしさを大げさに男の子たちが
出さなくても、あの時代は、
女の子たちも、抑えたやさしさを
感じとることができたんですね。
で、男の子たちは、
いっぱい考えようとはしてたんでしょう?
実際にはできなくても。
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糸井 |
ぼくは遡って考えて、
いまは平気で言ってますけど、
自分でもいっぱいは何か考えられない。
でも女の人は、
「その都度のことで考える」
ということが得意なので、
実はいっぱいになっちゃう。 |
川上 |
うん。
その都度、いっぱいですね。 |
糸井 |
それって、おもしろいよなぁ。
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