糸井 |
やりたいことって、
まわりからいくら、
「わかる、わかる」と言われても、
本当には、わかれないところがあります。
本人にも、
「わたしは、それをやる必要があるし、
それしか、できませんし」
というやり方。
自分が作ったものでも、
「通じなくてもいいかもしれない」
というギリギリのところで、子どもの自分の
置き土産みたいなイメージって、ありますよ。
ぼくの場合、それのひとつの典型が、
「速度だけあって、弾丸のないもの」なんです。 |
川上 |
形がないということですか? |
糸井 |
弾が飛んでピューンといった時に、
弾さえもないんだけど
走ったということがあるというイメージがあって、
それはどう説明してもうまくいかないんですけど、
主体がないんだけど「こと」があるというか。
自分なりに、
「うまくいったな」と思うものって、
それに似たものができた時に
よろこんでいるような気がするんですよ。 |
川上 |
そうか、そうか。
それは速さだけじゃなくて、
いろいろなことに関してですか?
|
糸井 |
そのイメージが
自分の中ではシンボルになっているような……。
だから、チェシャ猫が好きなんですよね。
笑いがあって、猫がいない。 |
川上 |
でも最初は、「ある」んですね。猫は。 |
糸井 |
ネコはネコで、
それはこっち置いといて、
とした状態の、取り出した時間というか……。
こんなこと、ひとに言ったことないんですけどね。 |
川上 |
おもしろいですね、それ。 |
糸井 |
ひとの作ったものを
「いいな」と思う時って、無に近い、
「いいものがある」としか表現できない。
でも、「いいものがある」ことは証明できない。
でも、かといってそれを
集合無意識とか言われても困るし……。 |
川上 |
なるほどね。そうですね。 |
糸井 |
たとえば、小説を
直接読んでいる時の
ぼくの心の中のイメージとかというのは、
それに似てるんですよ。 |
川上 |
そこはでも、もしかすると、
わざとはっきりと形をとらせないためには
いくつかのテクニックはあるのかもしれなくて、
たぶん言葉を使う方々は
よくご存じだと思うんですけど、
「最小のものを出してくる」
ということなのかなぁ。
それだけでもないんだけど。
むずかしいなぁ。 |
糸井 |
むずかしいですね。 |
川上 |
書いてる時も、
何をしようとしているか、
自分ではよくわかっていないという部分があるから。 |
糸井 |
「言いにくいんだけれども、
こんなようなことがいつも書きたいんですよね」
みたいなことというのは、おありになるんですか? |
川上 |
そこが、よくわからないんです。
でも、あるんでしょうね。
あるんですけど、
そこは言葉にしちゃうと
書かないでよくなっちゃうから。
糸井さんは、ありますか?
|
糸井 |
ぼくも、いまの答えと同じ。
自分から質問したくせに質問しにくかったのは、
自分もそうだからなんですけど。 |
川上 |
言葉にしちゃうということは、
何か区切りをつけちゃうことで、
定義をつくっちゃうことだから、
それはきっと、したくないんですね。
でも、何かあるんだろうな。
ぼんやりしたイメージは。 |
糸井 |
むりやりにできちゃう
オモチャみたいなものというのが、
ぼくの場合は、作りたいのかもしれない。
たとえば半分ふざけてつくっているような
歌詞とかがありまして、
矢野顕子の歌なんですけど、
歌詞の中に四季をすべて入れちゃって、
「こんなイナカがありました」
と説明をつける場所があるんですよ。
ありっこないんだけど、
言葉としては書けちゃうとか、
そういうことに、ものすごく興味がありますね。 |
川上 |
そこは不思議ですね。 |
糸井 |
川上さんが書いているものにも、
矛盾とか何とかじゃなくて、
「書けちゃうから、ありよ」
というのが、あると思いますよ。 |
川上 |
そうか。あるな。
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糸井 |
何かを作る時って、みんな、
すごく少ない人数の人のことを
追いかけすぎて、失敗するんですよ。
ここは、ぼくは零細企業経営者として、
勉強してきたところでもあるんですけど
「この分野のこういう人を掴むには、
その方針ではいけない」
とかいって、大仕掛けな変更をしたりするけど、
みんな、ムダなんです。
それよりは、思いっきり
自分のやりたいことをやったほうがいい。 |
川上 |
ほんとにそうですね。 |
糸井 |
これは、経験で身につけた知恵です。
文芸誌も、きっとそうなんですよ。
編集者が
「ここはもうちょっとこうしたほうが……」
というのは、だいたいしないほうがいい(笑)。
だって、たどれっこないんだもん、小説なんて。
演劇とか見ている時はたどれますけど、
時間の流れがぜんぜん違うものを、
あの分量でイメージを
ずっと追いかけさせるというのは
ぜったい無理なのに、
「この人が出て、ここでこのセリフは唐突ですから」
と言っても、作者以外は、たどれていないものね。 |
川上 |
(笑)
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