ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

1 「お腹の風邪」は風邪じゃない。

ほぼ日
岩田先生、こんにちは。
今日はよろしくお願いいたします。
岩田
よろしくお願いします。
ほぼ日
今日はアンケートで約8500人のかたが
挙げてくださった風邪の疑問を、
どんどんお聞きできたらと思っています。
岩田
誰かほかの方も取材されますか?
ほぼ日
いえ、予定してないです。
岩田
じゃあ、好きなこと言っていいですね。
別の先生と全然違うことを言って
変なことにしてしまってはいけないので(笑)。
ほぼ日
大丈夫です(笑)。
何も気にせず話していただけたら。
岩田
わかりました。
ほぼ日
ではさっそく、聞かせていただきますね。
岩田
どうぞ。
ほぼ日
まず、風邪ってどういう病気のことを
言うのでしょうか?
普段から「風邪をひいた」とかはよく言うし、
なんとなくのイメージはあるけれども、
症状もいろいろあって、はっきりとした
「風邪とはこれ!」といった
定義がわからないという声がたくさんありました。
岩田
風邪というのは、いろんな症状の
ごった煮みたいなものです。
そして簡単に言うと
「上気道(じょうきどう)の感染症」です。
ほぼ日
上気道。
岩田
まず、空気が通る道を「気道」と言います。
鼻と口から入った空気は、
気管を通って、肺にいきますね。
そして肺で酸素を交換するわけですけど、
肺の周辺を「下気道(かきどう)」と言います。
このあたりが感染症を起こすと、
肺炎になったりするわけです。
そして「上気道」というのは、のどの上ですね。
ほぼ日
なるほど、風邪とは
「上気道」の感染症のこと。
岩田
そして、このあたりが感染を起こすと、
炎症が起きます。
炎症が起きるというのは、病原体に対して
自分たちの免疫が反応しているということですね。
それで熱が出たり、
鼻で炎症が起きると鼻水が出たり。
ほぼ日
そうか、鼻水も炎症の結果ですね。
岩田
はい。そして鼻水がたくさん出ると、
鼻が詰まったり、くしゃみが出たり、
のどが痛くなったりします。
それから鼻は目とつながっているので、
人によっては鼻水がたまりすぎると
目やにが出たりします。

要は、そういったもののごった煮、集合体を
「風邪」と呼んでいるということですね。
ほぼ日
つまり、炎症の影響として、
いろいろな症状がある。
岩田
ですから症状の強い・弱いはそれぞれあって、
「のどの痛みが強めに出る人」とか
「鼻水が強めに出る人」とか、
個人差はあると思います。
ほぼ日
でもそんなに症状のバリエーションがあると、
診断のときに、風邪なのかどうかが
わからなくなりませんか?
岩田
そこは定義しようとすると難しいけれど、
診ればだいたいわかるものなんです。
ほぼ日
そういうものですか。
岩田
ええ、そういうものって
実は世の中にけっこうあるんですね。
ほぼ日
ただ、いま風邪は「上気道」のものと
いうことでしたが。
岩田
はい、基本的に風邪は
「上気道」に限局されているものです。
ほぼ日
風邪のなかには「お腹の風邪」と
呼ばれるものもありますよね。
あれは何なのでしょうか?
岩田
あります、あります。
僕は島根県の出身ですが、島根では
「腸感冒」──つまり「腸の風邪」と
呼ぶことがあります。

だけど厳密に言うと、
腸は風邪をひかないので、
単なる腸炎だったりするんです。
なので医学的には間違いですね。
ほぼ日
腸は風邪をひかない。
岩田
ひきません。
ほぼ日
鼻風邪や喉風邪を引いていて、
その風邪の菌がお腹のほうに落ちるとかは?
岩田
落ちないです。

ちなみにこまかい話ですけど、
風邪は「菌」とは言わないんですね。
菌とは細菌とかのことですが、
風邪はウイルスがほとんどで、
ウイルスは菌とは違うので。
ほぼ日
自分の未熟な知識がどんどん
アップデートされるのが面白いです(笑)。

‥‥で、ということは、
みんながなんとなく
「お腹の風邪」と言っているものは、
別の病気ということですか?
岩田
たとえば「お腹の風邪」と呼ばれるもので
よくあるのが、
風邪をひいて病院に行って、
抗生物質をもらってきてしまったと。

風邪に抗生物質は効かないので、
これは間違いですが、処方されちゃったと。

それを飲んだとして、抗生物質って、
全身あまねく行きますので、
お腹の常在菌も殺してしまうんですね。
そこでお腹の調子が乱れて、
下痢をしたり、とかはあります。
ほぼ日
風邪だと思ったら、
もらった抗生物質のせいだった。
岩田
それから、痛み止めや解熱剤も
胃を荒らす効果があるので、
そうした治療でお腹の調子が悪くなる人もいます。
ほぼ日
抗生物質に限らず、
風邪を治そうと飲んだ薬で
「お腹の風邪」みたいなことに
なる場合がある。
岩田
でも、基本的には風邪というのは
上気道の病気です。
ですから「お腹の風邪」というのは俗称で、
本当は風邪じゃないということですね。

「お腹に来ているな‥‥」みたいなのは、
何か別の病気。

薬の副作用のこともあるし、風邪と同時に
腸炎が起きていることもありますが、
いずれにしても風邪ではないです。
ほぼ日
はぁー、まったく知りませんでした。
すでに面白いです。

(続きます)

2018-09-18-TUE

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。