ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

4 薬はどう選ぶべきか。

ほぼ日
風邪のとき、抗生物質は飲まないほうが
いいということですが、
咳を抑えるものとか、熱を下げるものとか、
そういった薬は飲んでも大丈夫でしょうか?
岩田
大丈夫ですよ。
ただし、注意は必要です。

たとえばお医者さんでよく出される
「PL顆粒」という薬がありますが、
実はあの中にも
いろいろなものが入っています。

まず、サリチル酸が入っているので、
サリチル酸アレルギーがある人は危ないですね。
それから、抗ヒスタミン薬が入っているので、
男性でときどき尿道がせまくなって、
尿が出なくなる人がいます。
また、眠くなったり、
ご高齢の方だとふらつきで倒れたり、
車を運転して事故を起こしたりということが
ときどきあります。

ですので、風邪薬といっても
実はいろんな成分が入っていて、
万人にいいとは限らないんですね。
ほぼ日
なるほど、ちょっと怖いですね。
岩田
むやみに怖がる必要はないですけどね。
どんな薬でもかならず一定の割合で
副作用のリスクはあります。
僕らよく「クスリはリスク」と言うんですよ。
リスクがゼロの薬は絶対ないですから。
ですから注意は必要です。
ほぼ日
具体的には、どう注意をすれば
いいのでしょうか?
岩田
出された薬は、ちゃんと自分で調べるべきです。
ほぼ日
お医者さんから出された薬でもですか?
岩田
そのほうがいいです。
日本だと、出された薬の名前すら
わからないままの人が多くて、
本当に危なっかしいんですよ。
みんなもっと気をつけたほうがいい。

まず、お薬手帳はちゃんと持つべきだし、
出された薬は、暗記する必要はないですけど、
少なくともなんという名前の
どんな薬を飲んでいるかは把握しておくべきです。

「何かわからないけれど飲んでる」は
非常によくないですね。

別に薬が全部ダメだと言っているわけではなく、
そのリスクを上回る利益がある場合には、
ぜひ飲んでほしいんです。
でも、お医者さんから出されたからといって、
そのまま無条件に飲むという習慣は
つけないほうがいい。

ただ「薬は怖いから」って、
全否定するのもよくないんですけど。
ほぼ日
バランスが大事?
岩田
そういうことです。

どちらかに傾いちゃう方が
わりといるんですが、
「怖いからぜったい飲まない」と
思い込むのもよくない。
「お医者さんが出したから大丈夫」と
全肯定するのも危ない。

我々がよく言う言葉に
「中腰が大事」というのもあって、
両極端に走らないことが大事です。
ほぼ日
出された薬について調べるときは、
どんな方法がいいのでしょうか?
岩田
いま、薬の添付文書などは
全部ネットで公開されてますから、
それを見るといいですよ。

あと市販薬とかって、何が入っているかが
よくわからないじゃないですか。
特に総合感冒薬(風邪の諸症状に対する合剤)
とか。

それについてはいま、京都の先生たちが、
市販薬の情報をまとめた
『クスリ早見帖』という本を
出しているので、見るといいですよ。
中に何が入ってるのか、全部書いてあるんです。
ほぼ日
たしかに、わかりやすそうですね。
岩田
よく聞く市販薬に何が入っているかも、
ちょっと調べるだけでわかります。
有名な薬にも、けっこういろいろ
入ってるんですよ。

たとえば、よく使われているのが
メチルエフェドリンとかですね。
これ、ドーピングですぐ引っ掛かります。
交感神経作動薬で、
ちょっと麻薬的な効果もあるので、
若干危ないと言えば、危ないんですけど。
心臓悪い人とか。
ほぼ日
はあー。
岩田
ですので「薬局の薬だから安全」という
保障もないです。
もちろん効果もあるんですけどね。
とにかく、ちゃんと調べたほうがいいですね。

風邪薬ってテレビCMとかありますけど、
女優さんのイメージとかで
買ってしまってはダメですね。
ほぼ日
そういえばアンケートでは、
「CMを見ても、どの風邪薬を買えばいいのか
よくわからない」
という声がすごく多かったです。
岩田
CMの宣伝文句って、正確さに欠けるものが
すごく多いんですよ。
変に誘導させるものとか。
ほぼ日
そうなんですか。
岩田
たとえば
「生理痛によく効く痛み止め」とかって
よくあるじゃないですか。
あれ、別に普通の痛み止めであって、
生理痛にとくべつ効く薬じゃないです。

僕、ほとんどテレビを見ないんですが、
たまにパッとつけたときに
「生理痛によく効く」とか
「頭痛によく効く」というCMがあると、
「また誤解させるようなことを‥‥」
と思うんですよね。
痛み止めは、普通に痛み止めです。
ほぼ日
じゃあ、薬局で薬を買うときには、
風邪薬はどう買えばいいんでしょうか。
岩田
ええと‥‥難しいですね。
ほぼ日
病院に行っちゃった方がいいですか?
岩田
僕の場合は、基本的に風邪薬って
飲まないんですよね。
風邪になったら、我慢するだけ。
鼻水が出たら鼻をかむし、
痛かったら我慢する、つらかったら休む。
自分としてはそれでいいと思ってますね。

ただ、もし
「症状を薬でちゃんと直したい」
ということであれば、
治したい症状をしっかりと治すのが
いいでしょうね。
ほぼ日
治したい症状をしっかり治す。
岩田
僕は一般的な総合感冒薬──つまり
漠然と「風邪全体に効きます」みたいな薬って、
あんまり好きじゃないんです。

そうではなく、たとえば
痛みを和らげたいのであれば、
アセトアミノフェンという
痛み止めを飲めばいい。

鼻水を抑えたいなら、
僕のおすすめは点鼻薬です。
鼻に直接吹きつける薬があるんですよ。
これ、全身に回らないので、
副作用が起きにくいんです。

咳がしんどかったら、咳止めを飲めばいい。
咳止めも「リン酸コデイン」とかより、
副作用が少ない「メジコン」とかが
いいと思いますね。

「リン酸コデイン」というのもあるんですけど、
これは麻薬系の薬で、比較的副作用が多くて、
便秘しやすくなったりします。

そういう「メジコンの方が副作用が少ない。
リン酸コデインは副作用が多い」とか、
その程度のことを知っておくだけでも、
違うと思います。

だから風邪薬を使いたい場合には、
各論的に「症状に対して一つの薬」と
考えるほうがいいですね。
ほぼ日
ええ、ええ。
岩田
あと、漢方薬もありますね。
漢方薬はすこし考え方が違って、
普通は生薬のブレンドですが、
風邪のタイプによって、
ぴったり合った薬がありますので。

とはいえ漢方薬は、
なかなか一般の方が選ぶのが難しいので、
お医者さんと相談しながら決めるのが
いちばんだと思います。
ほぼ日
「風邪のひきはじめに葛根湯」とも
よく言いますが、
これもお医者さんに行って
飲みはじめたほうがいいのでしょうか?
岩田
うーん、まぁ、葛根湯は薬局で
売っているくらいの薬なので、
飲みたかったら飲んでもいいですよ。
もう少し厳密に言うなら、
体の節々が痛いようなタイプの
寒気がするような風邪だったら、
だいたい葛根湯で行けると思います。

葛根湯って当たりがいいんですよ。
打率がよくて、そんなに外れないので。
昔はよく「ヤブ医に葛根湯」って、
ヤブ医者はなんにでも葛根湯を出すと
揶揄されてたんですけど。

ですから風邪のときに葛根湯を出して、
そんなに悪いことはないと思います。
ただ、そのときの症状にぴったりくる薬か
どうかは、わからないですね。
ほぼ日
もうひとつ風邪薬の質問で
「風邪薬を飲むと、治りがかえって遅くなると
聞いたことがあるんですが、本当でしょうか?」。
岩田
早くも遅くもならないです。
症状を止めるだけです。
ほぼ日
あ、なるほど。
岩田
まぁ、あえて言うなら、
風邪薬を飲んで症状を抑え込んで、
無理して仕事して、徹夜してたりとかすると、
治りが遅くなるかもしれませんけど。
生活の無理がたたれば、
当然治りにくくなるんですね。
でも、薬のせいではないと思います。
ほぼ日
解熱剤の質問ですが
「熱が出たときは、解熱剤で熱を
下げたほうがいいのでしょうか?
薬を飲まずに熱を出し切ったほうが
いいのでしょうか?」。
岩田
どっちでもいいです。
ほぼ日
あ、どっちでも(笑)。
岩田
熱がしんどかったら解熱したらいいし、
しんどくなければ別に無理に下げなくてもいいです。
熱が上がったからといって
治りにくくなることもないし、
下げたからといって
治りにくくなることもないので。
ほぼ日
じゃあ、熱が出たほうが早く治るとかいうのも‥‥。
岩田
漢方の考え方だと
「熱を上げることによって治す」
というのはありますね。

ただそれは体温の話というより、
「主観的な寒気をあっためてあげる」
という対証療法なところがあるんです。

でも、漢方薬にしても、
温めることが風邪の治りを早くするという
はっきりした証拠はないんです。
科学的な研究はきちっとされていないですから。

僕も風邪の患者さんに漢方をよく出しますけど、
どっちかというと主観的な寒気に対してですね。

熱が出るとブルブル寒気がするじゃないですか。
あれをあっためてあげるんですね。
桂皮、つまりシナモンとか、
麻黄(まおう)とか、
ああいうあっためる系の薬で、
ポカポカさせてあげて、治していくという理論です。

なので、漢方薬と漢方薬じゃない薬では、
基本的に考え方が違います。
ほぼ日
「体がウイルスとたたかっているのだから、
薬を飲まない方がいいと聞くのですが」
という質問もありました。
岩田
証明はされていないですが、
そういう理屈はありますね。
ほぼ日
なるほど、現状はそういう感じなんですね。

(続きます)

2018-09-21-FRI

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。