ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

12 小さな疑問をたくさん聞く(2)

ほぼ日
みなさんからの疑問がもうすこしあるので
最後に続けますね。
「風邪をひくと頭が痛くなるのはなぜですか?」
岩田
いろいろな理由がありますが、多いのは
「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」です。

鼻には横と上と奥に小窓がついていて
「副鼻腔」と言うんですが、
こういったところが詰まることがあるんですね。
で、詰まると圧力が高まるので痛いんですよ。
神経がありますから。

「中耳炎(ちゅうじえん)」も一緒です。
「中耳」というのは
耳の鼓膜の奥にある部屋なんですが、
ここが詰まると中耳炎。

要するに、閉じているところに
炎症が起きて腫れると圧がかかって、
そこに神経があると痛いわけですね。
これがいちばん多い理由です。

あとは、体内の免疫が
ウイルスと戦うときに作られる
「サイトカイン」という化学物質があるんですが、
その作用で痛くなる人もいると思いますね。

ただ、ほかにもいろいろな理由があると思います。
ほぼ日
「ほこりっぽいところにいると
風邪をひきやすいと聞いたのですが?」
岩田
関係ないと思います。
たぶんそれは、ほこりの咳と混同しています。
ほこりで咳が起こす人は多いんです。

あとはダニアレルギーですかね。
それから夏に多いんですが
「トリコスポロン」といって
カビを吸い込んで咳をする人もいます。
あと動物の毛アレルギーとか‥‥
とはいえアレルギーと風邪は
全然違うので、別物ですね。
ほぼ日
なるほど。
岩田
ちなみに東日本大震災のときに、
がれきでほこりが舞って、
咳をしている人が多かったんですけど、
そのときに勉強不足のお医者さんたちが
「咳してますね」って
抗生物質を出しまくっていたんです。
「これはあかんな」と思いました。

咳だから感染症とは限らないし、
抗生物質は感染症にしか効かないですから。
みなさん、もっと正しい知識を
持たなければダメです。
ほぼ日
「花粉症と風邪との見分け方って、
どうすればいいんでしょうか?
どちらも鼻水が出たり、
頭がぼーっとしたりすると思うのですが」
岩田
完全に区別するのは無理ですけど、
毎年同じ季節に同じ症状が出る人は、
ほぼアレルギーだと思った方がいいですね。
あと、風邪は冬の寒い時期に多いですけど、
アレルギー性鼻炎は
あたたかくなりかけた頃にかかりやすいとか。

そのほか、アレルギー性鼻炎は、治療しないと
花粉が出ている間はずっと続きますし、
風邪は一過性のものなので、
スーッと自然に治っていきますね。

治療は鼻水を止めるだけなので、
実は同じだったりもするんですけど。
ほぼ日
「風邪をひきやすい体質とか、
ひきにくい体質ってありますか」
岩田
あります、あります。
ただこれは多様性があって、
いろんなタイプの人がいるので
「この人はひきやすく、この人はひきにくい」
とか単純に分けるのは難しいと思いますね。
ほぼ日
「風邪をひいたあと、運動を再開したいときは、
どの程度の治りぐらいで始めたらいいでしょうか?」
岩田
運動の程度にもよりますけども、
できそうだなと思ったら、したらいいんじゃないですか。
最初は徐々に再開するのがいいと思います。
ほぼ日
‥‥みなさんの質問で特に多かったのは、
こんなところでしょうか。

最後に、いままでの話に出なかった
「普通の人がよく誤解しているけれども、
これは知っておいた方がいい」
というお話が何かあれば、教えてください。
岩田
なんでしょう。
‥‥ええと、これ、
皆さんに言うのもあれですけど、
ネットの情報はどうしても
間違っていることが多いので、
安易に信じないほうがいいです。
ほぼ日
はい(笑)、重要ですね。
岩田
また、日本のテレビや新聞、週刊誌といった
マスメディアの情報も、健康情報に関して言えば、
間違っていることがかなり多いので、
気をつけた方がいいです。
どう気をつければいいのかは難しいんですけど。
ほぼ日
よくテレビとかで大学病院の先生とかが
「こんな新しいことがわかりました」
とか言ってるのは、
100パーセント信じられるものでは
ないということでしょうか?
岩田
よくあるのは「言いすぎ」ですね。
たとえばネズミの実験で見つかったことを
全部人に応用できるように言うとかですね。
「そこまで言っていいのか?」
みたいなことは多いんです。

とくにテレビはそうで、
テレビはそういう人が好きなんですよ。
誇張して言う人のほうがインパクトがありますから。
「バランスが大事」みたいな話は好まれなくて
「これだけを食べればいい」といった
極論のほうが好まれる。
ほぼ日
まぁ、ネットもそうかもしれないです。
岩田
あと、今みたいな、
グーグルのアルゴリズムみたいなのも、
人々がとびつくのは極論ですから、
「こちらの記事のほうが人気ですよ」
ということで、極論側に誘導しがちですし。
実際にはインパクトのない中道の考え方のほうが
正しいことって、よくありますよ。
「極論はない」というのが実は正しかったり。
ほぼ日
それは医学に限らないですね。
岩田
テレビでも雑誌でもネットでも、
妥当性はあまり関係なく、
正しかろうが間違っていようが、
どうしてもドーンと目立つ意見のほうが
ついつい採用される、
みたいなことになりがちなんですよね。

だけど実際は、メディアの科学的妥当性って
すごく大事ですよね。

そしていまは残念ながら、日本の情報よりも
英語の情報の方がはるかに妥当性が高いんです。
BBCとか『The Economist』とか、
イギリス系は信用性が高いと思います。
アメリカはすこし下がる。
日本のメディアは、ああいったところと比べると
全然ダメです。
ほぼ日
健康情報とかは特に、素人目にもよく
「ええ、ほんと?」と思うことがあります。
岩田
ですから英語は
できるようになっておいたほうがいいですよ。
英語のメディアの情報と日本語のメディアの
情報の相対比較ができますから。

正しい情報を得たいんだったら、
そういう三角測量、トライアンギュレーションが
ちゃんとできるようになったほうがいいです。

別に英語だけじゃなくてもいいですよ。
フランス語も読めて、スペイン語も読めてという方が
ベターかもしれないけど、
少なくとも英語ぐらいは読めないと。
日本がいかにガラパゴスかが体感できないと思います。
ほぼ日
なるほど‥‥。

最後になりますが、岩田先生はこれまで
ずっと感染症のことを
専門にされてきているんですよね?
岩田
あ、いや、僕は別に感染症だけを
やってきているわけじゃないです。
普通の医者もやっていますし、
医者以外の仕事もやっています。
自分が何をしてきたかというと難しいんですが、
いろんなことをやっていて、感染症はその一部です。

実際、感染症だけやっていると、
感染症ってあまりうまく診れなくなるんですよ。

たとえばさきほどの
「風邪とアレルギー性鼻炎は、どうやって区別するか」
とか、アレルギー性鼻炎の知識がないと
わからないわけです。
ほぼ日
ああ、なるほど。
岩田
僕がいつも言っていることですが、
プロとマニアは違うんですね。
感染症のプロというのは、感染症以外のことも
知っておかなきゃいけないんです。

たとえば「感染症に似ているけれど違う病気」も
知っておかなきゃいけない。
また、ほかの病気にかかっている人がかかった
感染症を診ることもあります。
だからほかの病気についても知っておかないと。
臓器移植の人の感染症なら
臓器移植についても知っておくべきだし、
それから心臓が悪くなった人の感染症とか、
ほかの薬との相互作用とか、
いろんなことを知っておかなきゃいけない。

ジャズのマニアっていうのは、
朝から晩までジャズを聴いている人のことで、
ジャズのプロの評論家は
「ジャズとクラシックの違い」とか
「ジャズと民謡の違い」とか
「ジャズの歴史」とか「ジャズの政治的な影響力」とか、
そういうところまで言えてはじめて、
プロフェッショナルなんですね。

だから「政治のことは知りません」とか
「クラシックのことはわかりません」は
ただのジャズマニアであって、
ジャズのプロとはいえない。

同じように感染症のプロというのは、
感染症のことだけやっているわけじゃなくて、
その周辺も全部カバーして、
相対的に世界を見ることができて、
はじめて感染症のプロなんだと思っています。
ほぼ日
日本に感染症のプロの人は、
けっこういるのでしょうか?
岩田
以前よりは増えてきました。
僕はしばらく海外にいて、
日本に帰ってきたのが2004年なんですが、
当時は片手で数えるしかいないくらいの感覚でした。
今は両手では足りないぐらいですね。
けっこういます。
ほぼ日
なるほど‥‥ありがとうございました。
今日はかなりいろいろなことがすっきりしました。
風邪をひいたときに、変に悩まなくてよさそうです。
岩田
そうですか、お役に立てればいいですけど。
こちらこそ、ありがとうございました。

(終わります)

※編集部より
「ほぼ日の風邪アンケート」でお聞きした
さまざまな回答結果の集計データにつきましては、
「あなたは風邪を引きやすい? 引きにくい?」
という個人の感覚値を元にしたデータだったため、
「信ぴょう性のうすいデータを世の中に
配布してしまう可能性がある」という理由から、
今回の掲載を控えさせていただくことにしました。
その代わり、各項目でみなさんに
教えていただいたコメントを、岩田先生への
取材時に質問に織り込んでお聞きしています。
なにとぞご理解いただけますと幸いです。

2018-09-29-SAT

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。