ほんのり「違和感」を抱いたのは、昨年の秋。
西條剛央さんのボランティア組織
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が、
国際的な芸術・先端技術・文化の祭典
アルス・エレクトロニカで、
最優秀の賞に選ばれたというレポートを
書いていたときのことです。
参考資料を眺めていると、
「www(ワールド・ワイド・ウェブ)」や
「ウィキペディア」、
個人では、坂本龍一さんや
ピーター・ガブリエルのような音楽家など、
錚々たる過去の受賞者リストの中に、
「明和電機」の名前を、見つけたのです。
そのとき頭に浮かんだのは、
テレビ番組『たけしの誰でもピカソ』で、
奇妙な機械を背負って歌を歌う、
青い作業着を着た工員さん(?)の姿。
そのため、まったく不勉強なことですが、
へえ、あの明和電機って、
ユニークな機械を作ってるだけじゃなくて、
海外では、アーティストとして、
そんなにも高く評価されているんだと、
漠然とした「違和感」を感じたのです。
(ものを知らないとは、
本当に呑気で、おそろしいことです)
そんな記憶があったので、小田雄太さんから
「経営とデザイン」について
「明和電機」に取材したいと聞かされたとき、
一瞬、意外な感じがしつつ、でも、
「あ、やっぱり、明和電機には何かあるんだ」
と思ったのでした。
ちなみに小田さんは、
美術大学を卒業して新卒で入った会社が、
明和電機だったそうです。
「コム・デ・ギャルソン」の洋服に
デザインで協力しているような人
(つまり小田さん)が、
最初の就職先として選んだ会社‥‥なのか。
明和電機が「存続」している理由。
明和電機のアトリエを訪問すると
「代表取締役社長」の土佐信道さんが
「工員さん」と呼ぶ、
何人ものスタッフがはたらいていました。
明和電機は、
「中小電機メーカーを模した芸術ユニット」
と説明されることがありますが、
実際に、土佐さんを「社長」とする、
本物の「中小企業の町工場」に見えました。
- ──
- 本当に基本的なことを聞いてすみません。
明和電機さんでは、
どうやって、お金を稼いでいるんですか?
- 土佐
- マスプロダクト、マスプロモーションと
呼んでいるんですが、そのふたつです。
マスプロダクトとは大量生産する商品のこと。
マスプロモーションというのは、
ライブや展覧会をやったり、
テレビに出たりして収入を得ることです。
その二本柱で、半々くらいですね。
- ──
- つまり、おもちゃの「オタマトーン」などが
マスプロダクトで、
『誰でもピカソ』で審査員をやっていたのが
マスプロモーションである、と。
- 土佐
- はい、そうです。でも、
すべての出発点には「アート」があります。
まずは、自分にさえよくわからない、
得体の知れないもの、芸術という情念を
「ゲェーッ!」と吐き散らし、
それを、少し離れたところから眺めて、
分類・整理して、
マスプロダクトとして設計したり、
マスプロモーションとして展開したりします。
「芸術作品」に当たるものを、
明和電機では「製品」と呼んでいますが、
それは、お金には変えません。
- ──
- いま「分類・整理」とおっしゃいましたが、
明和電機のマスプロダクトって、
内容によって
4つのカテゴリーに分かれているし、
棚には、いろんな資料が
きれいにファイリングされているし、
明和電機さんって、
いろんな整理整頓がキッチリしてるなあ、
という変な感想を持ちました。
- 土佐
- 自分たちのやっていることを
系統立てたり、カテゴライズしたり、
ロジカルに分類したり整理したりするのは、
とても重要なことです。
でも、
明和電機をはじめて22年ほど経ちますが、
なぜ「続いているか」というと、
やはり「不可解だから」なんだと思います。
「不可解」ほど、みんなが飽きず、
ちょっと期待しちゃう、
ついお金を払っちゃうものってないんです。
- ──
- 「不可解」とはつまり、
明和電機さんのいろんな活動の中心にある、
「アート」と同じものですね。
- 小田
- きちんと分類して整理して設計するけど、
どこかに「不可解」を残しているところが、
おもしろいですよね。
- 土佐
- 逆かな。たぶん「不可解」を見たいから、
「論理」を使ってるんだと思う。
- ──
- 明和電機さんと似たようなところって、
あると思いますか?
つまり、会社といいますか‥‥
明和電機さんを「組織」として見た場合に。
- 土佐
- うーん‥‥「高野山」とか?
- 小田
- ああー、なるほど(笑)。
- 土佐
- つまり、その中心には「宗教」という、
たいへんな「不可解」を置き、
そのまわりで
「お守り」というマスプロダクトを作り、
「お祭り」という
マスプロモーションで人を集めています。
同じようなことで言えば、
「十字架」ほど、世界各国で売れている
マスプロダクトってないですよね。
- ──
- 聖書は世界的ベストセラーだし。
- 土佐
- そう。
「芸術」と「経営」のバランス。
モノ作りとイベント開催で収入を得て、
工員さんのお給料や、
次の「製品」や商品の開発資金としている。
こう書くとふつうの会社ですが、
その根源には「アート=不可解」がある。
明和電機という「中小企業」は、
そういう成り立ちとなんだとわかりました。
でも、そもそも小田さんは、
「経営にとってデザインとは何か」
というテーマの取材先として、
どうして「明和電機」を選んだのでしょう。
- ──
- 小田さんは、
なぜ、明和電機さんに取材をしようと
思ったんですか?
- 小田
- 土佐さんは、まずアーティストとして、
「ゲェーッ!」と
「不可解」なものを吐き散らしながら、
経営者、組織の責任者として、
お金のことや、売れる売れないについて、
シビアに考えています。
そのおかげで、オタマトーンなんかも、
かなり売れているわけですが、
そのあたりの、
芸術と経営の間のバランスの取りかたを、
聞いてみたいなと思ったんです。
- 土佐
- それは、シンプルです。
一言で言えば、おもしろいかどうか。
見た目のことで言えば、
「愛嬌があるかどうか」と言うかな。
- ──
- 芸術にしても、商品にしても、
おもしろいかどうかが、ひとつの判断基準。
- 土佐
- 芸術は不可解の吐き散らしですが、
商品作りで、何がおもしろいかというと、
やはり「お金で返ってくる」という点。
自分が作ったものをポンと出したら、
なんぼで返ってくるという、
そのシンプルな関係が、好きなんですよ。
- ──
- だから「売れる売れない」については、
シビアにやってるんですね。
- 土佐
- 感動したり、おもしろいと思ったときに、
人は、褒め称える以外では、
お金を払うことで「評価」しますよね。
- ──
- 「1票!」ってことですよね。
- 小田
- ぼくが明和電機に入社して半年後くらいに、
ギャラリーで個展を開いたんです。
そのとき、土佐さんに
「小田くん、キミは自分の作品を
いくらくらいで売るつもりなんだい?」
と聞かれました。
ぼくは、もう、来てもらえるだけでいいと
思っていたので、
「いえ、とくに売るとか考えてないです」
と何の気なしに答えたら、
「じゃあ、それは、ボランティアだね!」
と言われたのを、よく覚えています。
オタマトーンは、こうしてできた。
では実際に、明和電機では、どうやって商品を生み出しているのか?
そのプロセスを、
最大のヒット商品「オタマトーン」を例に
教えていただきました。
- 土佐
- まず「笑うボール」というアイディアから、
はじまっています。
くすぐると「ギャハハハ」って笑うんです。
「Mロボ」と呼んでいて、
「Mロボ」をくすぐる「Sロボ」も考えて、
「売上倍増!」とほくそ笑んだんですが、
一緒に開発しているおもちゃ会社の人に
「おもしろいけどマニアックすぎます」と。
- ──
- ダメ出しが(笑)。
- 土佐
- ええ、ボツになってしまったので、
「じゃあ『歌うボール』にしよう」となり、
絵を描いたんですが、
音程を変えるスライドスイッチをつけたら、
「‥‥オタマジャクシじゃないか!」と。
- ──
- それで「オタマトーン」と。
- 土佐
- いえ、この場合に限りませんが
ネーミングには、紆余曲折があるんです。
何せ、ひたすら考えるんです。
当初はただ「オタマ」と呼んでいました。
海外でも売りたかったので
「ヤマハ! フジヤマ! オタマ!」
みたいな感じになったらいいと思ったんです。
でも「オタマ」では、
すでに「商標」を取られていました。
なので、その後は、
あっちへいったりこっちへいったりしまして、
「オバーマ大統領みたいに
オターマと伸ばせばいいか」とか‥‥。
- 小田
- あー(笑)。
- 土佐
- 「オタマジャクソン」も、真剣に悩みました。
途中「オンプー」に傾いたのですが、
よくよく考えたら、
「プー」って英語で「ウンチ」なので‥‥。
- ──
- ‥‥紆余曲折してますね。
- 小田
- ネーミングする際には、
プロダクトの背景みたいなものも想像して
考えるわけですよね?
つまり、名前ってただの呼び名じゃなく、
商品コンセプトにもなっていくわけだから。
- 土佐
- そうですね。
「世界観を強化していく作業」ですよね、
名前をつけるということは。
そして「商品のロゴ」を考えるのは、
さらにその先もう一歩‥‥
ようするに、
オタマトーンをおもちゃ屋で見かけても、
何だかわからないと思うんですよ。
- ──
- なるほど、たしかに。
- 土佐
- でも「ロゴ」が楽器っぽかったら?
「あ、楽器なんだな」ってわかりますよね。
だから、オタマトーンのときは、
ギターやアンプについているような感じの
ロゴにしたんです。
- ──
- 「笑うボール」から「オタマトーン」まで、
どれくらいの期間があるんですか?
- 土佐
- 2ヶ月くらいですかね。
「くすぐると笑うボール」という
「不可解」なコンセプトを、
最終的に「オタマトーン」という商品にまで
落とし込んでいくプロセスで、
「愛嬌」とか「常識」とか
「受け入れてもらいやすさ」などの要素を
論理的に考えて、
「吐き散らしたもの」を「整えて」いく。
このあたりで、
土佐さんの言う「不可解」が「アート」なら、
その「得体のしれないもの」を
「見た目や、ロゴや、ネーミングなどの点で
商品として売れるように設計する」のが
「論理=デザイン」なのかな、と感じました。
ようするに、明和電機は
「不可解(アート)を設計(デザイン)」している?
話題が「経営」のほうにまで広がっていく、
後編へと続きます。
2015-11-26-THU