●筋肉を100%つかえるか |
糸井 |
ひとの能力には
「本当はもっとあるのに出ない」
というのがありますよね。
野球でバットを振っても、振りが遅くなるのは
遅くするための筋肉を使うからじゃないですか?
例えば明日がないっていう野球の試合なんですが。
数年前の巨人対中日、10・8の優勝決定戦、
勝てば日本シリーズで負ければ休みという
それを見にいったら、明日試合がないとなると
こいつら本当におそろしいやつだなと思いました。
この日には、ストッパーがかかっていなかった。
ストッパーっていうのは他の仕事でも何でも
すべての鍵なんじゃないか?と思うんですよ。
かたくなってるのもストッパーになるし、
脱臼するくらいに手を振ることができれば、
もっと速い球を投げられるんじゃないか。
その邪魔をする筋肉の邪魔をゆるめるコツが
あるんじゃないかなあと思うんですよ。
ぼくの好きな例があるんですけど、ふつう
かかととお尻をつけようと思ってもつかない。
でも足を振ったらつくんですよね。 |
ケビン |
そうじゃなくて、
足をかかとにつけるといけないよ、という
脳からの命令があるからつかないんですよ。
生理学でいうと、センサーがあるんです。 |
糸井 |
お、それ、もっと言ってっ(笑)。 |
ケビン |
スピードにしても角度にしても、センサーがある。
足も本当はどこにでもつきます。やってみますか?
神経を切ればいいんです。横になってください。
はいいいですか、
ぼくの方向に向けて強く押してください。
ぼくをはねかえすようにしてください。
はい、もっともっと、3、2、1、はい、オフ。
もう一回力入れてください、オーケー。
もう1回ですよ、まだですよ、はいサンキュー。
わかります?つきます?これがPNFなんです。
(*PNF:
Proprioceptive Neuromuscular
Facilitation というリハビリ技術。
柔軟性の養成効果が高いために
スポーツ界でも取り上げられている) |
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糸井 |
ああ、これがPNF。ああ痛てて。
あ、今ちょっと足がさっきと違う。
これ、サーモメーターの設定を変えるんですね。
ぼくは足を振るとつくっていうのに
ヒントがあると思ってたんですけど。 |
ケビン |
それは、神経をごまかしているから。
逆側に振ることで神経を止める時間をなくしてる。 |
糸井 |
そこでセンサーを作動させないから動くんですね。 |
ケビン |
そうです。ゆっくり動かすと
「もうやめないとな」とセンサーがはたらくわけ。 |
糸井 |
精神的なことでもそれがあると思うんですよ。
「これは無理だな」というときは
センサーがはたらいているわけですよね。
そのときには筋肉を制御しているけど、
例えば受験の前で、どうしても
受からなきゃ殺されるとしたら、下手したら
英単語の100や200は覚えられるかもしれない。
覚えなくても生活に向くことが山ほどあって、
競争レベルがどんどん高まったときに
どれだけセンサーをはずせるかが
キーになると思う。精神的にもね。 |
ケビン |
うれしいこと言うね。 |
糸井 |
塾でドリルやって
「はいできたでしょ」っていうのも
精神的PNFだと思うんです。 |
ケビン |
これだけやったらできるみたいな負担をかける。
清原君のやってることはそのセンサーを、
他のことを考えることでオフにして、
その段階からセンサーに逆らうようにさせる。
オフにして動かせるようにしてやればいいんです。
だから足の角度を調節すると、
足を速くするのはかんたんなんです。
小学生だったら1秒変わるんじゃないですか? |
糸井 |
ストッパーじゃなくてセンサーなのか。
その違いは大きいですね。 |
●パーソナルトレーナーとは何か? |
ケビン |
はい。ただ、ぼくはそれ専門じゃないんですよ。
それはアスレチックトレーナーの仕事なんです。
ぼくはパーソナルトレーナーです。
スポーツ選手が怪我したときに
スポーツドクターと相談して復帰させるのが
アスレチックトレーナー。
ただアスレチックトレーナーは日本にはいないです。
日本にいるのは接骨院とかフィジカルセラピストで、
一般のひとを対象にするひとが兼任してるだけです。
スポーツ選手の場合はこれは違うんです、
動かなきゃいけないし、次の日に試合があるから、
だからトレーニングのしかたも
テーピングの位置も違うんですよね。 |
糸井 |
リハビリっていってもスポーツ選手の場合には
「普通の生活でここまでやれるといい」とは
全然違いますからね。壊れてもいいっていう
レベルの違うところでやってますから、
誰もがやるわけにはいかないですよね。 |
ケビン |
はい、全然違います。食事も違う。だけど
一般のひとと同じにやってるのが日本の現状です。 |
糸井 |
昨日ゲットスポーツで
(テレビ朝日系のスポーツ番組)
セルジオ越後が怒ってるのをやってたんですよ。
オリンピックに出られればそれでいい、
という風潮に、すごく怒ってるの。
「何のために出てるんだ、金メダルが欲しいんだろ、
サッカーで金メダルを取る力があると思わないと
オリンピックに出る意味がないでしょう!」
ってすごく怒ってる。それ、今の考えと近いですよね。
つまりセンサーが違うんですよ。よくやったなあって
オッケーしちゃったら、目的のレベルが低くなる。
高いところを目指すからこそ
急に事故が起こるかもしれないし、
ラッキーがおこるかもしれない。
そこをやるかやらないかというところは
思想的にはどうなんですか? |
ケビン |
思想はわからないですけど、
フィットネスということをぼくはやってるんです。
有酸素と無酸素を使って健康になるのが
フィットネスで。
だけどフィットネスクラブでプールを見ると、
あれ何でだかわからないんですよ。
プールはスポーツですから、
アスレチッククラブでやるならわかるけど、
何でやるのかがわからない。だから、
ぼくのいるフィットネスクラブには
プールがないんです。
プールっていうのは筋肉をつけるのにも
脂肪焼くのにも最短距離じゃないし、
スポーツクラブでやるものなんです。 |
糸井 |
それはエビフライみたいなもんですよ。
豪華そうで。 |
ケビン |
フィットネスの横には鍼灸があって、
カイロプラクティックの先生がいるんですけど、
日本の場合にはその先生が全部やるんですよ、
パーソナルトレーナーは上にいるだけで、
ぜんぶはやらない。ぼくはパワーが好きだから
ストレングスを担当しているんですけど、
あとは提携。だからぼくはスピードやらないです。
日本の場合よくないのは提携しないですから。
うちの場合は何度かそちらに紹介しているうちに
今度はうちを遠さないで直接やりたいとか、
そういうのもOKです。
流れのなかで変わっただけですから。 |
糸井 |
全部の面で「うちのほうがいい」っていうから。 |
ケビン |
ある分野で15年やれたひとに正直言って
勝てるわけがないですから。
逆にぼくが15年やったことは彼も勝てない。
そこはお互いにリスペクトして協力する。 |
TK高阪さんもきてくれたのだ。
(つづく) |