●年間契約は好きじゃない |
糸井 |
ケビンさんは、トレーニングに
メソッドを持っているんですか? |
ケビン |
先生はいます。だけどぼくがやったのは
栄養学だけなんです。真剣にやったのは
栄養学ととパワーリフティングですね。
強くなるための栄養学をボストン大学で
おそわったんですけど、そこで2年間
トレーニングの補助をしていました。
何だかはじまっちゃったなあ、っていう、
ほんとにそういうスタートでしたけど、
最初はカリフォルニアに行って、
うまいこといかなかったですよ。
ぎりぎりです。嬉しかったのは、
そのときそれでも食えてたからです。
でも人生後半になってくると焦ってくる。
食えてないかもしれない、と。
それが37〜8歳あたりです。 |
糸井 |
ところで今おいくつですか? |
ケビン |
43歳です。
カリフォルニアからシアトルに行かないかと。
そこに行って少しずついいことが出てきたんです。
スポーツクリニックしたり、養老院にいたり、
歩けるか歩けないかのひととスポーツをする、
それ週2回で一週間ひとり300ドルですよ、
それかける10人で、3000ドルですよ。 |
糸井 |
それギャランティいいですよね。 |
ケビン |
そのひとたちふだん運動やってないから、
よくなるに決まってるんですよ。
何かやれば何かになるじゃないですか。
ほんとはぼくがそんなこと言っちゃいけないけど。
そこで1200でやってくれとか、
やってることはめちゃくちゃでしたけど、
そんなのでまわりだしたんですね。 |
糸井 |
格闘のきっかけは? |
ケビン |
関西学院大学のアメフトをやったあとに
K1からファックスをいただいて。
K1の最初の注文は3週間で10キロ増やす。
ぼくの仕事はフィットネスですから、
体重を上げたりおとしたり、
あとはスピードを上げたりです。
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高阪 |
技術的なことはケビンさんノータッチで。
ケビンさんのできるところくれるんです。 |
ケビン |
アメフトやってK1からリングスから
今度は野球で、そんな馬鹿な。
しかもみんなプレミアのひとでしょ?
そんなのにぼく口出せないですよ。
ぼくにできるのは生理学を現場にもっていく、
いろいろあわせて、雑学ですよね。 |
糸井 |
選手とのネットワークは、会うことですか? |
ケビン |
そう、足。そこにいることですよ。 |
糸井 |
いやあそれわかるわ。
現場にいれば発見に1番近いですからね。 |
ケビン |
横着なやつならどうするか、とか、
自分の持っているものに足してやれる。
以前はそれ、遠回りのような気がしてたんですが。
チームトレーナーとパーソナルトレーナーは、
仕事の内容が全然違うんです。
日本の場合はみんなスタッフがいますけど、
ほんとは横についてあげるのはトレーナーです。
そのひとのニーズにあったものを与えるのが
ザ・トレーナーの仕事なんですよ。
だから、何十人相手に出しものを
していればいいというわけではないんです。
ぼくは3週間ごとに商売やってるんです。
3週間が生理学の最小単位で。1年契約にすると、
1年後に客がどうなったかだけが問題になります。
そうすると6ヶ月前にやったことなんて
どうでもいいわけですよ。評価されない。
それはいやなんで。3週間だと
数値を並べて、「続けますか?」と。
終わってみたら年間っていうのはいいんですけど、
ぼく「年間契約」は好きじゃない。 |
●積分して微分して |
糸井 |
ケビンさん英語でメソッドつくっているから
日本語で言ってることは、ホントのこと言うと
こちらにはぜんぶはわからないんだけど、
結果がボディでわかるっていう世界ですからね。
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高阪 |
実際ダッシュしてみて、それまで感じたことのないことを
わかったのは、現実的に足があがるんですよ。
あがるのがはやくなるから、速くなる。
ケビンさんの言ってること、
時々わかりにくいかもしれないですけど(笑)
そのときはぼくに日本語できいてみてください。
ぼくも、たよりないかもしれへんけど。
|
糸井 |
「ケビンさんのトレーニングは頭がつかれる」
と高阪くんがいってますけど、それは? |
ケビン |
頭使うんです。足をあげるにしてもバーにしても
10秒以上やらないで「はい次」と筋肉をもっと
使えるように、代謝量が増えるようにやります。
単純にバーベルの上げ下げならこれは1次元で
馬鹿でもできますけど、こちらでは
「次45度」「軸変えて」と、応用問題ですから。
積分して微分して、なんです。 |
糸井 |
それ、ほかの仕事でもおんなじこと言えますね。
ひとって早く単純化したいという欲望があって
「これさえやれば大丈夫」をしたがるんですよ。
腕立て1000回やれって言われると、
ほかのことやらなくても
それだけやっていれば何かやった気になる。
でもそれだけだとそのひとは奴隷になるんですよ。
あと、やることに慣れていっても単純化する。 |
ケビン |
それはきれいなひととつきあうのとおんなじです。 |
糸井 |
その慣れの問題を意識するのは無理でしょうね。
外の刺激を足して変えていかなきゃ。
それ、自分ではないですよね。 |
ケビン |
自分は自分をもとに考えるから、
慣れを意識するのは無理じゃないですか。
だって、知らないことをどう気づくんですか? |
糸井 |
選手に会いに行くのは、
そういう刺激を探しに行くんじゃないですか? |
ケビン |
そうなんです。
行っても何もないときもあるんで、
見るように見るしかないんですねこれは。 |
糸井 |
こっちに感じる準備がないときにも駄目だし。 |
ケビン |
現場に行って何が起こるかわからないんですけど、
わかいときには想像で考えるわけですよ。
「行っても何もないかもなあ」って。
そりゃ若い頃はお金をセーブしたいとか
行った以上は何か得たいとか、そういう
わけのわからないものがあるから。 |
糸井 |
若いと欲深いですからねえ。 |
ケビン |
年とるとそのやりかたが見えてくるんですよ。
今度は体力なくなってくるんですけど、ははは。 |
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選手の慣れをケビンさんが見つけるのですが、
ケビンさん本人の慣れはどう見つけますか? |
ケビン |
それを誰か横で言ってくれる
ひとがいると、いいんだけど。 |
糸井 |
キャリアができると
むつかしくなるのがそこだよね。 |
ケビン |
しょうがないので、もうぼくはそれを
発展させようというのはないです。
広げようというもので。 |
糸井 |
それこないだ青柳先生の言ってたのと一緒だな。
青柳先生って古代ローマを研究してたひとだけど
発展させるのはもういいんだって。 |
(つづく) |