教えて木原さん!今日はじめる備え。

日本テレビ「news every.」の
お天気コーナーでおなじみの木原実さんは、
防災士としても活動をされています。
震災はいつ、どこで起きるかわかりません。
いつかではなく、今日からできる備えを
木原さんに教えていただきました。
2011年3月11日から8年が経ったいま、
改めて、防災について見直してみませんか。
担当は、ほぼ日の平野です。

死なないことが最優先。

ーー
木原さんにぜひ教えていただきたいのが、
震災への備えについてです。
東日本大震災の直後は
防災への意識が高まりましたが、
あれから8年が経過して、
熊本や大阪、北海道などでも大地震が起きたり
家族構成や生活環境に変化のあった人も
多いのではないでしょうか。
改めて防災について考えられたらと思います。
木原
ぼく個人の考えにはなりますが、
お答えしましょう。
ーー
よろしくお願いします。
ホームセンターで防災グッズを見ながら
お話いただけたらわかりやすいかなと、
「スーパービバホーム豊洲店」に
撮影のご協力をいただきました。
さて木原さん、ぼくも自宅から
防災バッグを持ってきたんです。
木原
おっ、これは市販のバッグですか?
ーー
はい、2年ほど前に
ネット通販で購入したものですね。
15点ぐらいのアイテムが
入っているということでしたが、
まだ中の袋を開けてもいないぐらいで。
木原
(バッグの中身を確認しながら)
うーん‥‥、なるほど。
このバッグはよくあるセットで、
いろんな会社から同じようなものが
売り出されていますよね。
いろいろ揃えたのはいいのですが、
「完璧!」と言うにはほど遠いかな。
ーー
あらら、足りないですか。
木原
このバッグひとつで3日間を生きろと
言われても無理ですよね。
ーー
うっ、そう言われると難しそうです。
木原
たとえばホームセンターにもね、
防災バッグは売られているんですよ。
必要なものが16点セットになっていたりして、
これを買うだけで安心できそうでしょう?
ーー
そうですね。まさしくぼくがそうです。
木原
今回は地震に特化して話しますが、
地震は、どこで起きるかわかりません。
そのとき自分が何をしているかなんて、
まったくわからない。
ということは、その時々で必要なものが
全然違うということなんです。
昼間に家にいるときに地震が起きるのか、
寝ているときに揺れるのか、
買い物に出かけているとき、
学校や会社にいるとき、
それぞれ必要になるものは違うんですよ。
大きな地震が起きた瞬間に
たまたま防災バッグを背負っている、
ということはありえませんよね。
ーー
たしかに、ありえないですね。
木原
非常持ち出し袋は、家に置いておくものです。
家にしか置く場所がないし、
大事なものだと思っているから
家に置いておくわけです。
いざ地震が来たら、この持ち出し袋を背負って
逃げようと考えているわけですよね。
ーー
はい、持ち出すつもりで
家に置いていました。
木原
でもね、まず考えなきゃいけないのは、
逃げるべきなのか、家に残るべきなのか。
どちらを選ぶかによって、
準備するものも大きくわかれます。
ーー
避難所に逃げたほうがいい場合もあるし、
家にいたほうが安全な場合もあると。
木原
耐震基準を満たしていれば、
たとえ震度7でも全壊はないと言われていますが、
これは2000年以降に建てられた家の話です。
2016年に起きた熊本地震では、
耐震基準を満たしていた家屋でも
全壊しているデータがあるんですよ。
ーー
えっ、耐震基準を満たしているのに?
木原
じつは、家が建てられた年数によって、
耐震基準が異なっているんです。
1981年から2000年の間は
建築基準がグレーゾーン。
2000年以前の耐震基準は、
紙の上では記載されていたけれども、
業者独自の方法に委ねられていました。
どういうネジで、どう留めなさい、
というルールが曖昧だったんです。
ーー
ということは、業者によっては
現在の基準をクリアできていないと。
木原
1981年に「新耐震基準」が施行されましたが、
当初は、業者によってムラがあったんです。
震度7で全壊してしまう建物もあれば、
今でも全然大丈夫な家もあります。
よくよく検証をしてみると、
「これで耐震基準をクリアしたのか!?」
という家があるぐらい曖昧だったんです。
2000年になってからようやく、
「この金具で、こう留めなさい」
というルールがハッキリと決まりました。
本当に大丈夫だろうと言えるのは、
2000年以降に建てられた住宅です。
意外と短い期間でしょう?
ーー
短いです。築19年以内ですもんね。
木原
そう、だから築20年の家は、
調べておいたほうがいいかもしれません。
すこし前は築30年以上の建物が危ないと言われて、
1981年以降の建物は大丈夫と言われていたのに、
熊本地震で常識が覆されちゃったんです。
震度7ってなかなか来るものじゃないですが、
熊本では2回も来たんですよ。
1回目でなんとか耐えたとしても、
ヒビが入ったり、ズレたりすれば、
2回目が震度6強でも壊れちゃいます。
強い地震が2回来るなんて想定しないでしょ?
でも、熊本では実際に起きたんです。
災害というのは、想定外なことが起きますから。
ーー
うちは大丈夫、と安心していられないですね。
木原
では、いつ非常持ち出し袋が必要になるのか。
地震が起きても家に入ることさえできれば、
残った食料とか、自分の寝袋や布団を持って、
テントを張れば、なんとかしのげます。
でも、本当に「ヤバい!」となったら、
持ち出し袋を持って飛び出すしかないでしょう。
家にいられなくなる状況を想像してください。
さあ、火の手が迫ってきています。
あるいは家が全壊してしまって、
家に入ることができない状態になりました。
緊急時に「どれを持っていこうかなあ」って、
旅行バッグに厳選して入れる暇はありません。
いいですか、持ち出し袋は非常用なんです。
楽々生活しようということは
無理だと思ってください。
ーー
非常用だと割り切って、
最低限のものが入っていればいいんですね。
木原
では、その「最低限」とは何でしょうか。
それもまた、いろいろ想定できます。
たとえば、昼間にお母さんが家にいて、
大きな地震がきたとしましょうか。
家がギシギシ揺れて、壁にヒビが入りました。
でも、まだ崩れてはいない状況です。
だけど近所から火が出て、
火事になって煙くなってきました。
さあ、お母さんはどこへ逃げますか?
ーー
避難所として指定されている
近所の学校とかでしょうか。
木原
うーん、惜しい!
避難所が近いとは限らないので、
まずは安全な場所に行くこと。
ーー
安全な場所というのは?
木原
自宅が安全かどうかの判断がつかなければ、
まずは一時的な避難場所へ逃げてください。
公園や団地が避難場所になっています。
そのあとに市区町村の避難所へ行くわけですが、
それは学校だったり区役所だったり、
家庭ごとに場所が決められていますよね。
で、避難所に行けば資材があるはずです。
ーー
避難所にさえ行ければ
なんとか助かるだろう、と。
木原
タオルや毛布、水とかはあるでしょう。
ただ、避難所に集まる人数によっては
数が足りるかどうかわかりません。
直下型地震の場合、行政がフルに動き出して
避難所に資材が届くようになると
言われているのが「3日」なんです。
だから、3日間の水と食べ物があれば、
なんとかしのぐことができるんです。
ーー
3日間をしのげる備えが必要ですね。
では今回は直下型地震を想定して、
必要な備えを教えていただけますか。
木原
防災には、優先順位があります。
いちばん大事なのは「死なないこと」。
地震がきたら、ものの数秒で家具が倒れたり、
家が崩れてしまいますから。
命に関わること、これを最優先に考えてください。
家の耐震も当然やってほしいんですけど、
なかなか時間がかかります。
誰でもすぐにできるのは、家具の固定ですね。
幸いにも家が壊れなかったとしても、
家具の下敷きになる危険性はあります。
ーー
横揺れの大きな地震では、
「家具が飛んでくる」とも言いますよね。
木原
家具が自分に向かってすっ飛んできますよ。
家具が踊らないよう、固定をしてください。
では、どうやって固定をするか。
家具を倒れさせないようにするためには、
壁にL字金具でビス留めするのが一番です。
「アパートだし、壁に傷をつけたりするの嫌だな」
という人もいると思いますけどね、
借家も家を出るときには修繕費がかかります。
ビスの穴なんか簡単にパテで埋めて
壁紙を張り替えちゃうだけなんで、
文句もへったくれもないんですよ。
耐震のためにやったことでお金を取るなんて、
大家さんもそんなことを
言わなくなっていく時代になりますから。
L字金具で、どんどん留めていってください。
ーー
ああ、なるほど。
家の壁に留めてしまうのが一番。
木原
ひとつ気をつけてほしいのが、
構造物の石膏ボードにビスを留めても効果なし。
ちゃんと壁の裏側に木があるかを確かめましょう。
慣れている人は叩くと音でわかるんですが、
わからない場合には検知する機械も
簡単に手に入ります。
ーー
自宅に壁掛けの棚を取り付けようとして、
探したことがあります。
「下地センサー」と呼ばれるものですよね。
木原
安くて安全なので、ビス留めが一番です。
「あっ、揺れた」となっている間に、
バーンって倒れてきちゃいますから。
そして、突っ張り棒は時間稼ぎ程度ですね。
何回目かの振動でバキッと折れたりするので、
家具が飛んでくる直前に、
逃げる・よける時間を作ってくれるものだ
という程度に思っていたほうがいいでしょう。
万が一自分が転んでしまった場合、
数秒の時間稼ぎができていれば、
タンスの倒れる場所から逃げることはできるかと。
とにかく命が最優先です。
ーー
絶対に死なないこと。
木原
生死をわけるのは、ほんの10秒です。
最初の10秒生き残ってください。
大きな揺れが起きても2分ぐらいで収まって、
そこから先は動けるから自分で判断します。
避難するのか、家族の安否を確かめるのか、
家を飛び出すのか、飛び出さないのか。
大きな地震なら余震が必ず来ますから、
いま大丈夫でも、余震で崩れるかもしれません。
「今の地震は大きかった、6強あったな。
 もう1回きたら、崩れるかもしれない」
そういう判断ができるように
準備しておくことができればいいのですが、
普通の人には難しいと思います。
なので、大きな地震だったら、
次の余震で崩れるかもしれないと考えて、
ひとまずは荷物を持って外へ出ましょう。
ーー
まずは、死なないこと。
そして、安全な場所へ避難する。
木原
家族で決めておくといいですよ。
「あそこの公園に集まるよ」とか、
「小学校へ集まるよ」と。
家族で約束した場所に逃げましょう。
ーー
言い合っておくことが大事ですよね。
<つづきます>

2019-03-12-TUE
※掲載している商品の取扱・価格は店舗により異なる場合がございます。
撮影協力=スーパービバホーム豊洲店

木原実(きはら・みのる)

気象予報士・防災士。
1986年から日本テレビでお天気キャスターをつとめる。
現在は日本テレビ「news every.」で、
キャラクターのそらジローとお天気コーナーを担当。
わかりやすい気象解説と軽妙洒脱な語り口には定評があり、
ナレーターや声優、舞台俳優としての顔も持つ。
2004年には防災士としての資格を取得。
翌年には日本防災士会常任幹事に就任。
2010年度の内閣府
「災害被害を軽減する国民運動サポーター」に就任し、
ジュニア防災検定(防災検定協会)理事もつとめる。
『おかあさんと子どものための防災&非常時ごはんブック』
(草野かおる著)の監修をつとめたほか、自著も多数。

防災に特化したオフィシャルブログも開設。