糸井 |
塩野さんは、
聞き書き取材の方法を
どこかでまとめて伝えたことはありますか? |
塩野 |
毎年、夏に
全国から応募してきた百人の高校生に
「聞き書き甲子園」
という行事で、高校生に教えています。
「取材ではだいたい
相手と自分の話す分量が半々だから、
自分という人間を
わかってもらうように話さないと
相手も話してくれません。
話すことを用意したほうがいいよ」
とか。 |
糸井 |
タメになるなぁ、そのとおりだ。
そのイベントは
どんな経緯で作られたんですか。 |
塩野 |
林野庁が森林で働く職人を
表彰したいと考えて
「森で実際に働く人を
今まで大事にしてこなかった。
まずは森に
どんな職人がいるかを知るために
あなたの本を読んできた」
とぼくを訪ねてきてくれました。
でもぼくは、
賞状をあげても仕方がないと言いました。
「表彰するぐらいなら
孫の世代に
その人たちの人生を
書きとらせてあげたほうが
本人も喜ぶし、
話を聞く高校生たちも
初めての話に何かを感じるだろう。
もしやる気があるなら
『聞き書き甲子園』
という言葉をあげますから、
予算を用意してください」
それで林野庁と文部科学省、
NPO、さまざまな企業の応援を得て
はじまったのです。
なにしろ百人の高校生を
東京に呼ばなければならないでしょ。
それに高校生を名人たちのところに
派遣しなければならないし、
まとまったら
文集に仕上げなくてはならない。
お金とボランティアの方々の
協力なくしてはできませんからね。 |
糸井 |
おもしろそうですね。
どんなことを教えてるんですか? |
塩野 |
三泊四日の研修では、
高校生と一緒に合宿して話を聞くって
どういうことかから
テープ起こし、文のまとめかたまで、
実習を含めてやるんです。
彼らは帰ったら自分一人で
会ったことのない
おじいさんやおばあさんに
話を聞きに行かなければなりませんからね。
話を聞きに行くなんて
簡単そうだけど、
実際にはなかなか難しいことでね、
唯雑談して帰ってきたのでは
聞き書きにならないでしょ。
ですからとにかく
「具体的に話を聞くんだよ。
人の人生はディティールにこそ
おもしろさがあるんだからね」って。
例えば種採りという仕事があるんです。
その人に高校生が会いに行くとすれば、
「杉の木を植える時は、
母樹という木に
おじいさんが登って
たくさんタネを集めてきて、
それを蒔いて苗をつくるんだよ」
と話したときに
「あ、そうですか」
で終わると、話はそこでお終いです。
だけど、
「種ってどんな形で、何センチ?
木にはどう登るんですか?
種は何に入れて持ってくるんですか。
季節は? 木の選び方は?
落ちたことありますか?」
とわからないことを
具体的に聞きなさいと教えます。
|
|
(明日に、つづきます) |