糸井 |
萩本さんは、すごく早い段階で、
組織をお作りになられましたよね。
まず、パジャマ党という放送作家の集まりを、
ずいぶんはやくからお作りになって……
「ひとりでは、
めんどくさくてやらないことを、
おおぜいでワイワイやっているとできる」
そういう組織を作るという発想自体が、
「すごいなぁ!」と思うんです。
芸人は、職人の世界という面もあるでしょうけど、
芸を磨くところにだけ、つっこんでいくと、
「俺の腕は誰にもわからないぐらいすごいんだ」
というところに、かならずいくんだと思います。
「この腕をわかってる人間は、
日本でも、もう3人しかいないんだ!」
「誰も笑えないけど、ほんとはおかしい」
そういうところを避けるのが、
萩本さんはじょうずで。最初から
「職人としての自分」を捨てていた……
それは、なんで、できたのですか? |
萩本 |
ぼくは割に、
発想が「ダメ」から入るんです。
ダメな仲間を、集めたいっていうんですか。
だから、ここにいる土屋くんに
いちばん最初に日テレで会ったとき、
「こいつ、ダメなやつだなぁ」と……。
あ、仲間にすぐ入れたいと、すごく思いました。 |
糸井 |
ダメなやつは、何がいいんですか? |
萩本 |
ダメなやつは、
「こんちくしょう、こんちくしょう」
ってね、連呼してるの。
でも、声には出さないんです。
ダメなやつの声は、
ぜんぶウソを言うんですよ。
ぶたれたときにも、心のなかでは、
「こんちくしょう!」と言ってんだけど、
実際に出す声は「ごめんね」だったりする。
それは、もう、知らずに出るの。
これが、ほんとのアドリブなんです。
アドリブってのは、
自分の思ってないことを、
ふっと言うことなんですよね。
だから、アドリブのことを
即席の言葉という人もいるんだけど、
そうじゃないと思います。
「自分も想像つかない言葉が出ちゃう」
っていう……。 |
糸井 |
自分の中に、納戸があるんですよね。
そこに、自分じゃない人が
しまったものまで、入ってるんですよね。 |
萩本 |
(笑) |
糸井 |
叩かれると、開いちゃう。
確かに、ダメな人の方が、
納戸が大きそうですよね。 |
萩本 |
自分で自分を
びっくりさせるやつって、
おかしいんです。
そういう力は、大きい。 |
糸井 |
それは萩本さんにも、あることですよね? |
萩本 |
はい。
だって、
尊敬する人をきかれて
「チャップリン!」と言うんだから。
「なんで言っちゃったの?」
あとで悩むんだけど、
このウソをバレないように
しなきゃいけないから、ということで
また、なんだかウロウロするという……
そういうパワーってのは、ありますね。 |
糸井 |
役に立ちそうな人とか、
ダメじゃなさそうな人って、
ぜんぶの部屋を
「こちらです」と案内できる、
みたいなところがありますよね。
案内されても、
「ご立派なお家ですね、さようなら」
みたいになっちゃうけど、
ダメな人の頭の中を訪問したら、
「いや、そこは見ないで下さい」
みたいな余地が、たくさんあるから。 |
萩本 |
そのほうが、見て、考えるのに、
相手にとって、不足がないんです。
運転手をしていても、
アドリブを飛ばすやつって、
ふつうとは違う乗りかたになる。
ぼくのまわりに、
どうしても左に寄る運転手がいて、
「おいおい、溝があるけど、
寄ってるっていうのは、知ってる?」
そう言ったら、
「ああ、そうですか。
知りません。ぼく、鳥目なんです」
……こうなると、急に、毎日、
「生きてる!」という感じがあるよね。 |
糸井 |
(笑)すごい。 |
萩本 |
クルマって、
乗ったら寝るもんだと思ってたけど、
そいつが運転手になってからは、
寝られなくなりましたから……。
「おいおい、寄ってるよ、寄ってるよ」
ずーっと、3年ぐらい言ってましたけど。
そいつが辞めるっていったとき、
「なんだ、辞めちゃうのかい?」
と言いながら、心ではホッとしていて……。
だけど、やっぱり人生の中で、ある神経を、
いつもこう尖らせてくれた人だっていうか。 |
糸井 |
つまり、萩本さんは、
そういう人ばかりを
呼び寄せているわけですね。 |
萩本 |
そうです。
そういうやつが、何かやってくれたときは、
気持ちよく泣けるっていうの、ありますよね。
そいつがやったら、
3倍ぐらい、うれしいんですよ。
それから、
できる人に何かやってもらったら、
「ありがとうございます」
って頭を下げちゃうんだけど、
ダメなやつに、
何かすぐれたことをしてもらっても、
頭を下げなくて済むの。
心の中でね、
「あぁ、めちゃめちゃもうかった」
その「もうかった」しかないんです。
「ありがとう」と言わないでよくて、
「もうかった!」と言えるというのはいい。 |
糸井 |
そいつへの判断が、
どん底からスタートしてるわけだから。 |
萩本 |
そうなると、
仕事というか人生が、
ウキウキしていられるっていうか。 |
糸井 |
パジャマ党という放送作家の集団は、
優秀な人を集めたんでも何でもないんですか? |
萩本 |
そうです。
もっとおバカちゃんになるように、
学校も、全員、中退してもらったんです。
「お利口だと、
ぼくがおまえらに使われちゃう。
中退なら互角だから、
俺と、互角になってくれよ。
そのかわり、中退したら就職できないよ。
ここで、生きていってね」
そしたら、あいつら、そうですかって、
みんな、中退したから。 |
糸井 |
そのときに、
「こいつらにメシを食わしてやる」
という自信は、あったんですか? |
萩本 |
それは、100%ありましたね。 |
糸井 |
うわぁ、すごい!
それは、どういうことなんですか? |
|
(明日に、つづきます) |