糸井 |
萩本さんは、小さい頃は、
どういう子どもだったんですか? |
萩本 |
ヨイショっ子。
平和が大好き、というんですか?
ガキ大将が
「ベーゴマやろうか?」と言うと
「ベーゴマいいっすね」とすぐにかえす。
「ビー玉もいいなぁ」
「ぼくもどういうわけかビー玉だ」
つまり、
ぼくが何したいかって意見は、いっさいない。
鉄砲隊ゴッコをしようということになって、
2手に分かれるっていったときにも、
「おう、欽ちゃんはこっちだ」と、
ガキ大将に呼ばれることがうれしいという。
そういう、子ども時代を生きましたからね。
おとなしい子、でしたよ。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
コメディアンになったときも、
あんまりしゃべらないものだから、
「ふつう、コメディアンだと
おかしいこと言うんだけどね。
おまえ、半年経って
ふつうの人って、珍しいよ。
向かないよ」
そう言われましたからね。
「しゃべりもしないし、おかしいこともしない。
それじゃ、おまえ、不可能だよ」
と、演出家の先生からは、言われて。
そのときに、
ぼくはあんまり逆らわないんですよね。
ああ、やっぱり、無理とはわかってたけど……。
人にも言われて、
無理の二乗になっちゃった。
これはとにかくやめなきゃいけない、と。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
すぐに「やめる」と結論を出しました。
結論を出したにも関わらず、
運なんでしょうね……
ぼくのしょんぼりした顔見て、先輩が、
「おまえ、どうしたんだ?」
「いや、今、
やめろって通告受けちゃった」
「おい、ちょっと待ってろ」
しばらくしたら、
先輩が戻ってきて、
「あ、心配するな。もうちょっとやれ」
助けてくれたんです。
「あぁ、先輩の洗濯をしておいてよかった。
なんでこんなことをしなきゃいけないんだ、
と思っていたけど、あれは、よかったんだ」
そんなことを思いまして。 |
糸井 |
なんだか、
グズな話なのに感動的ですね。 |
萩本 |
(笑)
あぁ、助けてもらった!
その連続です。
だから、人がいない限りは、ダメですね。 |
土屋 |
大将は、いつも、
人のことをよく見ていますよね。
「絶対に見えていないはずのところで
やっていることを、
なぜか、知っている」
ということが、何度かありましたけど、
あれは、なんでしょうか? |
萩本 |
人間って、直接
こう向かっているときは、その人間が
ほんとに見えるってことがないですね。
どんなに、しゃべっていても……。
テレビ局で会う人たちも、
見えるところで、
「あの人は、いい才能を持っている」
と思うんじゃなくて、
「いなくてもいいのにいるやつ」
の顔だとか、
「カメラマンのうしろで
コードをおさえているやつ」
の顔が、かがやいているかどうか。
それが、数字に出るんじゃないですか?
「興味を持っている」という若者が、
かならず、何かをやっていきますから。
若い人と話していると、
「ぼくにはできないですけど、
でも……やってみたいんですよね」
こう言う人って、すぐれもの、なんです。
「待ってました!
ぼくはこの仕事がしたいと思ってた」
これは、ハズし、ですよね。
作家も、おもしろいコントを作るやつほど、
ずっと「かんべんしてください」と言うんです。
「おまえ、何やりたいんだ?」
「マージャン屋の亭主です」
「ダメだよ、作家で入れたんだから」
「いや、あの、ぼくはそれはダメです。
字が書けないんですから」
実際、書かせると、ほんとに読めない字。
でも、
「うちに来たってことは、
もう、作家なんだから」
と説得して。 |
糸井 |
他のポストは、ないんですもんね。 |
萩本 |
半年とか1年で、出てくやつもいるなかで、
そいつは、5年いましたから。
「なんで、出ていかないんだよ?」
「だって、わかんないんだもん……」
でも、そいつが今、
いちばん、おかしいのを書いていますね。 |
糸井 |
萩本さんは、作家のほかに、
コメディアンのお弟子さんはいないんですか? |
萩本 |
コメディアンの弟子は、とってないです。 |
糸井 |
つまり、
どんなに何もできない人でもなんでも、
とにかく放送作家になるためにいるんですね。 |
萩本 |
そうです。
コメディアンの気持ちを伝えて、
それを文字にするための集団ですから。
「いま言ったこと、おかしいか?」
「おかしいですね」
「じゃあ、それ、書きゃいいんだよ」
「コント8本書いてこいって
仕事がきちゃったんだけどできません。
すいません、急いで、おねがいします」
「えーっと、じゃ、何とかのコント」
しゃべったら、
「それ、最高ですね」
それで、2年ぐらい仕事してましたね。
そいつは、それをテレビ局に持っていって。
「これはおもしろくないね」
「そうですか? カットしていいですから」
簡単ですよね、
自分で考えたんじゃないんだから。
あるとき、作家のうちのひとりが、
「そのコントに辿り着くまでを教えてくれ」
と言うんです。
「え? ちょっと待てよ。
コントを頼まれたときに、
オレ、どうしていたっけなぁ。
目が上にいって、
パッと見たら電話が見えた。
電話で、なんかないかなと思ったから、
ゲタの隣に並べてみた。
だけど、ギャグになりそうにないんで、
外に出たの。
それで外にいろいろ電話をおくうちに、
ぶちあたったんだよ」
そうやって、過程を伝えたんだけど、
そこにいたうちのひとりが、
「……すみません。
頭のなかで、電話を持って歩いたんですが、
北海道まで行ったんですけど、
まだ、ネタが出ません」
俺も、北海道の先までは行ってないから、
それはわからない、と。
弱っちゃいましたけど。 |
糸井 |
すごいなぁ。
その人は、お元気ですか? |
萩本 |
元気、元気。
今、さんまちゃんの番組をやってるんです。
大岩賞介、というやつなんですけど。
そいつが、いちばんおかしいです。 |
糸井 |
そういうかたがたは、
もともと、おもしろいかどうか、
わからない状態で、いたわけですか? |
萩本 |
わかんないですよ。 |
糸井 |
一緒に暮らしてるうちに、
何とかなるっていう自信があったんですね。 |
萩本 |
何とか、なりますよ。
つまり、こいつらは
「なろう」と思っていないから。
「なろう」と思ってる人って、
扱うのが、むずかしいんです。
でも、ひとつも
なろうと思ってないやつらなら、
あとは、だませばいいんですから。
「作家、いいんじゃない?
作家は最高だよ。
だって、ほとんどの作家は、
だいたい2年ぐらいで、
河口湖のほうに別荘持ってるよ?」
「あ、そんなに簡単なんですか?」
「簡単、簡単。すごい簡単。
別荘が近くにあるんだ」
「あ、一応やってみますか」
そういうことになる。 |
糸井 |
(笑) |
|
(明日に、つづきます) |