欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

運をためる、ということ。


萩本 作家は、最初は、だまして、
連れてきちゃうわけですが、

しかも、早いところ、
だまされたことに気づくと、いいんです。

「だまされていませんか?」
そう言うやつは、
いいものを書くようにはなれないですね。

明らかに、だまされているんだけど、
だまされています、
とは言えないやつがいいの。

心のなかで、
「だまされているけど、
 ぼく、ここでメシを食っちゃったんで……」
こうやって、グズグズ思っていますよね。

「何がいいたいんだ?」
「いや、なんでもないです!」

これも、さっき話していたような、
「不本意な人生だから、いい」なんです。

それで、自分で、自分のことを、
すぐれていると思っていないとしたら、
「その人」なんです、ぼくが待っていたのは。

自分のことを、ダメだと思っているから、
自分の思いを、ひっこめているんです。
何度も、何度も、ひっこめている。
……そうすると、運が、たまっているんです。


ぼくは、運は、ためないと、ダメなんだと思う。
石の上にも3年って、あれはウソですから。
ぼくのところは、5年間ですよ。
5年間は、ずっと、痛めつけているわけ。

月給は出さない。
小遣いは……
マージャンで勝ったらあげる。
糸井 (笑)ものすごく大変ですね、それで5年間は。
萩本 ええ。

それでもやめないやつらは、力がある。

どうして力になるかというと、
そいつらは、仕事がくると、
「仕事だ!」
ものすごく、よろこんで、やるんですよね。

よろこんで仕事をやったら、うまくいく。


だから、5年間の間は、
実は言いたいんですよ。

「ちょっと、痛い目に会わせているけど、
 これは運をためてるんだよ」

でも、言っちゃったら
何にもなんないですからね。
それは、言わないでね、心の中で、
「やめないでね」
「やめなきゃいいことあるから、やめなきゃ」
そう思ってる。

でも、みんな、やめたやつ、いないんですよね。
糸井 へぇー。
萩本 あんないい職場に、
こんないいコネを持ってるって、
とてつもないですよ。

テレビ局にも、
「どうも。あ、ウチのなんだよ」
といって、連れていってもらえる。
何気ないことだけど、大変なことですよ?
糸井 後ろ盾は、重要なんですよね。
萩本 そうでしょう?
向こうのディレクターだって、
あいさつをしてくれる。

若い作家志望者が、
自分ひとりで日テレに行って、たとえば、
「すいません、土屋さんに会わせてください」
と言ったって「なんだ?」と言われるわけで。

コネを使うということを、
「ありがてぇ!」と感じたら……可能性は高い。

テレビを作るのにも、
いい企画は、どう考えるかなんてことは、
ぼくは、ひとつも教えてないですね。

「5年いるとね、運がつくんだよ」

ぼくがやることは、それだけ。
だから、5年経ったら、涙を流しますもんね。

「おまえ、何年経った?
 そうか。
 おまえ、最悪だったろ。つらかったろ。
 でも、明日から、作家」


ほんとに、涙をポロッと。
糸井 刑期が明けた、みたいな話ですね。
萩本 ええ、ポロッと流します。
糸井 うれしいでしょうねぇ。
萩本 「もう、あとは、正直言って、教えることない。
 あとは、テレビ局の人に教えてもらってこい」
糸井 江戸時代の話みたいで、いいなぁ。
萩本 5年間も仕事をさせないと、
「俺、なんでここに来たんだろう?」
と、いろいろ疑問を持ちますよ。

たくさん、疑問を持って、
それをぼくに言えないっていう……
これが、いいんですよ。


「ですから、やめたいと思います」
そのひとことが、言えないの。

言いたくても、言えない様子を見ると、
追いつめられて、
手を出すんじゃないかとか、
こちらも、いろんなことを、考えますね。
糸井 はじめには、
何にもできなかったかもしれないけど、
そういう過程があって、
結局は、できてきたんですよね。

センスがいいかわるいかを
分けているのって、
「わかりのはやさ程度」
のことだろうから、ゆっくりでも、
5年かけて、感覚を、わかっててくれれば、
それでよかったんだ、というか。
萩本 ぼくのところにいたやつらは、
できちゃったんですね。

大岩賞介は、
最初に作ったのが『週刊欽曜日』ですから。

ぼくが作ったんじゃないんですもんね。
それもずるいでしょう?
テレビ界では、
ぼくが作ったようにいわれてるけど、
ほんとうは、育てたところの力なんです。

他の番組も、みんな、
欽ちゃんが作ったということに
なっちゃってますからね。
……でも、あいつが、作ったんだ。

でも、5年しごいてますから、
あいつのほうも、外に行っても、
「ぼくが作ったんです」なんて言わない。
糸井 それ、理想の関係だと思うんです。

自分が消えるのに、
自分の遺伝子が残るって、
もう、世界征服に近いことですよね?
萩本 最高でしょう?

君塚なんか、10年いましたからね。
(『踊る大捜査線』
 『ずっとあなたが好きだった』
 などの脚本家の君塚良一さんのこと)
糸井 ものすごいことですよね(笑)。
土屋 だから、
鉄の結束みたいなところがありますよね。
大岩さんから、君塚さんに至るまで、
あれだけ固い絆を、見たことがないです。
糸井 へぇー。
土屋 大将に聞いた話のなかには、
「運を、ギャンブルに使いすぎちゃいけないよ」
という教えが、あるわけです。

仕事を、最終的に取るためには、
そういうところで勝ちすぎちゃいけないんだよ、
という話が、ひとつ、ありまして。
萩本 運は、ふらふらしてるわけです。
その運は、使わないといけない。
だからいまはギャンブルをやりますが、
テレビをやってるときは、
ぼくは、競馬も何もしません。

競馬が当たったら、
数字、いかないですもんね。

やっぱりね、
そんなにすべてはうまくいかないですよ。
競馬が当たって、数字もいくってことは、
ないと思います。

やっぱり……
つまり、何に勝負してるかっていうか。
勝負ってのは、ひとつだと思いますね。


だから、
自分ではっきり、「勝負はこれだ」と、
決めたところでしかやるべきではない。
糸井 「ついでに稼ぐ」ってことはないんですね。
萩本 「ついで」は、ないですね。

テレビをやっているときは、
百円拾っても、
とにかく誰かに渡しちゃいました。

これを手にすると、運を使っちゃう。
ここはいちばん、我慢しなきゃ、と。

なんか、どっかで
誰かが見てるって気がするのね。
運の神さまがいるような気がするんだ。

どうしてもわかんないのは、
「世界中で、いるかもわからないし、
 見えもしない神さまに、手をあわせる」
ということ。

いるかいないかわからないものに、
みんなが惹きつけられているという、
「その惹きつけは、何なのさ!」と思うんです。

銀座も、事前に打ちあわせをしなくても、
だいたい、1年じゅう、
まんべんない人数が、銀座を歩いている……。
「1日だけ、ぎゅうぎゅうづめ」にはならない。
病院にも、おなじような人数がやってきている。

予定なしでアドリブでいくと、
あんなにうまくいくっていうのは、何だろう?

だから、
「そういう順番が来ているんだ」
ということは、あると思ったりも、するんです。
  (次回に、つづきます)

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2004-09-17-FRI

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