糸井 |
ぼくは、巨人ファンなんですが、
なんか、いま、
「巨人のなにを応援していいかわからない」
という言いかたをしているんです。
原監督のときまでは、
応援したいところがあったんです。
若いコーチ陣を集めて、
「いままでつかんだものを、
ぜんぶ出して、勉強しようぜ!」
という雰囲気があったから、ぼくは、
そこを見ようと思ってたのしんでいました。
いまは、ヘラブナ釣りみたいな野球で……
ヘラブナ釣りって、監視員みたいな
「目の釣り」なんです。
たのしいことは、たのしいんですけど、
体全体で
たのしんでは、いない釣りと言うか……。
自分のほうから動かないと取りにいけない
ルアーの釣りみたいな
おもしろさは、ないんです。
スポーツも、止まっているものだけを
見るんじゃなくて、自分が動く側に立って
たのしみたい、という気持ちがあるものですから。 |
萩本 |
野球をやっている人たちだけで、
野球というスポーツを作っていくと、
どんどん、後退していくでしょうね。
演出家がいないから。
野球監督も、
野球演出家にしたほうが
いいんじゃないかと思う。
監督というと、
えらそうに指図をしそうだけど、
演出って、ちょっと自由じゃない?
「ちょっと、やってごらんよ」ですから。
競馬は、昔はバクチだったんだけど、
フジテレビが、競馬中継のおわりに、
優勝馬の走るシーンに音楽を流しただけで、
一気に、バクチからスポーツになったんです。
あれは、テレビの演出家が、いたんですよね。
音楽を流して、スローモーションにして、
優勝馬が走るシーンは、なんと美しいか、と。
あの競馬中継と、それからもうひとつ、
高倉健さんが出てくれたということとで、
競馬は、バクチからスポーツになったんです。
だから、演出家がいない野球が
これからどうなるかは、こわいんです。
つまり、絵が、たくさん必要なんですよ。
野球ニュースを見ていても、
もうみんな、絵が一緒になってきている。
そこを、やっぱり変化させていかないと。 |
糸井 |
いまは、スポーツの素の魅力で
なんとかなると思いこんでいた
中継スタッフたちがやっている、
ということなんでしょうね。 |
萩本 |
ええ。
だけど、もう、
それ自体の魅力でやっていける時代は、
終わりました。 |
糸井 |
そうだよなぁ。
自分たちだけがたのしいスポーツなら、
お客さんに見せる必要がないですもんね。 |
萩本 |
たとえば、糸井さんが、いつも、
秘書みたいに監督の横にいるだとか。
「あ、糸井さん、来てるよ。
監督と何を話してるんだろう?」
そういう見どころがあるだけで、
テレビの数字は、ありますから。
野球だけを見せようとすると、
お客さんを無視することになるでしょう?
たとえば、10対1で負けている試合。
監督からすれば、
130分の1かもしれないけど、
お客さんは、来ているんだから、
そこで、たのしませないといけない。
負け試合だから、
だらしないピッチャーを出すんじゃなくて、
逆なんです。
お客さんにもうしわけないから、
たとえば巨人なら、
「明日出るはずの上原を出せ!
3球だけ、投げる姿をお客さんに見せよう」
とか……。
点数が離れてるダメな試合を
どう見せるかっていうのは、
監督にはできないですよ。演出じゃないと。
あんなに広いところで試合をしているのに、
撮れない絵が多すぎるんです。
「三振したときにも、
泣くのか、がっかりするのか、
はっきりしろよ」
と、選手には言っておくだとか。
ぼくだったら、マイクもつけておくね。
三振しても、
「ばかやろう……!
俺、俺、もう、野球……」
とつぶやく悔しさ。
それが、テレビから伝われば、
「おまえ、やめろ! このやろう!」
とヤジを飛ばしながらも、
お客さんは、今度はその三振が見たくなる。
ヒットを打ったりすると、
「あぁ、今日は
あのメソメソした声が聞こえないんだ」
と、がっかりしたりして。 |
糸井 |
それは、見たい。
やればやれるんですよね。 |
萩本 |
「いま、球なんか追うんじゃない!
あそこで悔しがっている監督を撮れ!」
とか、ディレクターが、走りまわればいい。
前に、野球の試合で
ベンチに入れてもらったことがあって、
そのとき、雨が降ったんです。
雨が降って中断しているものだから、
お客さんがダレてるの。ヒマそうなのよ。
だから、
「あ、この人たちをたのしませなきゃ!」
と思って、ぼく、外に出ていって、
雨のグラウンドで、ずっとすべっていたんです。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
そしたら、怒られました。
「神聖な場所に入るな」と。
ぼくは、
「そのことよりも、
あなたたちが呼んだ
お客さんがダレてるんだ。
ぼくの仕事から言うと、
もう見るに見かねる状態だから、
それで走ったんだ」と言ったのね。
規則があるかもしれないけれども、
「お客さんのことって、
考えたことはないんですか?」
と心のなかで思いながら、
すいませんと、あやまりました。
次の日に、みんなから、言われたの。
「昨日、神宮でなにやってたの?」
「なんで?」
「野球の中継が、
欽ちゃん中継になってたよ」
その日の巨人戦がどうだっていうのは、
誰も言わないの。
タクシーに乗っても、
「昨日、走ってただろう?
ラジオで、走っているって聞いてたよ」
走る姿を、ラジオで聞いたっていうんです。 |
糸井 |
そういうのって、
噂だけでもおもしろいですよね。 |
萩本 |
野球好きじゃない人も、
テレビをたまたま見たら、
「あれ、欽ちゃんが、
雨のなかを、
1塁から2塁に走ってる!」
だから、見るのであって。
テレビって、
見てる人が、どう見ているのか、
っていうのが、大事なんだから。 |
糸井 |
萩本さんが演出家だったら、
ぜんぜん野球について指示を出さないのに、
途中で、マウンドまで、わざわざ行くとか。 |
萩本 |
そうそう、そうです。 |
糸井 |
「元気?」みたいなことを言って。 |
萩本 |
「あれ、何しゃべってんの?」
って、みんなは、聞くじゃないですか。
だから、聞いて納得するようなことを言う。
選手のほうも、
「あそこの会話、けっこうたのしいのよ」
と、言葉がおもしろければいいですよね。
いまの中継は、言葉がつまらないでしょう? |
糸井 |
チームに「軍」とついてるだけあって、
命に関わるというような物事になっていて、
だから「神聖なる」とかいう
言葉が出てきちゃうんでしょうねぇ……。 |
萩本 |
うん。
それだと、
ハプニングのドラマだと言われる野球に、
ハプニングなんて、起こらないですよ。
自分で、起こらないようにしてるんだから。
大リーグがすごいのは、
お客さんが、ファウルグラウンドから、
中に入れそうなぐらい、フェンスが低いところ。
入りそうなのに、入らないままやっている。
あれは、ドキドキしていいよね。
入りそうでありながら入らないっていうのは、
「なんといい国民だろう」と思う。
日本人の観客は、フェンスを低くしたら、
「入りそうだ」と、思われているんですよ。 |
糸井 |
それは、日本の人が、世界の中でも
酒が弱いってことが出てるんでしょうねぇ。 |
萩本 |
確かに、日本人なら、
酒を飲んで、7回ぐらいになったら、
フェンスをまたぐぐらいなら入るでしょうね。
だから、大リーグを見ていると、
日本の野球がかなしくなるところはあります。 |
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(明日に、つづきます) |